第十三話 布が集まる
家の中が、少し狭くなった。
棚が増え、鍋が増え、布が増えた。
どれも必要なものだが、置き場には困る。
ミツキは朝、布の山を見下ろしていた。
「……こんなに」
ほとんどが、直すために持ち込まれた服の端切れだ。
直した後、余った布。
捨てるには惜しく、返すには中途半端。
気づけば、溜まっていた。
その日も、リラが訪ねてくる。
「これ、直してもらえる?」
差し出されたのは、少し大きめの上着。
「父のなんだけど」
「もう着ないらしくて」
「……はい」
縫いながら、話を聞く。
「この村ね」
「昔は、服を仕立てる人がいたの」
針が止まる。
「今は?」
「もう、いないわ」
「必要な分は、外から買ってた」
糸を引く。
「でも、直してくれる人はいなかった」
その言葉が、静かに残る。
昼頃、別の人が来た。
「布、余ってるなら」
「これと交換でどうだ」
持ってきたのは、染め直し用の草だった。
それからも、少しずつ。
布と布が、交換される。
家の中に、色が増えた。
ミツキは夜、布を広げて並べる。
厚さ、色、手触り。
――作れる。
ふと、そう思った。
直すだけじゃない。
最初から、形にできる。
転生前の記憶が、薄く浮かぶ。
ミシンの音。
誰かの背中。
名前は、思い出せない。
でも、感触は残っている。
「……服、か」
言葉にしてみる。
不思議と、重くなかった。
翌日、カイが来る。
「布、多いな」
「……はい」
「床、広げるか」
即断だった。
「作業台、いるだろ」
その言葉に、ミツキは少し驚いた。
「いいんですか」
「必要だからな」
理由は、それだけだった。
夕方、ギンも顔を出す。
「布、乾かすなら」
「外に竿、立てるか」
気づけば、皆が当然のように動いている。
ミツキは布を畳みながら、考える。
この家は、もう寝るだけの場所じゃない。
人が来て、
物が集まって、
手を動かす場所。
何も起きない村で、
静かに形を変えていく。
それはまだ、「店」じゃない。
でも。
「……続けたいな」
小さく呟いたその言葉は、
誰にも聞かれなかった。
それで、よかった。




