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森のブーケストラ 〜私が女王になるまでの物語〜  作者: ヒロA


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第二十八楽章 三人の妹達と二人の姉ちゃん達が笑顔で待っているぞ

「おねえちゃああ!」

「ビスカリア〜!」

 消えた二人を目の当たりにした三人の妹と二人の姉は同時に驚きの声を上げた。

 特にサクラとユカリは座り込み、絶望感、不安感、後悔の念が入り混ざり、気が動転して泣きわめいた。

 シルフィーネとラナフィーネは何が起こったのか解らず、顔面蒼白なまま、それ以上の言葉を発する事ができなかった。

 まさかこんな結果になるなんて……この場にいる誰もがそう感じている中、一人だけ顔色を変えない者がいた……ヒマワリだった。

「サクたん、ユカたん、大丈夫だよ。シルお姉ちゃん、ラナお姉ちゃんも安心して」

 ヒマワリは、二人の頭をなでながら慰めた。

「え、ヒマちゃん?」

「うん、お兄ちゃんに変わるね」

 ヒマワリの言葉の後、五人の頭の中でレットの声が聞こえてきた。

「ヒマの言った通りだ。ビスカは大丈夫だ。サクラもユカリも泣くのはまだ早いぞ。うれし涙の分はとっておくんだ。」

「アニキ! 兄さん!」

 二人は喜びの声を同時に上げた。続けてユカリが問いた。

「でも、それはどういう事ですか、兄さん」

「落ち着いて聞いてくれ。順を追って説明するから。

 まずビスカの剣には悪しき物のみを滅する魔法をかけていた。だから最後の一撃でヴァフォーケンはこの世から消滅した。正確に言うと時空の狭間に飛ばしたんだ。

 そこまでは想定通りだった。けれど誤算があった。調子に乗って奴を最後に見くびっちゃったよ。奴はビスカも道連れにしやがった。

 でも大丈夫だ。お姉ちゃんは元気に帰ってこられるよ」

「お姉ちゃんは本当に帰ってくるの? でも、どうやって……」

「回りくどい説明いいから早く教えてよ」

「ヒントだ!……」

「にゃろ〜! だから回りくどい言い方するな!」

 いつもの調子のレットの回りくどさにサクラはいらついた。兄が目の前にいれば速攻ボコられていただろう。

「まあ、そう焦るな。こういう時は落ち着いて冷静にならないとうまくいくものもいかなくなるものさ。ビスカはフレグラントの王女ではあるが同時にリーヴ家の一員でもある」

「???」 

 兄がなにを言いたいのか、サクラとユカリはさっぱりわからず不信な表情を浮かべた。

「もっとわかりやすく言おうか。彼女にはリーヴという名を刻んでいる。

 この何日間、一緒に過ごした濃い時間の中でね」

「あああっ!」

 サクラとユカリは同時に声を上げた。どうやら二人とも理解したようだ。

「そして、ビスカにはお前達が新しい名前をつけた。

 彼女は今まで呼ばれた事のない【お姉ちゃん】っていう名前を」

「ブーケストラ・コンダクターね!」

「ブーケストラ・コンダクターだ!」 

 二人は希望が生まれた顔を見合わせて同時に叫んだ。

「そうだ。さすができのよい俺の、自慢の妹達よ。

 その【ブーケストラ・コンダクター】でビスカだけを連れ戻す」

「でも本当にそんな事が可能なの? この世界と離れているし、人に使えるの?」

 ユカリが心配そうに確認した。

「おいおい、自分の魔法をよく理解していないのに、なんで今まで使えていたんだよ。

 実際、ぶたさんを上空から放り投げたときに使っていただろ。全く。

 これだから天才って奴は……」

「あの時は人として扱っていません。ひとつの物体として認識していただけです」

 さらっとユカリは、自分が背負い投げたぶたさんにひどい事を言い放った。

「お前カワイイ顔して意外とひどいな。まあ、いい。奴は極悪な【人でなし】だったしな」

「兄さん、ぜんぜんうまくありません」

「アニキ、つまんね」

「コホン、ともかく【ブーケストラ・コンダクター】は人に対しても使える。この魔法は引力、重力、磁力等を自在に操れるものだろ。考えようによっては絆の力とか愛の力も引力の一つさ。

 だから名付けた名前に意味があればあるほど、その思いが強い程、自分の思い通りにできるんだ。洗脳とか操るというよりは、心を強固に結びつけ引き寄せるんだ。

 お前らの【ビスカお姉ちゃんを思う気持ち】は、時空の違い程度で離れちゃうものか?」

「兄さん! 私と……いや私達とお姉ちゃんの結びつきはそんな簡単には切れません!

 他国であろうと、宇宙であろうと、異世界であろうと、時空の隔たりがあろうと、深く深〜く繋がっています!」

 兄のあおりにまんまと乗せられ、ユカリは語気を荒げて反論した。

「ユカっち、どうどう、どうどう。落ち着いて。落ち着いて」

 いつもは真っ先に暴走するサクラだが、お姉ちゃんの事となるとなだめる側だった。

「よし、その強い気持ちが欲しかったんだ。さあ、始めようか。ビスカをわけがわからない場所で待たせたらかわいそうだしな。これ以上、説明は不要だよな」

「もちろん。早くお姉ちゃんを連れ戻しましょう」

「おう!」 

「おうぅ!」

 三人の妹達は心を一つにして、片膝をつき目を閉じ、両手を合わせ祈った。

 その思いを結びつけ、調整するがレットだった。

 時空を越え、わずかな気配をたどって正確な位置を導き出し、最適な力や速度で、五体満足にこの世界に戻さないといけない。口でいうより難解だった。

 実はビスカがこの場所から消えてから一番動揺していたのは、誰よりも事情を把握していたレットだった。だがそんなそぶりはまるで見せず、妹達を落ち着かせるために余裕いっぱいな演技をした。良い手を思いついたのはいいが、始めての事象で始めての試みだ。 

 こんな自信たっぷりに言えるはずはなかったが不思議と失敗する気が起きなかった。

 三人の妹達の思いの強さを信じていたから。そして遠い時空の狭間で、ビスカが自分達を信じていると感じていたから。あとは自分が自信を持って遂行するだけだ。

「ビスカとは遮断したが俺達はフェシーとのリンクが繋がったままだ。

 さあみんなで探そう。彼女を思い浮かべながら意識を集中するんだ」


 ……その頃、ビスカは時空の狭間で意識を取り戻していた。

「ここは? 確か……ヴァフォーケン卿を斬ってから、彼の声が聞こえて……。どうなったんだっけ? 私死んじゃったの? ここは天国でもないみたいだけど……」

 彼女はなにもないどこかに浮いていた。彼女は光の球の中で抱かれるように浮いていた。どちらが上か下かもわからず、ここが暗闇なのか明るい空間なのか不明瞭な不思議な感覚だった。

「そっか。君が私を守ってくれたんだ。ありがとね」

 ビスカは自分が包まれている球体の内面を手でさすりながら微笑んだ。彼女を優しく包んでいたのが胸の中に潜り込んだ元精霊獣のウィルオーだった事を感覚的にわかった。

 ウィルオーは彼女の言葉に返事をしたかのように数度優しく点滅した。ウィルオーのおかげだろうか、球の中では空気が存在し気温や気圧も保たれ普通にいられた。

 それにより幾分平常心を保てた。不思議と不安も恐れも後悔もなかった。自分は成すべき事をきちんとやってのけたと実感していたからだ。

 そして自分がまだ死んでいないのなら必ずレット達が助けてくれると信じていたからだ。


「兄さん、お姉ちゃん見つからない。見つからないよ〜」

 王宮の方ではビスカを探し始めてから、それほど経っていないはずなのに永遠とも思える時間を皆が感じていた。 

 ユカリは焦りの中レットに泣きながら訴えていた。それにつられるようにサクラも涙を流していた。レットが慰めの言葉をかけようとしたがその必要はなかった。

 シルフィーネとラナフィーネの年長組二人が泣いてうずくまっている二人の頭をなでた。

「大丈夫だ二人とも。必ずお前達のお姉ちゃんは見つかる。帰ってくる。

 ビスカがお前達をおいてどこかへ行くものか。私達は魔法は使えないけれど思いは一緒だ。私達の分も魔法に乗せて訴え続けろ! 叫び続けろ! 探し続けろ!」

「私達もついていますからね。こんなに思ってくれる妹ができたなんてビスカは幸せものですね」

 シルフィーネは力強く励まし、ラナフィーネは穏やかに励まし一緒に祈った。

「それに幼き頃から私はかくれんぼでビスカに負けた事はないんだ!

 あの子は隠れ続ける事が苦手なんだよ。見つけてくれなかったらどうしようって不安になって、わざと自分の場所を知らせるようにしっぽを出すんだ。

 ビスカを見つけると、待ってましたとばかりに満面の笑みを浮かべるんだ。

 今回だって何かしらのしっぽを出すはず。それを注意深く探すんだ。

 必ず見つけるぞ! ビスカを!」

 

 ……数分なのか数時間なのか、すでに何日、何ヶ月たっているのか時間感覚すらわからない空間で、ビスカは逃亡してからの出来事をぼうっとしながら回想して涙を流していた。

(サクラちゃん、ユカリちゃん、ヒマちゃんに会いたいな〜、お顔が見たいな〜。お話ししたいな〜。レットさんにもっとたくさん教えてほしいな〜。シル姉様とラナ姉様ともっと……)

 ふいにこぼれた涙が、胸の【ソウルフル・クォーツ】に触れた瞬間、想いに呼応するかの如く優しく光りだした。

(お姉ちゃん! お姉ちゃん! どこにいるの? 返事して〜! 早く帰ってきて〜!)

 空耳か? 幻想か? ユカリ達の声が【ソウルフル・クォーツ】より聞こえてきた気がして、はっと目が覚めて叫んだ。

「私はここにいるよ!〜」

「お姉ちゃん! み〜つけた!!」

 ビスカが叫んだと当時に、サクラとユカリは顔を見合わせ同時に歓喜の声を上げた。

 二人は時空の彼方の【ソウルフル・クォーツ】の優しい光を感じ、意識の中ではっきりとビスカがいる場所を認識した。

「ふぅ。まずは第一段階突破だ。また見失わないうちに次いくぞ。ユカリ」

 レットの声にユカリはうなずき、一度深呼吸をして立ち上がり指揮者のように両手を高く上げ手を振りながら歌うように魔法を発動した。気持ちが入りすぎて長い詠唱だったが。

「【お姉ちゃん】のカワイイ笑顔も、優しい眼差しも、キレイな髪も、抜群のスタイルも、澄んだ声も、明るさも、まっすぐな所も、勉強熱心な所も、私達にくれた愛情も、強さも弱さもお茶目な所も、演技が下手な事も、ぬくもりも、喜びも、楽しみも、希望も、それからそれから、え〜とえ〜と、とにかくみんなみんなみ〜んな覚えている!」(ユカリ)

「でも、覚えているだけじゃイヤなんだ。目の前にいて欲しいんだ!

 もっともっと【お姉ちゃん】の事が知りたいんだ〜。

 私達の事ももっともっと【お姉ちゃん】に知って欲しいんだ〜!」(サクラ)

「ヒマももっと【お姉ちゃん】とお遊びしたい! お話ししたい!」(ヒマワリ)

「だから、リーヴ家全員がお願いします〜!」(ユカリ)

「【お姉ちゃん】戻ってきて〜!」(サクラ、ユカリ、ヒマワリ)

「ブーケストラ・コンダクター!!!!!」

 最後にレットを含めた四人兄妹が全ての思いを込めて同時に叫んだ!

(ビスカ、ビスカ? 聞こえているか? 君の逃げる先には、三人の妹達と二人の姉ちゃん達が笑顔で待っているぞ。そこから逃げてこっちへ帰っておいで)

(……はい、レットさん、聞こえています。今帰りますね)

 

 王宮では一瞬の静寂の後、先ほどビスカがいた空間が歪み、辺りはまばゆい光に包まれ、光は拡散した。その場所に一人の黒髪の少女がたたずんでいた。

「ここは……? 私は戻ったの?」

「お姉ちゃん! お姉ちゃん! おねええええええちゃあああああん!!!」

 待ってましたとばかりに三姉妹は、猛ダッシュでビスカに飛びついていた。今度はシルフィーネに制止されなかった。

「三人ともケガはない? 大丈夫? 大丈夫? ……本当に……本当によかった」

「お姉ちゃんも大丈夫? 平気? ケガはない? 気分悪くない? 恐くなかった? 寂しくなかった? 私達は恐かった。寂しかったよぉ……うぇ〜ん」

「みんなありがとう。ユカリちゃん大丈夫だよ。心配かけてごめんね。変な場所に飛ばされたけど助けてくれると信じていた。みんなの声届いたよ」

「よかった。本当によかった。こちらこそ助けてくれてありが……うぇ〜ん」

「サクラちゃんも元気でよかった。」

「お帰り! お姉ちゃん」

「ただいま、ヒマちゃん! 会いたかったよ〜」

 ビスカと三人の妹は、心の底から安堵と喜びの涙を共有した。

 存分にスキンシップを交わした後、ビスカは目で二人の姉に合図した。

「わかっている。私達よりも先に勇者の元へいっておいで」

 シルフィーネはがらにもなく? 優しく答えた。

 ビスカと三姉妹はレットの元へ向かった。

 光の剣からいつのまにか小犬状の形に戻った【こまる】も一緒に走っていた。

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