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森のブーケストラ 〜私が女王になるまでの物語〜  作者: ヒロA


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第三十楽章 この国の女王に即位したいと思っております

 ヴォォーン! と、どこから聞こえたのかわからないが大音量の音が鳴り響いた。

「あれれれれ? お姉ちゃんがもどった~」

 当の本人が気付くより先にサクラが告げた。 

 黒髪だったビスカの髪はごく自然にまるでその事象がなかったかのように一瞬で元の美しいブロンドに戻っていたのだ。 

 彼女は自分の髪を触って色が変化したのを確かめた。

 魔法防御結界が復活して、レットがビスカにかけていた【ただ単に黒髪に見えるだけの魔法】が無効になったのだ。

「なるほど、助けてくれるのも一時だけって事か」

 レットは全てを悟った風にまたまたかっこつけて呟いた。

 言われた事を後になって理解できる事は多々ある。

 修業時代は「何言っているんだ、このくそじじい」としか思わなかった事も理解できる様になってきた。

 年齢を重ね、学習を重ね、幾多の経験を重ねた今、師匠の考えが手に取る様にわかる。

 いや、それでも『わかった気がしているだけだ』と自覚している。

 まだまだ師匠の手の平でダンスしているだけだと勺にさわる事はしばしばある。

 師匠に並び、師匠を超えるまでいったいどれくらい年月がかかるだろう。

 生きているうちに越える事ができないかもしれないがレットはそれはそれでよかった。

 比べすぎても自分は師匠ではない。師匠のようになる必要もない。逆になりたくない。

 自分は自分なのだから、自分を信じて自分の個性を伸ばし、かつ新しい個性を見つけたり創ったりすればいい。師匠も生きていたらそう言うだろうなとなんとなく思っていた。

 ただ負けず嫌いだから、一つでも二つでも師匠の想定以上の事はやってやりたいとは常日頃思っていた。だからこそ今回、ひとつ嫌な疑念が生まれていた。

「まさか、最初俺の魔法だけ使えなくしたのって師匠の仕業か? いや考えすぎか……」

 自分に試練を与えるためとか、俺の困り果てた顔を見たいとか、よりドラマチックにするためとか、あのじじいならやり兼ねないと思ったが確かめる術はない。

 だが、おとぼけたあの顔が脳裏にこびりついて離れない。ひょっとして全てがじじいのシナリオなのかとすら思ったが今は考えても仕方がない。後でじっくり検証する事にした。


「これはいったいどういう事なのでしょうか?」

 ビスカは無我夢中だった事もあり自分が黒髪になっていた事はどうでもいいことで意識の外においていた。レットがサポートしてくれているんだろう程度に思っていた。まあ、その通りなのだが。

「今日の全ての事は後で説明するよ。君には先にやらなければならない事がまだあるだろ。

 ……でもこれだけは言っておこう。奴は転生した魔王ではないよ」

 レットはおあずけ状態にした。師匠の事を悪くいう資格はない。彼は、二代目いじわる先生だった。

 操られていた兵士達は、正気を取り戻していたが重傷者や具合の悪いものも多く中庭で医療班に治療されていた。洗脳され、狂気にかられていた時の記憶は誰もなかった。

 侍女のランも正気に目覚め、ビスカとお互いの無事を安堵し泣きながら抱き合った。

 落ち着いた後にランは顔なじみのレットに勢いで抱きつこうとしたが、すんでの所で我に返りなぜかその代わり平手打ちをかました。言い合いになったがその後、笑いながら固い握手を交わし王女の保護と討伐の御礼をした。ついでに王女に変な事をしなかったかの追求と、自分を助けにきたのが遅すぎる、かつ洗脳状態の解放のやり方が痛すぎるとの照れ隠しのお怒りを被った。彼女もまたレット一味の内通者だった。


 その後に王宮の謁見の間に、この戦いの関係者達が集められた。

 王女三人が部屋の中央に位置し、その後方にレットと三人の妹達が静かに見守っていた。

「お姉様よかった。本当に生きていてくださり嬉しゅうございます。

 でもお父様、お母様は……」

 ビスカは緊張の糸が切れたように、姉二人を前にして涙が止まらなかった。

「ビスカリア、よくやってくれた。感謝する。父上と母上の件は私達全員の責任だ。

 天国から心配させぬようこれから皆で国を立て直さないとな」

 第一王女シルフィーネは、姉らしく気丈に妹を励まし抱擁した。

「よくやってくれました。ビスカリア。私達もこの国も救ってくれてありがとう。あなたも無事で本当によかった。少し見ない間に強くなりましたね。別人かと思いましたよ」

 第二王女ラナフィーネは、いつもと変わらぬ優しい言葉で励ましてくれ抱擁を交わした。

「はい、全てあそこにいます、レットさんと妹さん達のおかげです。

 心が折れそうな私を支えてくださいました」

 シルフィーネはわかっているとうなずき、レットに対し感謝の意を述べた。

「レット殿、此度は、私達の不甲斐なさで大切な妹君達を危険な目に遭わせてしまい、誠に申し訳なかった。心よりお詫び申し上げる。そして私達姉妹を助けてくれて感謝する。

 貴殿こそ救国の英雄だ。なんなりと褒美を取らす。何が望みだ? 遠慮はいらぬぞ」

 レットの希望は決まっていた。

「はい。シルフィーネ王女殿下、私の望みはただひとつ。

 ビスカリア様のお望みを叶えていただく事でございます」

「なぜそのような事をいう? そなたは欲がないな。それとも急に言われ考えがまとまっていないのか? まあいい、とりあえずビスカリアに話しを聞こうか」

 レットの言葉に促され、ビスカは自分が何をするべきか何をしたいのかを思い出し、恐る恐る姉に答えた。

「お姉様、私は……お姉様方が賛成していただけるのでしたら……。

 この国の女王に即位したいと思っております。

 以前から考えておりました。いかがなものでしょう」

 一瞬、意外な顔を見せたシルフィーネだったが、やけにあっさりうなずいた。

「うむ、ビスカリアがいなければ、今こうして私達は生きていないかもしれない。

 国が滅んでいたかもしれない。

 私達はビスカリアが女王になるべきだと言われる前から思っていたよ。

 私はそんな堅苦しい立場にいたくはない。補助に回らせてもらうつもりだった」

 彼女は剣技においてもこの国において最上位クラスだった。

 その美しさとその高貴な振る舞いから【気高き心を持つ剣ユリ姫】の意味を持つ

 【プリンセス・ノーブルソードリリー】と呼ばれていた。

 宰相も将軍も不在な今、立て直しのために軍の最高位で指揮をとるつもりでいた。

 そのような剛胆で理知的な彼女ですらヴァフォーケンを止める事ができなかったともいえる。ヴァフォーケンは彼女を最重要危険人物と評価し、陰であらゆる謀略を巡らし巧みに身動きを封じていた。

 そして、あわよくばこちら側に迎え入れようとしたとレットは考察していた。


「ありがとうございます。お姉様、感謝いたします」

「まずは国民にいきさつを伝えなければならないな。

 そうだな。一ヶ月後、新女王の即位を国民に伝える事とする。

 お前も準備は多少必要になるだろうが、基本は私が進めるからそれまでの期間自由な時間をゆっくり楽しめ」

 【プリンセス・ノーブルソードリリー】シルフィーネはこの混乱を治め、かつ準備期間を考慮し一ヶ月後がベストとして即決した。そしてビスカには自由にできる最後の一ヶ月である事を理解させつつ森の中のあの家で過ごす事を許可した。

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