第三楽章 一緒に考える事から初めてください
ブロンドの少女は軽く相づちをしたのちに、意を決した様に話しを続けた。
「私の本当の名前は【ビスカリアフィーネ=フレグラント】。
フレグラント王国第三王女です」
「ええええ!(サクラが) まあ!(ユカリが)」
サクラとユカリは驚きの声を上げた。ヒマワリは静かにじっとビスカリア姫を見つめている。レットは表情ひとつ変えていない。この片田舎、庶民の家に、お姫様が転がりこんでくるなんてありえない大事件だ。驚かないわけはないのになぜかレットは冷静だった。
「まだおおやけにはなっておりませんが先日、我が国の宰相【ヴァフォーケン】卿がクーデターを起こしました。そして王と王妃である父、母は彼によって殺害されました。
側近が身を挺して私だけ脱出させてくれたのです」
「あなたを追っていたのはクーデター派の兵士って事ですか?」
「厳密にはクーデター派ではありません。ヴァフォーケン卿に操られているだけか、何もわからず、ただ上の命令に従っているだけかと」
「なるほどねぇ。ではなぜ、この森に?」
「私が幼い頃からの教育係だった宮廷魔導師様にもしもの時は【迷わずの森】へお逃げなさい。そこにいる【リーヴ】という方に助けを求めなさいと言われていました。
その宮廷魔導師様は二年ほど前に寿命でなくなったのですが、その方からひとつのペンダントを渡されていました。
人目に触れさせてはいけないと言われ普段はしまっていましたが自分に危機が迫ったら必ず持っていなさいと……。それがこちらです」
胸に隠していたペンダントを取り出しレットたちに見せた。複雑な形に加工された黒い宝石が埋め込まれていた。見た目鮮やかなものではなかったが不思議な光沢感があった。
「あれ、光らないね~(サクラ) あれ、光りませんね~(ユカリ)」
サクラとユカリが同時につぶやく。
「本当に光らないな。時間差で光るかも知れないけれど」
「光らないな~光らないな~」
レットもつぶやき、続いてヒマワリもまねする。
「このペンダントご存じなのですか? なにか光るものなのでしょうか?」
ビスカリア姫のその問いに対してレットが答える。
「いや~、ペンダントと言えば光るものだ! っていうのが物語の定番だから、なんでこの場面で自己主張して光らないのかなって」
サクラとユカリも続く。
「うん、普通はこ~ピカぁって、めちゃくちゃまぶしくなるとか、一直線の光がでて、ここが目的地です! って教えてくれるよね」
「そうそう、ひかって魔神がでてくるとか、宮廷魔導師様が浮かび上がって物語のキーになるメッセージを伝えてくれるとか、ちょっびり期待しちゃった」
「え、え、……そ、そうなのですか?」
ビスカリアは場の空気についていけない。そんな姫の表情を見てレットは話し始めた。
「ははははは、冗談ですよ。みんな姫様の気持ちを和らげようとしているんですよ。
僕達はそれがなんなのか知っています。そのペンダントの宝石のおかげで姫様はここに来ることができたんです。
その宝石は、僕の師匠から姫様に与えられたとおっしゃいましたよね。
師匠が宮廷魔導師だった事は知っていたけれど姫様の教師だったとはびっくりですよ」
「えっ? ひょっとして……。あなたはワイス先生のお弟子さんなのですか?」
「えっ、ええ、まあ、そんな感じです」
(あのじじぃ、なんでこんな大事な事をヒミツにしていたんだよ。俺がいた時に、姫様にも教えていたなんて……。どうりで教え方が適当すぎなわけだよ)
「まあ、これは運命の出会いですよ! 兄さん!
この出会いは大切にしないといけませんね!」
ユカリは目をキラキラさせ感激していた。乙女チックな運命的なモノは大好物である。
「あぁ、そうだな」
頬づえをしながら一応相づちはしたが、実際は全てじじぃ=ワイス師匠の手の平で踊らされているだけで運命でもなんでもないとレットは冷めていた
「ともかく……その宝石は僕らも持っています。姫様の物とは色やカタチは違うけれど。
【ソウルフル・クォーツ】って言われているものです。
その宝石は通行証であり道先案内人でそれを持つものだけがここまで来ることができる。
この家から数キロメートル圏内は【迷わずの結界】で守られていて、普通の人なら決してここにたどり付く事はできません。結界の力によっていつのまにか入口へ誘導されます。
【迷わずの森】のネーミングにぴったりでしょ」
「どうして結界が張られているのですか?」
「それは妹達と僕の生活を守るためです。そして、今、あなたを助けるためです!」
レットは、どやった。
「まあ! ステキです。兄さん!」
ユカリが両手を口にそえ感激したような声を上げた。思いっきり演技くさかったが。
「アニキは、いちいちくさすぎ。おおげさすぎ、かっこつけすぎ!
そんなにモテたいのか? えーモテたいのか?」
サクラは反対にいつものように罵しる。
「お前達なぁ、口をはさみすぎだ。それでビスカリア姫……」
「ビスカリア、もしくは、ビスカと呼び捨てでお呼びください」
「いえ、その申し出は辞退させていただきます。貴方は姫様です。僕達と身分が違う。今はまだビスカリア姫と呼ばせていただきます。話しはまだ終わっていませんから」
姫様と国の一庶民という身分の違いは、話しが終わろうとくつがえるわけはないのだが、なぜかそのような言い回しをした。
「それで姫様、この青二才と子供になにをして欲しいとお思いですか?
まさか、かくまって欲しいだけとか、何泊か泊めて欲しいってわけではないでしょ?」
「正直、この家の方がどんな方かわからず、ここが指示された場所かもわからず無我夢中で入ってきました。だから、そのお家の方を見てからどうするか決めるつもりでした」
「で、僕たちを見てどう思ったんですか?」
「はい、失礼な言い方かもしれませんが、あなた方になぜか不思議と信頼に足る力みたいなものを感じました。それに尊敬していた先生のお弟子さんだった事もあります。
よろしければですが……、改めてお力を貸していただけないでしょうか」
ビスカリア姫は庶民的なお姫様とは聞いていたが、やはり所々に品性は隠せないなぁと、レットは感心していた。自分の師匠を尊敬していた事はまあ別にして。
「貴方の最終目的を教えていただけませんか」
「はい、ヴァファーケン卿から王位を奪還し、私が女王に即位する事です」
レットの問いに対して、迷いなくビスカリア姫はえらくたいそうな事を答えた。
「かっこぃぃぃ! サクラは協力するよ。するする。いやむしろ協力させて!」
「ステキです! ビスカリア様、私も協力することに異論はございません!」
サクラとユカリは、目をキラッキラに前のめりで協力宣言をした。
(いや、今のところ姫様から見たらどこにでもいる普通の年下の女子だよ君たちは)
レットは心の中でツッコミをしつつ別の言葉を発した。
「二人とも気がはやすぎ。短絡すぎ。言葉に踊らされすぎ(サクラのマネ)。
なにも具体的な事聞いていないだろ。
姫様、あなたの決意はわかりましたが、具体的にどうするかの計画はございますか?」
「はい、ありません!」
「……ふふふふふっ、わははははっ」
言葉をかぶせるように力強く宣言した姫の言葉に三人は一瞬惚けたが、その【ノープランさ】と【いさぎのよさ】に一斉に笑い出した。
ヒマワリだけは、ひとりきょろきょろと皆の顔を変わるがわる見ていた。理解できていたのか、そもそも会話を聞いていたのかさえ分からない。
ビスカリアは恥ずかしさそうに頬を赤らめながら勇気を振り絞って大声で話した。
「だから、どうすればいいのか一緒に考える事から初めてください!」
その一声に、みな笑うのを辞めて心持ち真剣な表情に戻った。そういえば相手は姫様だった。こんな無礼な振る舞い、冷静に考えて見れば即打ち首レベルと気づいた。
「とりあえずハーブ茶のおかわりいかがですか? 次は別の味のものお出ししますよ」
ユカリが場の息抜きを促した。「ナイスだ。わが妹よ」と兄は妹の機転に感謝した。




