第七楽章 お姉ちゃんがお姉ちゃんになってくれるとすっごくうれしい!
「ビスカリア姫、まだ泣くのは早いですよ、これからが本題です。さあああて!」
バッチン! とレットは誰かに合図するようにいきなり手を叩いた。そして宣言した。
「いうなれば、僕た……いや、俺達と君は根本にある理由も目的も一緒だ。
対等な立場で助けあいながら生きていけるとわかった。
だからこれからは姫様とは呼ばない。敬語も使わない。同じ志をもった仲間であり、同じヒミツを共有した君はいわばファミリーだ。かなり強引だと思うが俺達はそう決めた。
少なくとも目標を達成するまでは……。
君から本当の事、気持ちを開示してもらう。こちらも同じように開示する。こうして初めて精神的に対等な契約が交わされる。
言葉は力をもつ。言葉は勇気を与える。言葉は信頼を築く。言葉は幸せを運ぶ。
言葉がなくてもわかりあえる関係なんてウソ。
わかってくれていると思って言葉を交わさないと、すれ違いが大きくなって、ますます心は離れて伝わらなくなる。だから、君からの言葉が必要だった。
こうして、本心を打ち明けたもの同志なのだからこれからは遠慮なくビスカと呼ばせてもらう。俺もレットと呼び捨てでいい。今まで俺が言った事に異論はあるかい?」
レットと三姉妹は固唾をのんで、ビスカリア姫の言葉を待った。
彼女はレットのいきなりの言葉の違いに若干戸惑ったが一息ついてから答えた。
「はい、異論はございません」
レットと三姉妹はお互いの顔を見合わせた。
「ふうぅぅ。よかったぁ」
レットと三姉妹は大きく息をはき安堵した。ビスカリア姫は迷いの欠片もなく了承してくれたのだ。即決できる事も彼女の素晴らしい女王の資質の一端なのかもしれない。
レットはたいそうな事を言ったが、ようは堅苦しい事をやめたかっただけだ。
彼は敬語というある種の心の壁を強引に取り除く事に成功したのだが、またもや急にモジモジし出した。
「それともう一つお願いがあり、あります。
できれば、その~アレだ、え~ナンだ、ウン、そう……ユカリ、サクラ、ヒマワリのお、お姉ちゃん的存在になってほ、ほ、ほ、ほ、ほしいです。イカガナモノデショウカ?」
なぜか、丁寧な言葉使いに戻る。しかもカミカミだ。
「ええええええええ! プロポーズ???????!!!!!!!」
三人姉妹が声を合わせてレットに詰め寄った!
「ちが、ちが、違う違う違うぅぅうぅ! そ、そんなんじゃない! お、俺は純粋に、お前らにお姉ちゃんがいればいいなって思っただけで、それ以上は何も……」
「ま~た、もじもじしてるし。さっきのかっこよさはどこにいったん? 本当にそれ以上はいらないん? こんな美人なのに?」
サクラがなんだかうれしいそうに茶化す。……というかここぞとばかりにあおる。
「ばかやろう。身分の差もあるし、そんなもん無理に決まっているだろ。つ~か、そんなんじゃない。そんなんじゃないから〜!」
「ついさっき、仲間だ。ファミリーだ。言葉は幸せを運ぶとかなんとか言っていたくせに。
このヘタレ野郎が!」
サクラが追い打ちをかけてくる。まあ、実際本当に兄がプロポーズできるとは思っていないし、もし、そんな雰囲気を一ミリでもあらわしたら全力で叩き潰したであろう。
「私たちだけ盛り上がっても意味ないでしょ。全くぅ。きちんと姫様に聞かないと……」
ユカリが正論をぶちまく。だがいい返事が返ってくる事を一ミリも疑ってない。
「私は、お姉ちゃんがお姉ちゃんになってくれるとすっごくうれしい!」
ヒマワリも一ミリも曇らない純粋な気持ちで追い込んでくる。
「で、どう?(サクラ) で、どうですか?(ユカリ) ね、いいでしょ?(ヒマワリ)
で、で、どうでございましょうか?(最後にレットが)」
四人が同時に、ビスカリア姫に問いかけた。
「はい! もちろん、こちらこそよろしくお願いしますね!」
満面の笑みで涙を浮かべながら、ビスカリア姫、いや、ビスカは間をおかず大きな声で即答した。彼女にとって、味方であり仲間であり、ごっこだとしても新しい兄妹、家族ができた喜びをここにいる誰よりも感じていたであろう。
ひとりになった寂しさや不安からひとときでも解放されたのだから。それに彼女は二人の姉がいる末っ子だったので、かわいい妹が三人もできた事が本当に嬉しかった。
【妹が欲しい】も彼女の希望のひとつであった。
希望通りの言葉を聞けたサクラ、ユカリ、ヒマワリは一斉にビスカリアに抱きついた。
「ありがとう、お姉ちゃん!!!」
一国の王女を【お姉ちゃん】と呼ぶのは世界中でもこの三姉妹だけだ。ビスカリアもお姉ちゃんと呼ばれる事に喜びを感じていた。
ちなみに、レットもこのビッグウェーブに乗って抱きつこうと試みたが、サクラの後ろ蹴りで反対側に飛ばされあえなく撃沈した。
お姉ちゃん的存在になって欲しいというお願いには裏があった。こう言えば彼女がここにいられる理由ができる。今は自分達がそばにいてあげたいという思いからでもあった。
こうして一人の兄と三人の妹達の生活は終わりを告げ、一人の兄と一人の姉と三人の妹達の暮らしが始まろうとしていた。




