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森のブーケストラ 〜私が女王になるまでの物語〜  作者: ヒロA


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第二十二楽章 ビスカ! この戦いはリーヴ家の総力戦でいくぞ!

 その後、レットは【フェシー】にこもった。

 ヒマワリが捕らえられているからだろうか。フェシー自身も調子が悪く、性能の三割も稼働していない。それでも【フェシー】にすがるしかなかった。

 少しでもいい。ヴァフォーケンの攻略と妹達を救出するための手がかりが欲しかった。

 様々な検索をかけ、様々な場所を探し、様々な状況を想定し様々な戦術を立てる。

 しかし、どれもこれも情報不足すぎて決め手にかける。

 空間転移でどこに飛ばされるかもわからず綿密な作戦の打ちようもない。

 かつ焦りの色が濃くなり冷静な分析はできそうになかった。

 それでも思考を止めるわけにはいかない。

 幾数もの空中モニターに映しだされるわずかな情報をひたすら見続ける。

 先ほどの光景も録画されており、何度も何度も繰り返し見続けた。

「サクラ、ユカリ、ヒマワリ、絶対助けるからな」

 何回、何十回とその言葉を呟いていた。

 ビスカのほうも落ち着いていられるわけではなかった。

 リビングで両手を合わせ無事を祈っていたかと思えば外にでて剣を振った。

 剣を振ったかと思えば、目をつむり、まとまるわけもないのに考えを巡らせた。

 考えれば考えるほど自分のふがいなさに後悔の念がつのる。

 明日の準備をしようにもそれほどやれる事もないから、しかたなく剣を磨く。

 そしてまた祈る。

 家の周りを散歩し部屋の至るところをまわって妹達のぬくもりを思い出す。

 ここへきてから時はそれほど過ぎていないのに、どこに行ってもサクラやユカリ、ヒマワリが微笑んで「お姉ちゃん」と呼んでくれる幻影が見える。

 ふとした瞬間に涙が流れてしまう。

 そんなときに先生であった故ワイスの言葉が思い浮かべた。

「涙は本当に悲しい時か、本当にうれしい時に流すものさ。

 今は泣いてはいけないよ。ビスカ。涙で前が見えなければ前へ進めないだろ」

 泣き虫だった幼少期のビスカは、特にうまくいかない時にワイスの前でよく泣き、同じ事を何度も言われていた。まあ、泣き虫なのは今も変わらないのだが。

「はい、わかりました。先生。泣くのは助けた後にします。

 だから先生、お力をお貸しください。どうかこの弱い私の背中を押してください」

 心にいる故ワイスと会話をしながら、目をつむり祈った。その時……

「ひゃぁぁ~!!」

 不意に、ビスカが大声を上げた。

 誰かに、ドンと背中を押された。もちろんワイスが蘇ったからでない。犯人はレット以外にいない。リビングでビスカのつぶいていた声が聞こえたので、押してみたのだ。

「ちょっとは落ち着いたかい? ビスカ。師匠の代わりに押したぞ」

「びっくりさせないでください! もう! 

 レットさんこそ大丈夫ですか? なにか手がかりはつかめましたか」

「いや、ぜんぜんダメだね。想定外の事にここまで自分が弱いとはね。力のなさにほんとイヤになるよ」

「それは私も同じです。いや、そもそも私がここにこなければこんな事には……」 

「はい、ストップ! それ以上は言わないこと。起こってしまった事を悔やんでも意味はない。俺達が二人して自分を落としていても解決なんてしない。それに君がここに、こようがこまいが、いずれこうなっていたはず。逆に君がきてくれてよかったよ。俺一人じゃとっくに潰れていた」

「それは私のほうです」

「また堂々巡りになっちまうな。俺達は今できる事を精一杯やろう。これ以上後悔しないように。食欲ないだろうけれど、しっかり食べてしっかり寝て、明日体調万全で助けにいこうな」

「はい、そうですね。今日は私が夕食を作ります。レットさんは休憩していてください。

 ずっと【フェシー】に篭もっていてお疲れでしょうから」

「いやいや姫様にそんな事させられないよ。今日は俺の食事当番だから、俺がつくるさ」

「もう姫なんて今更よしてください! 私はビスカです。ここでは三人の妹達の姉です」

「ああ、そうだったな。君は四人姉妹の一番上の姉だ。そして俺の妹? かな」

「ははは、そうですね」

「では一緒に創るか」

「では一緒に創りましょう」

 二人は同時に提案し、いつもよりぎこちなかったが笑いあってキッチンに向かった。

 それでも食欲がわくわけもなく凝った料理を作る気力もない。

 簡単なサラダとサンドイッチを作って、初めてともいえる二人だけの夕食を迎えた。

 こんな状況じゃなければ、二人きりのディナーなんてまたとない絶好のチャンスともいえるが、ロマンチックな気分でいられるわけはなかった。

 今日は、ビスカが率先して食前の祈りの詠唱をした。

「サクラちゃん、ユカリちゃん、ヒマちゃん、明日助けに行くからね。待っていてね」 

 二人は祈りを捧げたあとに「いただきます」と手を合わせ食事を始めた。

「ユカリちゃん達は無事なのでしょうか? 酷い事をされていないでしょうか?」

 ビスカは聞いてもわかるはずのないとわかっていたが質問せずにいられなかった。

 不安そうにみえるビスカを少しでも落ち着かせるためにレットは自信ありげに答えた。

「それは心配いらないよ。ほら、このペンダントで生きているとわかるから」

 そう言うと三人のソウルフル・クォーツのペンダントを見せた。

「もし、三人が絶命している場合は、この魔法石もただの石に変わっているはずだ。

 それにもうひとつ。ヒマと繋がっている【フェシー】も稼働できている。奴の魔法のせいか不安定で、どこにいるかまではわからないけど無事なはずだ。

 それに、これからも奴はきっと妹達を殺すようなマネはしないはずさ」

「それはなぜですか?」

「ああ妹逹は三人とも才能の塊だからね。あいつが貴重な原石を簡単に手放すわけはない。

 洗脳するなり自分の手駒として育てると思う。でもあの三人は、やすやすとそんなものにかかったりしない。だからまだ大丈夫だ。俺達に今できる事は明日のために食べて休む事だ。」

「はい、そうですね。あの三人は強くてカワイイですもんね!」

 少しは気がまぎれたのか、ビスカはいくぶん食が進んだ。だが……。

「やっぱり寂しいですね」

「ああ、寂しいよな。あいつらの笑い声がないとごはんも味気ないな」

「三人がいないだけでこんなに静かなのですね」 

「君がきてから特に三人ともうるさかったからね。

 三人があそこまで喜んでいたのは君のおかげだよ。本当にありがとな」  

「私の方こそ感謝しかありません。みんなで食べる夕食、本当にたのしかっ……」

 ビスカは先ほど泣かないと決めたけれど、やはりあの三人の笑顔と声を思い出すと泣かずにはいられなかった。それを見てレットはそっとハンカチを差し出した。 

「今は思い切り泣いていいから。でも明日の朝はお互いすっきりとした顔で迎えよう。

 泣いたままだと前が見えないからな。助けた後で、また思いっきり嬉し涙を流そう。

 明日は、みんなでお帰り祝勝パーティーをするぞ」

「は、はい、そうですね」 

 ビスカは先ほど思い出したワイス先生の話しの続きをレットにされているようだった。

 レットの心にもワイス先生が生きている。これほど頼もしい事はなかった。

 静かな夕食を早めに終え、今できる範囲のミーティングをしてそれぞれの夜を迎えた。

 ビスカはベッドにはいったものの寝付けず、夜の星を眺めたり、何度もシャワーで心身を清め悲しみや後悔を打ち消し、なけなしの勇気を叩き起こそうとしていた。

 レットも結局ほどんど寝ずに【フェシー】にて最後の悪あがきをしていた。

 

 ……そして、決戦の朝を迎えた。

 約束された時間に、家の前にある空間転移の魔方陣はどこかにつながったと分かった。

 レットとビスカは考えうる限りの準備と最終打ち合わせをして陣の前に立った。

 ビスカは急に思い出して尋ねた。今までいっぱいいっぱいで気が回っていなかった。

「あ、そういえば、【こまる】ちゃん、どうなったのでしょう?」

 レットは神妙な面持ちで返事をした。彼はわかっていたけれどあえて触れなかった事だ。

「ああ、残念ながら【こまる】は多分、奴に存在を消され……うわ、いてっ」

 全てを答えるのをまたず、どこからか高速で飛んできた光の玉がレットの額にクリーンヒットした。

「ウィルオー?」

 ビスカは驚きの声を上げた。

「お前は……どこのウィルオーだ? ん? あ、そうか、お前は【こまる】か!」

 レットもうれしそうに声を上げた。その光の玉は光の精霊ウィルオーであり、ガーデ家の守護獣であり愛犬であり家族である【こまる】だった。

「なぜ【こまる】ちゃん、もとの光の玉に戻っているのですか?」

「推測でしかないけれど、自己防衛本能で戻ったか、それともヒマが元に戻して逃がしたか、奴が無力化したかのどれかだろうね」

 推測というよりも、ただ可能性を羅列しただけで本当の事はレットでもわからなかった。

「この姿でも生きているのですね? 【こまる】ちゃんは無事なのですね」

「ああ、無事だ。それに犬の形に戻らせる事もできるよ」

「それだけでもよかった」 

 ビスカは、絶望の状況の中でも希望のひとつが生まれたようでうれしかった。

「ただこいつ、守護獣の役目、なにも果たせなかったけどね……うわ、いって」

 ふわふわ中に浮いていた光の玉は再び、レットの顔面目がけて突進した。

 怒っていたのか? つっこみか?

「じょ、冗談だって。お前が生きていてくれて俺も嬉しいんだよ。お前が生きていると言うことはヒマ達の無事がより確かなものになるしな」

「そうなのですか?」

「【こまる】は、ヒマと密接につながっている。この世界に留まっていられるのはヒマのおかげさ。もしヒマが無事じゃなければ、【こまる】もこの世界に存在していない」

「本当なのですね。よかった……」

 ビスカは泣きそうになるくらい安堵したが今回は泣くのはこらえた。

 ソウルフル・クォーツ、レットの推測、こまるの存在と、無事と確信できる要素が揃っても結局は助けてこの目で顔を見て声を聞かない限りは安心してはいけないからだ。

「【こまる】がいてくれれば、奥の手がひとつ増える。俺達にとって力強い味方だ。

 一緒に助けにいってくれるか? こまる!」

 レットの問いに答えるように【こまる】のまとった光が強くなった。やる気満々のように感じられた。

「それじゃあ、三人で助けに……」

「三人で助けに行きましょう!」

 レットの言葉を奪うようにビスカが宣言した。

 レットもかけ声をとられ、やれやれという感じだったが、二人、いや三人は笑いあった。

 光の玉【こまる】は自らレットの腰のかばんに入っていった。

 その後、レットはビスカに水筒を渡した。

「今のうちに飲んでおいて。のどが乾いているだろ」

 ありがとうと告げ水筒に口をつける。その後でレットも口をつける。

 関節キスだったが二人ともまるで意識しておらず甘酸っぱい感情は一ミリもなかった。

 きっと後で思い出した時に恥ずかしがる事だろう。

 水筒の中身はユカリが作っていた特性のハーブ茶だった。

 二人はこのハーブ茶で心を落ち着かせたのだがその効果は絶大だった。

 お茶本来の効能と魔法による癒やしの調合に加え、ユカリの真心が体中にしみわたった。

「このお茶、本人から又入れて貰おうな。ユカリが目の前で入れてくれた方が何倍もうまいからね」

「はい、そうですね。いれたての方がやっぱり美味しいもん」

「よし! 落ち着いたところでビスカ、さっきの【こまる】のように俺の頬に一発いいやついれてくれない?」

「え?」

「気合いいれるためだ。遠慮しなくていいぞ」

「で、でも、本当にいいのですか?」

「ああ、遠慮なくガツーンといってくれ。ちょっとでも油断すると恐怖と絶望が顔を出しちまう。少しでも成功の確率を上げたいんだ」

「はい、それならわかりました。いきますよ~! はぁ〜あ!」

 ビスカは、右手こぶしに息を吹きかけ、肩を回し始めた。

「あれ? なんか俺の想像していたのと違う……」  

 ビスカはレットの戸惑いを無視して、サクラばりの強烈な右パンチをレットに放った。

「だだだ、だいじょうぶですか~!」

 勢いよく飛んだレットに対して、心配の声を上げた。

「いてぇ~、そこまでいい奴もらえるとは思わなかったよ。てっきり平手打ちだと。

 そういや師匠から武術も教わっていたんだよな。はははっ」

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。勘違いしていました!」

「いやいや、謝らなくてもいいさ。そのおかげで超超超気合いがはいった。三人分の思い確かに受け取ったよ」

 ビスカは転んでいたレットに手を差し出し起こした。

「なら、私もレットさんの気合いの一発をください!」

「え……でも……うん、わかった。じゃあ、三人の思いのこもった奴をあげようか。

 姫様とて手加減ぬきだ。覚悟して目を閉じて」

「はい」と言いビスカは歯を食いしばった。まさか、さすがに女子相手に本気をだすわけないだろうと思ったが、ビスカが思う以上に強烈な一撃をくらった。

「いたぃ!」  

 ビシッと、おでこにデコピンが炸裂した。それでも結構痛かった。気合いをいれるための事なので痛くなければ意味もないのだから結構強めだった。 

「どうだ、ヒマ直伝のデコピンだ。気合い入っただろ?」

「はい、とっても! ヒマちゃん達の想いを額に刻みました」 

 二人は笑いあった後、改めて真剣な面持ちに戻り空間転移の魔方陣の前に並んで立った。  

「準備はいいか、ビスカ! この戦いはリーヴ家の総力戦でいくぞ!」

「はい!」

 もちろん、ビスカも今はリーヴ家の一員だ。

 二人は顔を見合わせる事もなく前だけを見て、ビスカの右手とヒイロの左手をつないだ。

「俺達は、ユカリ、サクラ、ヒマワリの笑顔を覚えている。それを取り戻す」

 レットが静かに言葉にした瞬間、二人の姿は空間転移の魔法により消えた。

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