第二十四話 そばにいる理由
その日、カイは少し無口だった。
いつもより作業が遅く、
休憩の回数が多い。
「……大丈夫ですか」
ミツキが声をかけると、カイは短くうなずいた。
「問題ない」
それ以上は言わない。
夕方、いつものように家に来る。
二人分の食事を並べるのも、もう自然になっていた。
「最近、来る人が増えたな」
「はい」
「……困ってないか」
「大丈夫です」
即答だった。
ミツキは、自分でも驚く。
少し前まで、何かを決めるたびに迷っていた。
でも今は、
「大丈夫」と言える。
食事のあと、カイは立ち上がる。
そのとき、ほんの一瞬だけ、足元がよろけた。
ミツキは反射的に手を伸ばす。
「……」
「年だ」
そう言って、カイは笑おうとした。
うまくいかなかった。
その夜、ミツキはなかなか眠れなかった。
ミシンの横に置かれた、道具の影を見る。
針。
糸。
布。
誰かのために使うもの。
ここに来てから、
自分はずっと「受け取って」きた。
家。
食事。
言葉。
気づけば、
誰かがいるのが当たり前になっている。
「……そばにいる、か」
独り言のように呟く。
転生前の記憶が、ほんの少しだけ揺れた。
仕事をして、
帰って、
一人で食べる。
誰とも深く関わらず、
でも、それが普通だった日々。
今は違う。
何も起きない村で、
何かが静かに積み重なっている。
翌朝。
カイは、いつも通り現場へ向かった。
背中を見送りながら、
ミツキは胸の奥に小さな違和感を覚える。
理由は、まだ分からない。
でも。
この日が、
何も変わらない最後の日になることを、
ミツキはまだ知らなかった。




