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「…言っておきますけど。私は『神様が与えた試練なんだから、エルフどもの鬼畜ぶりに人為的に歯止めをかけてはいけない』などとは思わないんですよ」
「はぁ?なんでだよ?神意に逆らう気か?」
「『神意』?…始祖達の語る『神様』なんて所詮は【管理者】なんですよ?彼らは全知全能な崇められるべき神とは違う。
【管理者】は人間達が安定的に創造エネルギーを発生させてくれて、それを搾取できて、そのエネルギーで【世界】の維持ができれば良いと思ってるだけの存在です。
私達の味方でもなければ敵でもない。その意志に背いても、結果論的に、人々が創造エネルギーを安定的に生産してくれれば良いだけの事です」
「…俺にはその創造エネルギー云々ってのが解らないんだがな?」
「…人間の側が超自然的調整者の存在を想定し、それに全権を委ねる事にして『全ては公平に裁かれる』と信じ、期待し、生きる希望を掻き立て、工夫や努力の余地を人生に見い出し続ける事で魂から放出され続けるエネルギーの事です」
「本当に存在してるのか?そんなエネルギーが」
「魂のような半物質とその関連エネルギーを可視化できる特別な視覚は『心眼』と呼ばれるもので、『魔眼』とは違います。
なので魂も創造エネルギーも私には見えませんが…【覚醒者】の間では『存在する』と言われています…」
「要するに、本当に有るかどうかも分からないエネルギーの生産が『為されれば良いんだ』という事を根拠にして、お前は神意に逆らって、エルフ達を過剰に懲らしめたいって事なんだな?」
「…エルフが好き放題に罪を犯しながら、罪を罪とも思わず自分達を美化するのは、おそらく自分達に『聖人の試練』が降りかかっているのだと、何も知らないからなのでは?
あの連中は人の魂というものに関して、おそらく何も知らない…」
「ああいう欲と欺瞞まみれの人種は自ら進んで煉獄へと堕ちていく運命なんだ…」
「敢えて連中が外道に堕ちるがまま放置するのですか?自分さえエルフ達の被害に遭わなければ良いのだと?」
「…お前の場合はどうだったか知らないが、俺達貴種は、教育の課程で『聖人の試練』について聞かされて、『無駄に人間を殺してはならない』と自戒を教え込まれる。
『転生』という現象に関しても教えられて『魔物のように人間を無駄に殺した貴種は来世からはゴブリンのような醜くて弱い魔物に延々転生させられる煉獄へ堕ちる』と刷り込まれる」
「…『聖人の試練』が『試練』なのは、人道から大きく逸れた場合にペナルティーがあるからなんですね?」
「そうなんだろうな。…お前の言う『心眼』はイアン様やアルバート先生が持っているもので、『心眼』で魂の粒子やら自我の粒子やらを見れば、知人が死んで別の生き物に転生した場合にも、それが分かるんだそうだ。
実際に人間や亜人が魔物や家畜に生まれ変わっているらしい。ただそうやって生まれ変わった転生先に上手く定着できない魂もあるという話だ。
エルフだった魂の多くがゴブリンや食肉用家畜へ転生しているらしいが…何故か転生先に上手く定着できない魂も多くて、そういう個体はすぐ死んでしまうらしい。
ペナルティー転生のペナルティーが充分に機能していないんだそうだ」
「…何故、定着できないのか原因は分かってるんですか?」
「さぁ。原因が分かる者が居るとしたら、それこそ神のみだろう?俺達がそれを知る事はない。
だからこそ推理と検証を繰り返すしかないんじゃないのか?
アルバート先生は『エルフの多くが罪を罪だと認識できていない』という問題を挙げている」
「…エルフは筋金入りの鬼畜ですよ。そもそも罪を罪だと認識できないから、エルフはあんなにも組織的に集団で自己美化しながら鬼畜行為を正当化し続けられるんじゃないでしょうか?
それが原因でペナルティーが充分に機能していないのだとしたら、この世のペナルティーは随分と愚か者に甘い仕様なんですねって事になると思います」
「俺はエルフが『罪を罪だと認識できない』という考え方には実は懐疑的なんだ。
お前には分からないだろうが、エルフという人種は俺達貴種からは想像もつかないくらいに欲深い。
連中は貴種から先ず変身術を盗み、変身術を使い続ける為に貴種の血を欲し続けて、尚且つ自分達の鬼畜ぶりが人間達に認識されずに済むように貴種を悪魔化する偏見を捏造して広めた。
一方で自分達に関しては偽りの美で飾り『美形種族』という虚構を生み出し、人間達から憧れられるように風潮を創り上げてきた。
そんな連中、真実が真実として人間達の間で広められれば、これまで盗みと欺きで獲得してきた資産や信用を全て失う。
この国の鬼畜なエルフ達が『罪を罪だと認めて大人しくグレイス王国から出てゆき、元いたオルテガ国の辺鄙な森へと帰っていく』筈がない。
奴らは罪を罪だと指摘されて、潜在的には罪を自覚しても、欲を捨てきれずに自分達の創り出した虚構を信じて煉獄へ堕ちる道へ向かうさ。
俺達は変にエルフを憎み返して、ああいう生き物に過剰制裁を加えるべきじゃないんだ。
ただ『やられたらやり返す』という事だけを繰り返して、敢えて後手に回って対処し続けるしかないんだよ。
地獄へ続く道をエルフ専用にして、貴種から食肉用家畜へ転生する者を出さないようにする為にはな」
「…随分と悪どい専守防衛ですね」
「どうだろうな。エルフという生き物は『聖人の試練』というものの存在を知らず、『心眼』を持つ仲間を持たず、真実から目を背けて魂レベルで御都合主義の虚構にしがみついて自己像粉飾して集団で組織的に嘘と悪を極める生き物だぞ。
元々『煉獄へ堕ちるべき生き物だった』から、煉獄へと繋がる悪魔の誘惑に真っ逆さまに堕ちていくんだ。
愚か過ぎるそんな生き物、誰にも救えないさ。ああいう狂人集団と向き合ってマトモに憎み合えば、こっちまで地獄と縁ができてしまいかねない」
「…でも、本当にイアンおじ様とアルバート先生は『心眼』持ちなんでしょうか?」
「…俺は潜在的記憶まで読める読心術師だからな。嘘と事実との区別はつく。
…読心術は『概念のないものは読めない』ので、『心眼』持ちが『心眼』を使って見る景色を共有はできないんだが、それでも彼らの心が『読めない』時には、昏い宇宙空間のようなものが見えてくるんだ。
怖いくらいに美しい、冷たい、昏い宇宙だ。嘘とも妄想とも違う、得体の知れない視覚だよ…」
「…アルバート先生は私には『心眼』持ちだなんて教えてくれませんでした」
「…彼が『お前の』家庭教師だった事はないだろう?元々ジャンが教えてもらっていた時にお前が便乗して習っていただけだ」
「私、あの人の事、何も知らないんですよね…。何歳なのかも知らない…」
改めて、自分が情報規制された中で生きてきた事を実感した…。




