第二十八話 新しい顔
午前中、村の入口に小さな影があった。
布を運ぶ途中で気づいたミツキは、立ち止まる。
小柄な女の子。
見たことのない服。
不安そうな表情。
「……こんにちは」
ミツキは声をかける。
少女は、しばらく黙ってこちらを見た後、ようやく答えた。
「……服を、直してくれるところは、ここですか?」
「はい。直すだけですけど、よければ」
ミツキの言葉に、少女は少しほっとしたように見えた。
店に入ると、布を広げる。
少女の袖口には、小さな破れ。
針や糸の感触を思い出したミツキは、自然に手を伸ばす。
「ちょっとだけ待ってて」
少女は静かにうなずく。
作業中、ミツキは頭の中で思い出す。
昔、リラがどうやって自分を助けてくれたか。
ギンが籠を川に落としてくれたこと。
今、自分はその役をやる番だ。
「……よし、できた」
ミツキは袖口を差し出す。
少女の目がぱっと輝く。
「ありがとうございます!」
嬉しそうに笑うその顔を見て、
ミツキも自然に笑った。
その瞬間、ギンが外から声をかける。
「リラ、籠、また川に落とせばいいのか?」
ミツキは目を丸くする。
少女が首をかしげる。
思わず、リラは吹き出す。
「……大丈夫、後で説明するわ」
それだけで、村の空気が少し軽くなった。
少女の名前は、まだ知らない。
でも、布を触る感覚だけで分かる。
この子も、きっとここで静かに暮らすのだろうと。
何も起きない村で、
それでも、少しずつ、役目が受け継がれていく。




