第十二話 頼まれるということ
最初に声をかけてきたのは、リラだった。
「ねえミツキ」
「この前の上着、すごく助かったの」
畑の脇で、そう言って立ち止まる。
「実は、知り合いにも破れた服があってね」
「ちょっと見てもらえないかしら」
「……私でよければ」
返事をすると、リラは安心したように笑った。
その日の午後、家の前に人が来た。
リラの隣人。
作業着の膝が擦り切れている。
「直るならでいいんだ」
「無理なら、そのままで」
そう言われると、不思議と気が楽だった。
ミツキは縫った。
いつも通り、静かに、丁寧に。
夕方、服を返すと、その人は何度も頭を下げた。
「これ、礼にはならんが」
渡されたのは、小さな棚だった。
「……あの、そんな」
「余ってた」
「使ってくれ」
棚は、家の中で役に立った。
次の日。
「リラから聞いた」
「直してくれるらしいな」
また一人、また一人。
報酬は、決まっていなかった。
干した穀物。
鍋。
布団代わりになる厚手の布。
「……もらいすぎでは」
そう言うと、皆、同じような顔をする。
「服、使えるようになった」
「それだけで十分だ」
気づけば、家の中に物が増えていた。
生活が、少しずつ整っていく。
そこに、カイが来た。
「水、引いた」
「え?」
家の脇に、小さな溝が掘られている。
「飲める」
「火も、使える」
それだけ言って、去ろうとする。
「あの……」
ミツキは呼び止めた。
「何か、支払います」
カイは振り返らない。
「もう受け取ってる」
何を、とは言わなかった。
数日後、今度はギンが現れた。
「これな」
運んできたのは、古い風呂桶だった。
「前の家で使ってた」
「水張れるなら、まだいける」
「……お風呂」
「毎日縫ってりゃ、体冷えるだろ」
確かに、その通りだった。
それから、一週間。
毎日、誰かの服を直した。
毎日、何かが増えた。
棚、鍋、水、火、風呂。
家は、まだ簡易的だ。
でも、暮らせる。
ミツキは夜、家の中で座る。
明かりの下、針と糸を置く。
「……できてる」
誰かに言うわけでもなく、そう思った。
家が、というより。
生活が。
何も起きない村で、
静かに積み重なった七日間。
それは、確かに「完成」と呼べるものだった。




