第二十五話 落ちた日
音は、小さかった。
乾いた木が、ひとつ外れる音。
誰も叫ばなかった。
ただ、カイの姿が視界から消えた。
「……カイ!」
ミツキが走る。
足場の下で、カイは仰向けになっていた。
動いている。
呼吸もある。
でも、立ち上がろうとして、顔をしかめた。
「……無理だな」
それだけ言った。
ギンがすぐに駆け寄る。
「動くな」
リラも来る。
「誰か、布!」
ミツキはすでに走っていた。
作業台から厚手の布を取り、戻る。
膝と腕に巻く。
血は出ていない。
でも、打っている。
カイは、天井を見るように目を閉じた。
「……やっちまったな」
「喋らないでください」
ミツキの声は、思っていたより強かった。
自分でも驚く。
カイは、少しだけ笑った。
「怒るな」
「怒ってません」
本当だった。
怖かっただけだ。
しばらくして、皆で運ぶ。
大工仕事は、止まった。
その日、村は静かだった。
夕方、カイの家で。
医者はいない。
でも、休めば治る。
「しばらく、無理だな」
カイは言う。
「……そうですね」
ミツキはうなずいた。
言葉を選ばずに、続ける。
「一人は、やめてください」
カイは目を向ける。
「……何だ」
「うちに来てください」
それだけ言った。
理由は言わない。
言わなくても、分かる。
カイは、少し長く黙ったあと、うなずいた。
「世話になる」
短い返事だった。
夜。
ミツキは家に戻り、布団を二つ並べた。
違和感はない。
むしろ、しっくりくる。
何も起きない村で、
ひとつだけ、起きてしまった日。
でもそれは、
壊れるためじゃなく、
並ぶための出来事だった。




