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第二十話 店の日常
朝、戸を開ける。
風が入り、布が揺れた。
看板はない。
でも、もう誰も迷わない。
「おはよう」
最初に来たのは、リラだった。
「今日は畑の合間に」
「これ、直してほしくて」
いつもの調子だ。
ミツキは布を受け取り、うなずく。
「午後には」
「助かるわ」
次は、知らない顔。
「……ここ、服を見てくれるって」
村の端に住む人らしい。
「直す、だけですけど」
「それでいい」
昼前には、作業台が埋まる。
直す。
測る。
縫う。
ミシンの音が、家に響く。
重たい音だけど、安心する。
昼、ギンが顔を出す。
「魚、置いとくぞ」
「ありがとうございます」
「代金だと思っとけ」
そう言って笑う。
午後、カイが通りがかる。
何も言わず、戸口から様子を見る。
ミツキが縫っているのを確認すると、去っていく。
夕方、作業がひと段落する。
服を受け取りに来た人が、笑う。
「動きやすい」
「前よりいいな」
ミツキは、少しだけ目を伏せる。
褒められるのは、まだ慣れない。
夜、戸を閉める。
布を畳み、針をしまう。
今日も、特別なことはなかった。
でも。
ここは、ちゃんと“店”だった。
何も起きない村で、
服は直され、
人は暮らす。
それが、ミツキの日常になった。




