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第二十二話 噂
朝、いつもより早く戸を叩く音がした。
ミツキが出ると、リラが立っている。
「聞いた?」
「……何をですか」
「この村に、仕立て屋があるって」
ミツキは一瞬、言葉に詰まる。
「誰が」
「外の人」
「昨日、宿で話してたらしいわ」
戸の外を見る。
確かに、知らない人影が二つほどある。
昼になると、客が増えた。
直し。
補強。
丈詰め。
どれも派手ではない。
でも、村の人ではない。
「ここ、落ち着くな」
「村の空気が違う」
そんな言葉が、自然と出る。
ミツキは、ただ縫う。
噂を広めた覚えはない。
でも、直した服が外へ出ていった。
それだけだ。
午後、カイが来る。
「増えたな」
「……はい」
「無理はするな」
「大丈夫です」
カイは少し考えてから言う。
「名前、つけるか」
「え」
「呼びづらい」
ミツキは、首を振る。
「まだ……」
「そうか」
それで終わり。
夕方、旅人が言った。
「ここ、噂通りだ」
ミツキは手を止める。
「噂……?」
「静かで、丁寧で、待ってくれる」
それは、初めて聞く評価だった。
夜、戸を閉める。
噂は、勝手に広がる。
止められない。
でも、作るものは変わらない。
何も起きない村で、
言葉だけが、少し遠くへ行った。




