第十九話 大工着
ミツキは、一人で布を選んでいた。
カイから受け取った生地ではない。
作業で余った、厚手の布。
丈夫で、汚れても目立たない色。
針を持ち、布を裁つ。
頭の中に浮かぶのは、カイの姿だった。
背中。
腕の動き。
腰の道具袋。
「……入るといいな」
独り言のように呟く。
服は、きれいじゃなくていい。
動きやすくて、長く使えること。
ポケットを多めに作る。
金槌。
釘。
小さな工具。
縫い目は太く、しっかり。
時間はかかったが、手は止まらなかった。
夕方、完成する。
派手さはない。
でも、使う人のための服だ。
翌朝、カイを呼び止める。
「……これ」
差し出すと、カイは眉をひそめる。
「何だ」
「仕事着です」
「新しく」
カイは受け取り、しばらく黙って見ていた。
袖を通す。
肩を回す。
腰を落とす。
「……悪くない」
それだけ言った。
でも、ミツキは分かった。
ポケットに手を入れ、金槌を入れてみる。
「入るな」
「はい」
「……ありがとう」
小さな声だった。
ミツキは首を振る。
「こちらこそ」
それ以上は、言わなかった。
家の中に戻る。
ミシンが、静かに置かれている。
糸も、生地もある。
ミツキは腰を下ろし、深く息を吸った。
服屋をやる、と宣言したわけじゃない。
でも、もう始まっている。
何も起きない村で、
今日もまた、静かに暮らしが続く。
――ここで、服を作る。
それで、いい。




