第十七話 昔話
夜だった。
家の中は、静かだ。
昼の賑やかさが嘘のように、音がない。
ミツキは作業台の上を片づけていた。
布を畳み、針をしまう。
「……起きてるか」
声がして、顔を上げる。
カイが、入口に立っていた。
「はい」
カイは中に入り、梁を見上げる。
「いい形だ」
それから、しばらく黙る。
何かを言いかけて、止めているようだった。
「……この前な」
ようやく口を開く。
「聞きたいって言ってたな」
ミツキは、静かにうなずいた。
カイは腰を下ろし、道具袋を足元に置く。
「娘がいた」
それだけで、空気が変わる。
「服が好きだった」
「布を見ると、触らずにいられない奴でな」
ミツキは、何も言わない。
ただ、聞く。
「服屋になるって言ってた」
「俺が作った家で、だ」
カイは笑わなかった。
「準備もしてた」
「道具も、生地も、全部」
少し間が空く。
「……事故だった」
それ以上は語らない。
理由も、時期も。
「渡すつもりだった」
「店を始める時に」
カイは、床に視線を落とす。
「結局、渡せなかった」
ミツキは、胸の奥が静かに締まるのを感じた。
でも、言葉は出てこなかった。
「今も、持ってる」
カイは続ける。
「ソーイングセット」
「糸」
「生地」
「ミシンもだ」
重い沈黙。
「……だから、あんたが縫ってるのを見ると」
「思い出す」
ミツキは、やっと口を開く。
「……話してくれて、ありがとうございます」
それだけだった。
慰めも、同情も、約束もない。
カイは立ち上がる。
「店が、ちゃんと形になったらな」
入口に向かいながら言う。
「その時、考える」
外へ出ていく背中は、いつも通りだった。
でも、ミツキは分かった。
これは、過去の話じゃない。
今も、続いている。
夜、灯りを消して横になる。
ミツキは、布の感触を思い出す。
自分がここに来た理由。
ここで縫っている理由。
それは、偶然じゃない。
何も起きない村で、
静かに、想いが引き継がれていく。
この話が頭に流れたとき、もうみんな生きていました。
勝手にしゃべり始めて私は自動書記状態でした笑
カイ好きだなー!
書き始めた当時はカイがこんな人になるなんて考えもしなかった。。。




