第二十六話 同じ屋根の下
朝、目が覚めると、人の気配があった。
それだけで、少し安心する。
ミツキは台所に立ち、湯を沸かす。
いつもより、少し多めに。
カイは起きていた。
椅子に腰掛け、動かないようにしている。
「痛みますか」
「動かなければ」
それで十分だった。
朝食は、簡単なもの。
でも、二人で食べる。
それが、もう特別ではなくなっている。
昼、ミツキは店を開ける。
カイは家に残る。
「無理しないでくださいね」
「大丈夫だ、無理はしない」
言葉が、逆になった。
昼過ぎ、リラが来る。
「様子見に来たわ」
「ありがとうございます」
「……一緒に住んでるのね」
「はい」
それだけで通じる。
ギンも顔を出す。
「風呂、使うか」
「はい」
「家の外に置いとく」
余計な説明はない。
夕方、店を閉める。
ミツキは、布を畳む。
今日は、少し早めだ。
家に戻ると、カイがいる。
それだけで、落ち着く。
「迷惑かけてるな」
「思ってません」
即答だった。
カイは、何か言いかけて、やめた。
夜、灯りの下で針を持つ。
カイは、静かにそれを見ている。
「……昔、同じ光景を見た」
ぽつりと言う。
ミツキは、手を止めない。
「娘がな」
「ここに座って、縫ってた」
針が、一瞬だけ止まる。
「よく似てる」
ミツキは、息を吸う。
「……私、前の世界で」
言葉が、うまく続かない。
「服に関わる仕事をしていた気がします」
はっきりしない記憶。
でも、布に触る感覚だけは残っている。
カイは、うなずいた。
「そうか」
それ以上、聞かない。
夜が更ける。
布団に入る前、ミツキは言った。
「ここにいてください」
カイは、短く答える。
「ああ」
同じ屋根の下。
それは、家族でも、他人でもない。
でも。
何も起きない村で、
それは十分だった。




