第十五話 大工に聞く
夕方、作業を終えた後だった。
布を畳み、針を片づける。
外はもう、日が傾いている。
ミツキは家の前で、しばらく迷ってから声をかけた。
「……カイ」
カイは梁を見上げていた。
「何だ」
「少し、相談があって」
カイは黙って、視線を下ろす。
「この家」
「もう少し、広くしたいんです」
言葉にすると、思ったより落ち着いていた。
「直すだけじゃなくて」
「作ることも、増えてきて」
カイは何も言わない。
遮りもしない。
「人が来る場所にしたい、というか」
「……作業ができる場所、です」
言い切ったあと、少し不安になる。
夢と言えるほどのものじゃない。
でも、軽くもない。
カイは家の中を一通り見た。
作業台。
布。
棚。
「人が来るなら」
低い声で言う。
「家じゃない」
ミツキはうなずく。
「分かってます」
カイは少しだけ考え、続ける。
「作れる」
「ただし、急ぐな」
その言葉に、胸が緩む。
「……ありがとうございます」
「礼はいらん」
そう言ってから、少し間を置く。
「昔な」
珍しく、カイが言葉を続けた。
夕暮れの風が、家の中を通り抜ける。
「服屋をやりたいって言ってた奴がいた」
ミツキは、黙って聞いた。
「うるさいくらい、張り切ってた」
それだけ言って、口を閉じる。
それ以上、話さなかった。
でも、その一言で十分だった。
誰のことか。
どんな想いだったか。
詳しく聞かなくても、伝わる。
「……その人の話」
ミツキは、言葉を選んだ。
「いつか、聞いてもいいですか」
カイは、少しだけ間を置いて答える。
「店が形になったらな」
それで、話は終わった。
その夜、ミツキは布に触れながら考える。
自分の考えは、自分だけのものじゃない。
この場所に、
この村に、
重なっていくものがある。
服屋になりたい、とはまだ言えない。
でも。
「ここで、続けたい」
その気持ちは、もう誤魔化せなかった。
何も起きない村で、
静かに、歯車がかみ合い始めていた。




