第十四話 縫いながら考える
針を動かす音が、家の中に静かに響く。
一定の間隔で、布を刺し、糸を引く。
力を入れすぎないように、でも緩まないように。
ミツキは無心で縫っていた。
今日は三着目だ。
朝に一着、昼に一着、そして今。
どれも「直すだけ」の服。
大きな仕事ではない。
それなのに、不思議と疲れはなかった。
「……前は」
ふと、手を止める。
転生前の自分を思い出す。
仕事は、きっちりこなしていた。
時間通りに始めて、
決められた分だけやって、
時間になれば終わる。
そこに、不満はなかった。
でも、満足もなかった。
――終わった後に、何も残らない。
今は違う。
縫った服は、誰かの手に渡る。
着られて、使われて、汚れて、また直される。
その繰り返しが、想像できた。
外から声がする。
「ミツキ、いる?」
リラだ。
「これね」
「もう直さなくていいんだけど」
差し出されたのは、布の束。
「前に着てた服をほどいたの」
「使えそうなところだけ」
「……こんなに」
「捨てるより、あなたのところにあった方がいいでしょ」
自然な言い方だった。
まるで、置く場所が決まっているかのように。
リラが帰った後、布を広げる。
大きさも色も、まちまち。
直すには使えない。
でも、作るなら足りる。
ミツキは、布を重ねてみる。
袖。
身頃。
裾。
頭の中で、形が浮かぶ。
「……作れる」
言葉にして、少し驚いた。
“直せる”ではなく、
“作れる”。
夕方、カイが来る。
作業台の上に広がった布を見て、言う。
「増えたな」
「はい」
「……何作る」
質問は短い。
ミツキは少し考えてから答える。
「まだ、決めてません」
「そうか」
それで終わりだった。
無理に決めさせない。
急かさない。
その距離感が、ありがたかった。
夜、灯りの下で一人になる。
布に触れながら、考える。
この家で、
この村で、
これからも暮らすなら。
直すだけでも、生きていける。
でも、それだけじゃない気がした。
「……服屋」
小さく呟く。
しっくりは、まだ来ない。
でも、嫌ではなかった。
名前のない考えが、
胸の奥に、静かに座る。
何も起きない村で、
また一日が終わる。
けれど、ミツキの中では、
確かに一歩、踏み出していた。




