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戦闘向きのエルフはあらかた捕まった筈だが…
捕まった者の中にイーリーが居ないのは気になる…。
(あの女は危険だ…)
と本能が告げている。
(早く捕まって処刑されてくれれば良いのに…)
と、心からイーリーの死を願ってしまう。
学院に居た頃からイーリーは他人を加害者に仕立て上げて冤罪を捏造する名人だったが…
今もそうした
「被害者ポジション先取りのための冤罪捏造気質」
は健在なのだと思う。
おそらくはエルフ達が共有している
「嘘まみれの現実認識」
の中で
「私という存在は悪魔化されている」
筈だ。
(あの女の死体を目にするまでは安心できない…)
と思ってしまう不安な日々を送りながら…
「アルバート先生が学院が休みの日には面会に来てくれる」
のが荒んだ日々の中での救いだった。
本当に、そう思っていたのだがーー
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その日はーー
エヴェリー・モルガンが婚約者のミカエラ・モデスティーに会いに来ていた日らしく、エヴェリーと、エヴェリーの護衛のヴィクター・モルガンを見かけた。
ヴィクターという男の嫌な所は、こちらが
(あ、ヴィクターだ…)
と気が付くと、瞬時に向こうもこちらに気が付いて、すかさずこちらに目を向けてくるので…
「発見時には必ず目があってしまう」
という所だ。
モルガン侯爵城で暮らしていた頃からそうだった…。
話しかけられることもなく無視され続けているので
(気にせずにいよう)
と思えば我慢できていたのだが…
その日のヴィクターは、目があった途端にこちらの方へツカツカ歩いて来たので
(え?こっち来ないでよ!)
と腹立たしくなった。
「…ご機嫌よう。ヴィクター卿」
と俯いて挨拶すると
「ご機嫌よう」
と返事が返ってきた。
(珍しい。いつも無視するくせに…)
「…今日はこうやって偶然、お前と王城内で遭遇する予感があったんだ。やっぱりダンカンと交代して俺が来て良かった」
ヴィクターのような読心術師にそんな事を言われるのは不気味だ。
絶対何か嫌な事を言って牽制や脅迫を仕掛けてくるのに違いない。
「…それにしても、お前、本当に閉心術ができないんだな。読心術師の前で相手に対する敵意と不信感を丸出しにするのは『慎みがない』と自分で思わないのか?」
と、勝手に他人の内心を覗いて回る覗き魔が宣うのだから腹が立つ。
「…お言葉の意味が判りません」
(覗き魔に覗かせない技術を身につける慎みなんて、覗き魔が覗かなければわざわざ必要になるものでもない筈なんだけど…)
「…お前みたいなヤツは読心術師の苦労なんて全く分からないんだろうなぁ。
…そもそもこっちは他人の内心の声なんて、いちいち聞きたくないんだよ。
どうせくだらない事しか考えてないんだから、足りない頭で色々考えようとするなよって話なんだ。こっちからすると」
「聞きたくないなら聞かなければ良いのでは?」
「ああ、普段は遮断するように気を付けてるさ。だが不審者がいつ狙って来るか分からない環境だと、そうもいかないだろう?
北部に居た頃はフィリスが側にいる時だけ能力開放してて、それ以外の時には基本的に遮断して過ごせてたから精神的にすごい楽だったんだがな。
王都に来て以来、ずっと遮断無しで不審者探しし続けてるんだから、いい加減精神的に限界が近づいてて、こっちも余裕がなくなってきてるんだ。
お前の感情にいちいち寄り添ってもやれないからといって、逆恨みするような真似はするなよ?」
「私は別に逆恨みなんてしてませんよ。逆恨みはエルフの特技だし、そんな特技を横取りする気はありません」
「お前のエルフ嫌いが筋金入り過ぎて心配だよ。お前、回収できた遺産の5割を王家に差し出す契約だそうだな?
そんな風に大金ばら撒いてでもエルフどもを奴隷落ちさせたかったのか?」
「…ヴィクター卿。勘違いしないでください。エルフ達が処刑されてたり、奴隷落ちさせられてたりしてる現時点の現状は、私がそれを望んだからというだけで引き起こされている事態ではありませんよ?
お忘れですか?私はエルフ達に私が相続する筈だった遺産を横取りされているんです。
私は私のものを盗った連中から私のものを取り戻してくれた方々に、取り戻せた資産を差し上げます、と申して、『盗っ人の罪を徹底して裁くべきだ』という姿勢を示しているだけです。
つまりは『世の中に勧善懲悪を期待している』だけです。
まさかとは思いますが、貴方は『エルフ達が可哀想』だなんて言わないでしょうね?」
「…お前の前で『エルフ達が可哀想』とか言うヤツは、お前から延々呪われそうだから、たとえ思ってても言わないだろうな…」
「…ヴィクター卿が王都に滞在されてらっしゃるのは、やはりエルフ達の凶悪化のせいでエヴェリー様の身辺まで脅かされているから、とかでしょうか?」
「一応、俺達にも迷惑をかけてる自覚はあったんだな?」
「申し訳ありません。…ですが不可抗力ですよ?私が悪いのではなく、全てはエルフが悪いのです。憎み疎むなら、どうぞエルフへお願いします」
「…お前、まさかとは思うが、エルフどものツガイの木を攻撃しようとか思ってないだろうな?」
「…今のところ、その予定はありませんが…。攻撃しちゃいけない理由でもあるんですか?」
「ああ、それはするべきじゃない。絶対やめておけ」
「どうしてですか?ちゃんとした理由があるのなら善処しますが、そうじゃないのなら、万が一の時は攻撃します」
「万が一の時ってのは、どんな時なんだよ…」
「不意打ちを受けて、大怪我をさせられて、死ぬかも知れないと思った時には不可視の使い魔達に『ツガイの木を破壊できるだけ破壊してこい』と命じるでしょうね。
道連れにできる限り1匹でも多くあの鬼畜人種を道連れにしてから死にます。そうじゃないと成仏できません」
こんな男に本音を話すのは癪だが、話しておかないと、それこそ後から親戚の者達がどんな目に遭わされるか分かったものじゃない。
ヴィクターは私の顔をマジマジと見てからーー
「…俺はな。多分、お前が思ってるよりもずっと、この国のエルフ達に関して詳しい。連中が何故あんな風に狂っていて御都合主義的なのかという原因についても知ってるんだ」
と言って溜息を吐いた。
(嘘は言っていないようだな…)
と判った。
私としてもエルフがあそこまで鬼畜で欺瞞まみれの集団ナルシストである原因が思い当たらない訳でもない。
「…エルフがあんなにも鬼畜な性質を持つ原因については、コーネリアおばあ様が『聖人の試練』という言葉を使ってらっしゃいました。
神様から始祖として選ばれた時、コーネリアおばあ様は『始祖の役割は、他の生物と比較して圧倒的な優位性を誇る吸血鬼の肉体を【世界】の中に生み出し続ける事にある』と神様にハッキリ役割を言い渡されたそうです。
前世で善人だった、もしくは人畜無害だった人達にそういった優位な肉体を提供して、悪徳を身に付けさせる事で『聖人の試練』を課すという事。
そういうものが吸血鬼には降りかかるのだと言われていたのだけど、吸血鬼以上にエルフには『聖人の試練』が降りかかっていたんだって、コーネリアおばあ様はそう解釈なさっているようでした…」
私が心当たりを話すと
ヴィクターは少し目を見開いてから
「…なんだよ、ちゃんと分かってるんじゃないか…」
と微笑んだ…。




