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森のブーケストラ 〜私が女王になるまでの物語〜  作者: ヒロA


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第二楽章 僕ら兄妹はあなたを助ける事ができる力があります

 リビングダイニングで、青年と三人の少女がお茶をのみながら談笑していた。

 美しい夕日が見られるまではまだまだ早い午後のひとときだった。

「そろそろかな」

 お茶をすすりながら、ぼそっと青年が呟いた。彼の名は【レット=リーヴ】という。

 ドンドンドンドン! と強く玄関扉を叩く音がした。

「どうぞ〜」

 バタンッ! 壊れる程の轟音で玄関扉が開き、息も絶え絶えに女性が飛び込んできた。

「はぁ……はぁ……はぁ……た、たす、たすけてくだ……はぁ…はぁ…」

 レットと二人の少女は同時にびくっとし目を見開き来訪者を凝視した。

「ど、どちらさま?」

 レット達三人は同時に驚きの表情のままその女性に尋ねた。

 来訪者は必死に森を抜けてきたのだろう。どろだらけ、キズだらけ、コートや服もあちこちすり切れてはいたがそれでも隠し切れない美しさを纏っていた。

 光沢感のあるブロンドのロング髪の少女に三人は目線を釘付けにされた。

 その少女は十代半ば位、身長は百六十センチ前半〜半ば位だろう。

 服装はスカート姿にフード付きのコートを羽織り大都市にどこにでもいる今風のおしゃれな女子という感じだった。

 ただ中身はどこにでもいるレベルではなく平均のはるか上だとひと目でわかる。

「わ、私は……、わ、悪い人たちに追われているんです。た、助けてください」

 息が切れてか、緊張してかはわからないが、言葉を発する事さえ辛そうな少女に向かって、レットは静かに問いかける。

「まあ落ち着いて。まず君が何者か教えてくれないか」

「は、はい。私は……ハル村のビ、ビスケと言います」

 レットの態度は少し厳しい。少女の答えに若干の間を置きレットは返答した。

「……ん〜、ウソを言っている人は助けられない。本当の事を言って欲しいな」

「え?……」

「ここは僕と三人の妹の平和な場所なんだ。ここを荒らす存在なら帰ってくれないか」

 些か厳しめ事をレットは言った。

 レットにはウソを見抜ける力はないが、彼女がウソを言っている事はわかっていた。

「こ〜の〜、ダメ(あ)にきぃ~!」

 おさげ髪の次女サクラが飛んできた。レットの左ほほに右ストレートパンチが炸裂した。

 本日三発目だ。

 サクラはザ・元気っ子だ。普段ショートパンツやショート丈のズボンを愛用している。

「いって~な。おい、サク助。言っただろ。手を出す前にまずは話しをしろって」

「アニキにもいつも言ってるじゃん。女の子には優しくするんだよって。

 いつも私にも厳しすぎるんだよ。それに『助』つけるのやめれ」

「それ(女子には優しく)とこれ(サクラには優しく)とは話しが違うだろ。

 お前にはもっとおしとやかになって欲しいんだよ。嫁のもらい手が……」

 ドスーン。レットの脇腹に追い打ちの跳び蹴りが炸裂した。

「今度はどこに欲しいんだい。お・に・い・さ・ま。なに父親づらしているんだよ。

 それにそのいい回し、古すぎ、うざすぎ、じじいすぎ」

「古いのはいい。うざいいわれるのも兄貴の特権だ。でもじじいだけはゆるさん。

 僕はまだ二十二(歳)だ!」

「二十二歳はアラカン(アラウンド六十歳・還暦)だよ、もうじじぃじゃん。

 じじぃ通り越して、もうひぃじいさんだよ。棺桶に足つっこんでるよ」

 お互い意味不明な理論同士のケンカを展開する。サクラの度重ねる打撃に対してレットは手をださず、口だけで応戦にしている分だけまだ大人げはあった。

「サクラちゃん! 兄さん! いいかげんにして! お客さんをほったらかしにして!

 さっきまでサクラの隣で驚いていたロング髪の少女【ユカリ】が口をはさんだ。

 会話が明後日のほうへいってしまうのを軌道修正するのはいつも彼女の役目だ。

「お客さんって。ユカリなぁ。(お客さんというより逃げこんだ逃亡者だよなぁ)」

「騒がしくてごめんなさい。まずは、一杯のハーブ茶はいかがですか。

 このハーブ茶は我が家の庭で栽培しているんですよ。リラックス効果に疲労回復、病気・キズの治療、お肌すべすべ、髪の毛さらさらと万能な女子向け最強のお茶なんですよ。

 さあ、そこのイスにお座りになって」

 いつのまにか、ユカリはブロンドの少女のためのお茶セットを用意していた。

 ハーブ茶の効果なのか艶々な黒髪ロングのユカリは三人姉妹の長女で、おしとやかでありちょっぴり大人だ。スカートを好んではき今日は紺のワンピースだ。要領もよくこの家の誰よりもしっかりしていて日の打ち所がないように見える。ぱっと見は。

「あ、ありがとう」

 ブロンドの少女はユカリに促され席に座った。

「ユっカっリさ~ま~。クッキーあるぅ?」

 先ほどまで言い争っていたサクラも満面の笑みでいつもの席に座った。

 サクラはユカリを普段は【ユカッチ】と呼んでいたが、お願い事の時は「様」をつける。

 ユカリはやれやれといった表情だがイヤではない。むしろ愛おしさすら感じていた。

 こほんとわざとらしくレットが咳き込んだのち、話しを切り出した。

「もう一度聞くけど……、いやお聞きしますがあなたはどなたですか。隠したい事も分かっているけれど、助けて欲しいなら信用を得る事も重要かと」

 先ほど、サクラに指摘されてか、幾分丁寧に話そうと頑張った。

「あの……、その……、えぇと……」 

 ブロンドの少女は、言葉を濁した。やはり言えないようだ。

(ん~、どうしたものかな。ここで追い返すわけにもいかないし、キツい事言えば二人になに言われるか分からないよなぁ)

「では、こちらも自己紹介をしますのでそれを聞いた上で、言うか言わないかの判断をして下さい」

「は、はい、わかりました」

「ではまずは僕から。名前はレット=リーヴ。二十二歳でこの家の主です」

「あ、やはりここはリーヴさんのお宅で間違いはなかったのですね、あ、なんでもありません。お話しの途中で申し訳ございません」

 ブロンドの少女はなにか歯切れが悪いが、でもどうやら本当に【お客さん】らしい。

「そしてロングの髪の見た目おしとやかな子が長女の【ユカリ】で十三歳。そうだよな?」

「見た目ってなんですか兄さん。それに女の子に年齢を聞いてはいけません!」

 その静かなトーンにユカリの地雷をふんだ気がしたが、まあいい。スルーしよう。でも年齢を気にする年かい? 君は。

「ユカリの入れてくれるハーブ茶は絶品さ。一度飲んだら、他の人がいれたお茶はもう飲めない。さあ、遠慮なく、騙されたと思って一口飲んでみて」

「私は、騙したりしません! さあ、遠慮せずにどうぞ」

「では、いただきます。すぅ。え……なに、これ本当に本当に美味です。本当においしい」

 のどが乾いていたのか、少女は一口目をすすると、そのままあっという間に飲み干した。

「お口に合ってよかった。さあ、おかわりをどうぞ」

 ユカリが再度注ぐと、先ほどは焦っていて感じなかった芳醇な香りを感じる事ができた。

 ハーブ茶の効能か、一杯飲んで落ち着いたのだろう。 

「だろう? 僕の自慢の妹の、自慢のハーブ茶だ。飲める事すらレアなんだ」

「なに自分の手柄みたいにいってんだよ。ユカっちがすごいんだろ!」

「妹の名声は、兄の名声だ。間違った事はいってないぞ。

 で、その元気がいいだけの奴が次女のサク助で、十歳のはず。」

「オイそこのおじいさん、「助」やめれっていったよな! ぼけたのか? えーぼけたのか? それに元気がいいだけってなにさ。私も褒め称えるんじゃい!」

 サクラはちょっとした単語も拾って突っ込んでくれるので、わざとそう呼んだのだ。

 ただいつもツッコミは激しすぎた。見る人が見たら即訴訟といいかねないレベルだ。

 本日四発目は酒肴を変えてほっぺをつねられた。

 レットも負けじとサクラの両方のほっぺをつね返し、またより強くつね返され、それを数回繰り返しのち、二人はゆかりにお盆で頭を軽く叩かれ話しを戻した。

「そして、もうひとり……って、おい、そういえばヒマはどこいった?」

「あれ、そういえばいないね」

「あれ、そういえばいませんね。」

 末っ子の【ヒマワリ】は他の二人と違い言葉も少なめでおとなしく人見知りだ。そのせいではないが独特の世界観をもつ。影がうすいわけではないが目を離すとすぐ見当たらなくなる。

「お~い、ヒマ~! 美味しいお菓子とお茶があるからでておいで~!」(兄)

「ヒマちゃ~ん! 一緒に食べましょうよ~」(ユカリ)

「ヒマッチぃ! でてこないと全部食べちゃうよ~」(サクラ)

 三人がいっせいに大声で呼びかけた。ブロンドの少女はあっけにとられていた。

 ごそごそ。なにやら足下で物音がした。四人はテーブルの下をのぞいた。

 のぞき込んだブロンドの少女は、黒髪ボブカットのかわいらしい女の子と目があった。

 はずかしそうに顔を真っ赤にしたその女の子【ヒマワリ】はきちんと挨拶をした。

「お姉ちゃん、こんにちは。お兄ちゃん、サクタン、ユカタンもこんにちわ」

「はい、こんにちは!」

 ブロンドの少女は即答した。先程までの険しい顔がうそのように表情は穏やかだ。

「いつの間にそこにいたんだよ。全く」

「ヒマっちはいっつもす〜ぐどっかいっちゃうから。心配させんなよな」

「もうヒマちゃんったら。うふふっ。はいはい、そこのお姉ちゃんの隣に座って」

 ヒマワリはテーブルの下から抜けだし、ブロンドの少女のとなりに座ってクッキーを、愛くるしくほおばりだした。

「……で、この子が、三女の【ヒマワリ】で八歳。ま、年齢より幼く見えるかもしれないけれど、カワイイからそれはそれでオッケイ。ちょっと無口で人見知りだけどわが家の癒やし担当」

「皆様、この国ではめずらしいお名前ですねぇ」

「あぁそうだね。僕達が生まれた村では女子には草花の名前をつける慣わしがあるんだ」

 ブロンドの少女は、ここは村の一部だと思っているので聞き流したがこの土地にはこの家一軒しかない。ここは【僕達が生まれた村】ではなかった。

「この国にそのような名前のお花はあったかしら。私もお花は好きだけれどお聞きした事はありませんねぇ」

「この国の花じゃないらしい。同じ品種はあるかもだけどね。名前も別の国の言葉なんじゃないかな。ひょっとして妖精の国とか、魔界とかに咲いているのかもしれない。

 ユカリは紫色、サクラはピンク色、ヒマワリは黄色の花らしい」

「なんだかロマンチックですね。それと私と少し共通点があってうれしくなりました」

「え、そうなんだ、共通点って?」

「あ! その~……申し訳ございません。忘れてください!」

 ブロンドの少女はなにかに気付いたらしくいきなり取り乱していた。やはりなにか歯切れが悪い。言葉づかいと雰囲気、所作を見ると明らかに育ちのよさを感じるが隠したいようだ。彼女は自分の焦りをごまかそうと別の話題をふった。

「ここには、皆さんしか住んでいらっしゃらないのですか?」

「ああそうさ。僕らだけさ。別に隠すような事でもないから言うけど、僕らは血がつながっていない。皆両親は亡くなっている。訳あって四人兄妹としてここで生きているんだ」

「これは大変ご無礼なマネをしてしまいました。知らなかった事とはいえ、触れてはいけない事に触れてしまい誠に申し訳ございません」

「いや気にしないで。両親の件はこっちから話したんだし。ほら三人とも大丈夫でしょ?」

 レットは過剰に反省する少女をあわててフォローしたが、妹達はにこにこしていた。触れてはいけない事ではないようだ。

「三人のご姉妹をあなた様が養われているのでしょうか?」

「こっちのほうが兄貴を養っているんだよ! ね! ユカッチ!」

 サクラが楽しそうに口をはさみ、それにユカリは笑顔で返した。

 レットは、はいはい、わかったわかったという手振りをしながら話す。

「みんなで協力して生きているんだ。だれかに頼りっぱなしじゃなくてね。まあ血は繋がってないけど、心は深く繋がっている……みたいな……」

 レットはただ少し狙ってかっこつけて言ってみたかっただけだ。

「あ~に~き、こっちが恥ずかしくなるんだけどぉぉ。またしょうもない事いって」

 サクラは呆れた目だったが、見方によってはちょっとうれしそうにも見える。

 ユカリは終始ニコニコしたままだ。

 ヒマワリは自分の皿のクッキーを全て平らげ、ユカリにおかわりをねだった。

 ブロンドの少女はというと、呆れるリアクションをとるかスルーすると予想したが、意外と好評だったらしく、ことのほか感動しているようであった。

「ステキなご家族ですね。とてもうらやましく思います。

 ここにきてから、すぐにあたたかさを感じました」

 その言葉の後に、優しい表情であったブロンドの少女が一転真剣な面持ちになった。

「……だから尚の事、私の素性を教えることはできないとわかりました。あなた方に迷惑がかかってしまう。あなた方の日常を壊しかねません。このお茶を飲み終わったら、おいとまさせていただきます。貴重な時間を使わせてしまいごめんなさい。そして楽しい時を過ごさせてくれてありがとうございました。ハーブ茶とクッキー大変美味でした」

「アニキ! にいさん! ……お、お兄ちゃん」

 サクラとユカリは大声でヒマワリはか細い小さな声で若干おくれて……三人がレットのほうを向き一斉に呼んだ。引き留めて欲しいという意味がこもっているは明らかだった。

「三人ともそんなムキになるな。わかっている。わかっているって。カワイイ女性と美人の女性には優しくだろ。じぃちゃんと師匠の口癖だったしな」

「いやカワイクなくても美人じゃなくてもだよ。つ~か女子はみんなカワイイんだよ!」

 レットは先ほどより強くほっぺをつねられた。腫れた頬のまま、気を取り直して告げた。

「誰も助けないなんていっていないんですよ……姫様」

 不意に彼女の呼び名が「君」から「姫様」に変わった。その呼び名に合わせるように、言葉も丁寧になっていた。

「僕はあなたが何者かもすでに分かっています。どうして欲しいのかも分かっています。

 それでもあなたの口から言ってもらわなければ助ける事はできません。巻き込んでしまうとか迷惑をかけるとか、そんなものはどうでもいい。

 あなたがどうしたいか、どうして欲しいかをあなたの口から聞きたいのです。

 この世界で、同じ時代、同じ国に生まれ、今、出会ったのには必ず意味があります。

 あなたはここに導かれて、かつ自分の意志で僕達に会いに来た。

 その意味を無駄にしないで下さい。

 なによりあなたを助けられる力が僕にはあり助けたいと思っているんですよ」

「アーニーキぃ! 僕じゃないでしょ。僕・た・ちでしょ。むしろ私たちでしょ」

 サクラはいちいち突っ込む。

「はい、はい、訂正訂正。コホン。僕ら兄妹はあなたを助ける事ができる力があります。

 それにすがるかは自由ですが僕達は貴方を助けたい。

 助けられる力があるのなら、損得抜き、見返りも抜きで助けなさい。

 逆に助けて欲しい時は言葉に出して「助けて」ときちんと言いなさいと教えられました。

 僕たちに力があるのか信じられないかもしれないけれど……。

 ではなぜ、貴方はこの見ず知らずの家に助けを求めにきたんですか?

 それは僕たちなら助けてもらえると思ったからではないですか?」

「そ、それは……」

「現にあなたは追われていたはず。親友に服を借りて逃がされ、街である夫妻に助けられ、この森に不思議な力で導かれ、深い森を必死にかいくぐってここにきた。いち少女が屈強な追手を振り切れた事に疑問はありませんか?」

(え、この人はどこまで知っているの? どうして?)

 ブロンドの少女は、この家に飛び込んでからのおだやかな時の流れに自分が追われている事をすっかり忘れていた。少女は意を決したように話し始めた。

「なにも明かさなかった無礼をお許しください」

「そんなことおっしゃらないで。むしろ、出会ったばかりの人をすぐ信用して全部うちあけろって言っている人のほうが間違っているんだもの。ねえ、兄さん」

 ユカリは優しく少女に助け船をだした。

「……まあ、それはそうだけど」

 少女に強気で話していたレットもユカリには形無しだ。我ながらこっちのペースでいい流れにもっていったのに、やれやれ……とレットは思う。ユカリはすでに少女側についていた。

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