第十八話 完成
朝、家の前に人が集まっていた。
特別な合図はない。
でも、皆が分かっている。
今日で、終わりだ。
梁は組まれ、壁は閉じ、窓から光が入る。
作業台は広く、布を広げても余裕がある。
家は、もう「簡易」ではなかった。
ミツキは中に立ち、ぐるりと見渡す。
ここで眠り、
ここで縫い、
ここで人を迎える。
「……できましたね」
呟くと、背後から声がする。
「まだだ」
カイだった。
皆が帰り始める中、カイだけが残る。
「最後がある」
そう言って、道具袋とは別の包みを置いた。
布で丁寧に巻かれている。
ミツキは、何も言えずに見ていた。
「約束だ」
カイはそれだけ言う。
包みを開くと、中には道具があった。
針。
はさみ。
糸。
布。
どれも、手入れが行き届いている。
さらに、奥から重たいものが現れる。
「……ミシン」
「古い」
「だが、動く」
ミツキは、息を吸う。
「……いいんですか」
「使われない方が、困る」
カイの声は、いつも通り低い。
「ここは、あいつがやりたかった場所だ」
「形は違うがな」
ミツキは、深く頭を下げた。
言葉は、それ以上いらなかった。
夕方、家の前に人が戻ってくる。
「完成、だな」
「店?」
「いや、まだだろ」
そんな声が飛び交う。
ミツキは、戸口に立つ。
中には、布と道具が揃っている。
看板はない。
名前もない。
でも、ここで始められる。
ミツキは、そっと言った。
「……服、作れます」
それで十分だった。
何も起きない村で、
一つの場所が、完成した。




