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森のブーケストラ 〜私が女王になるまでの物語〜  作者: ヒロA


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第十九楽章 姫に小さくされたロイヤルガード【こまる】

 チュンチュンチュン。

 ビスカは小鳥のさえずりで目が覚めた。もちろん、昨晩あのあと何もあるわけはない。そんなシーンはサクラでなくても誰も許すわけにはいかないだろう。

 彼女は一人でぐっすり就寝した。

 あの後、三姉妹の寝室に戻ったのだが、寝相の悪い誰かのせいでベッドに自分の寝る空間は存在せず、結局前日と同じ部屋で一人で寝る事になった。

 目覚めはよかったが起きたのはビスカが最後だった。

 それにしてもこの兄妹の朝ははやい。いや姫生活をしていたビスカが遅いのだろうか。

 起こす必要のない時は、ビスカが起きるまで寝かせてやろうと兄弟間で取り決めていた。

 ちなみにこの家では基本、レットが一番早く起きる。意外かもしれないが、彼が一番遅くに寝て一番早く起きる。どうやら王都での修行時代の習慣がそのまま続いているらしい。

 ただし、かなり深い夜や早朝まで研究なり勉強なりを熱中している時は例外だった。

 扉に、起こさないようにと伝言を貼り遅い時間まで寝ている事もあった。

 ビスカは昨日大量に買った服の中から着るものを選び、リビングへ降りた。

 普段は姫仕様の服ばかりだったので、普通の人が着る服はどれもかわいく見え、決めきれなかったので目をつむり掴んだ、白基調の花柄のワンピースだった。

 冒険、おでかけ、買い物、妹づくり、料理、たくさんの会話、あふれる笑顔……この家に来てからまだわずかしか立ってないのに、いろいろな経験をし、やりたかった事が次々実現してなにか夢のようにも感じた。

 自分は逃亡者であり、かつ大義もある事を忘れてはいなかったが、兄妹がそれを重くさせないようにしてくれていると感謝していた。

 階段を降りると、ばたばたとなにやら騒がしい。

「そっちいたよ~ヒマっち~!」

「まって~まって~!」

 なにやら小さな光の玉をおいかけて二人でリビング中動きまわっている。

「おはようございます!」

 朝いちのビスカの声は聞くだけでどれだけ幸せな気持ちになるだろう。

 それだけで今日一日がんばれる気になる。それほど優しさと優美さ、そして力強さも内包し、心が落ち着き、活力が生まれるような、何度でも聞きたくなる声であった。

 ドタバタしていた二人は急に制止して目を輝かせながら一目散にビスカに詰め寄った。

「おねええちゃあああああん! おはよー! すっごくすっごくキレイだよ! 

 カワイイよ~! カワイイよ~!」

「お、ねえちゃん! カワイイ! カワイイ! ヒマも同じもの着たい!」

 昨日買った服をサクラとヒマワリは大絶賛だ。一緒に選んだのだから直の事うれしい。

 昨晩ファッションショーをしようとして、ぐっとこらえてやめた甲斐があったものだ。

 といっても三姉妹は二日連続寝不足で昨日は睡魔に勝てなかっただけなのだが。

「ユカっちぃぃぃぃぃ! はやくきてぇ! はやくこっちきて!」

 調理場でなにかしていたユカリが、なになに、なにがあったのとせわしなくやってきた。

「あら~! まああ! カワイイ! カワイイですわ! お姉ちゃん!!」

 思い切り目をハートマークにして全身をくまなく、なめまわすように見る。

「幸せです。私は世界一の幸せもの。幸せすぎてつらい。つらいです。本当につらいです。

 どうしましょ。どうしましょ。私はいったいどうすればよろしいのでしょうか。なにを捧げればこの幸せな光景と釣り合うのでしょうか。

 こんなお美しい方に、生きているうちにお目にかかる事ができるなんて。

 あ~私はいつ天に召されても後悔はありません。

 おお神よ。天よ。このか弱き少女に救済の祝福を与えてくださいまして感謝いたします。

 このご恩は一生かけてお返しいたします。これからもお見守りくださいまし。

 そして明日も明後日も永遠にお姉ちゃんの美しさをこの目に焼き付けてさせてくだ…」

 なにやらユカリがいちばん暴走しだした。少女誌フローリアンヌのラブコメの影響か?

「ありがとね! みんなが選んでくれたからだよ! ホントうれしい!」

 といいながら、スカートの両すそを持ち若干あげ、右に左に反転した。

 ビスカの言葉づかいも幾分、フランクになってきたようだ。

 美しすぎるビスカの所作に、黒髪ロングの夢見る乙女がいよいよ本格的に覚醒した。

「そんな事めっそうもございません。ございませんよ、お姉ちゃん! お姉ちゃんは元からキレイだから、本当は何着ても似合うし、私たちが選ぶ必要なんてないのだけれど、それでも私たちはどれが一番似合うのかなって一生懸命選びたかったし、あ、でもやっぱり似合わなかったらどうしよう? って不安はあったけれど、いや、そもそも似合わない服なんてないよね。この世に存在しないよね。してはいけないよね。うんうん。似合わない服ってむしろそっちのセンスがないだけだよね。むしろ、お姉ちゃんに服が合わせろっていう感じだよね。でもお姉ちゃんの好みもあるし、イヤって言われたら私ショック死するだろうし。だけどお姉ちゃんの言葉で死ぬのならむしろ本望だし。イヤって言われなくても私幸せすぎて結局死ぬだろうし。でも死んだら、カワイイお姉ちゃんを見る事ができなくなるからやっぱり死ぬわけにはいかないし。まだいろんなお姉ちゃんを見たいし。お姉ちゃんと一緒にいろんな事やりたいし。うん、いっその事、この家の全財産でお姉ちゃんの服を買えばいい。うんうん、それが一番幸せな使い方だわ。いや待って。そんな事をしたらお姉ちゃんに貧乏暮らしをさせてしまう。いやいや、私と兄さんが死ぬ気で働けばなんとかなるわね。ん、いやそもそもお姉ちゃんお姫様だから、本来ならお金持ちだし服選び放題だし。そうかヴァフォなんとかさんを倒しちゃって、お姉ちゃんが女王様になればいいんだ。いや、待って待って待って。そうなると、お姉ちゃんは私から離れちゃう。そうか、私が侍女になればいつまでもお姉ちゃんといられるんだ。いやそもそも私、妹になったんだから侍女でなくてもサクラちゃんとヒマちゃんと一緒に王宮に住んでもいいんだよね。うん、そうしよう。それならまずは私が強くならないと。今すぐ修行しないと。兄さん、おキクちゃん用意して。サクラちゃん、修行の相手して。ヒマちゃん、応援して私に力を与えて。お姉ちゃん私を見守っていて。いや私がお姉ちゃんを見守らなきゃ……」

 ユカリのビスカ愛が止まらない。いよいよ壊れだした。

「ユカッチ、ユカッチ! ユカッチ! こ〜の〜ユカリ~!!!!」

 名前を連呼してもウンともスンとも応じない暴走した乙女に対して、最終的に【魔王の娘】の一撃が入る。」

 兄の制裁の時のようなキックやパンチではなく、軽くデコピンだ。

「はうぅっ!」 

 はっとユカリが我に帰る。

「え? え? え? わ、わたし何していたの? なにも記憶がない……

 でも、その服でお姉ちゃんのカワイさが何億倍も増したのだけはわかります!」

 ん? まだ暴走している?

「褒めてくれてありがと、ユカリちゃん! また服一緒に買いにいこうね!

 はい、鼻血ふいて、せっかくのカワイイお顔が台無しだよ!」

 ユカリは興奮のあまり、両方の鼻から鼻血を流していた。姫様は天然の人たらしだった。

「はい! またたくさんお買い物行きましょうね! お姉ちゃん!」

 鼻血を拭きながらも、新たに鼻血がまた滝のようにでてきた。

 ビスカは、ユカリの鼻血の治療を手伝いながら言った。

「……そういえばサクラちゃん、ヒマちゃん、さっき何で騒いでいたの?」

「ああああああ、忘れてた~!」

 二人が同時にいった。

「あいつ、どこいった~!!!」

「どこいった。どこいった~」

 どうやら、昨日森で捕獲した元魔獣、光の精霊ウィルオーが暴れ回っているらしい。

 お茶をのみながら静観していたレットが呑気な声で口をはさむ。助けようとはしない。

「おーい、そっちにいるぞ~。早くつかまえろよ~」

 二人がばたばた騒いでいる中で、なぜこの男は優雅にお茶を飲めていられるのだろうか。

 彼は【フェシー】の力を借りて、彼女らの行動パターンを分析し、彼女らが動く道筋以外の場所にお茶セットをおき、危害を貰わないようにしていたのだ。

 それに想定外の行動時の場合もすばやく対応し、食器が置かれた場所の若干の微調整を繰り返していた。【フェシー】の無駄使いと言えなくもないが、それをする価値が充分にあった。

 妹達の(楽しんでいる)一生懸命な行動を、ただ危ないからとか、自分がイヤだから止めさせるとかはしたくはなく、何でも思い切りやらせてあげたいという親心、いや兄心が基本にはあるのだ。……とフォローしてみたが、実際のところ、ただただ自分が普通に美味しくお茶を飲みたいだけの行動だったのかもしれない。

 どうせほぼサクラはなに言っても聞かないだろうし、こっちで大惨事にならないようにすればいいだけだ。

「アニキも手伝ってよ~」

「人には役割分担があってだな、人の仕事をとってはいけないんだよ。

 それはお前達の仕事だ。俺の仕事じゃない」

 妹の愚痴にもっともらしい言葉で兄は切り返す。

「あああああ、もうごちゃごちゃうっさい、とぅ!!」

 不意に、サクラがレットに向かって飛んできた。そのままレットの顔面を踏み台にして、ジャンプし両手を頭上に伸ばす。

(俺の顔面を踏み台にしただと? にゃろ〜!)

 サクラの両手の中にぼんやり光る玉ウィルオーがいた。

 質量はなく、触ることができないはずのウィルオーは存在を認知されたからか、捕獲する事はできるようだ。軽やかに着地したサクラはつぶれた顔面の兄に満面の笑みで嫌みを言った。

「ありがと。アニキ! 手伝ってくれて!」

 レットはウィルオーの時間事の位置と行動予測はすでに完了しており、事前にサクラが自分を踏み台にしてウィルオーを捕獲できる事はわかってはいたが誤算もあった。

 レットは肩を踏み台にされると思っていた。その時は肩に平手をおいて発射台になろうと思ったけれどそうはいかなった。

 自分が命名した【魔王の娘】はその二つの名に相応しく? 無慈悲にわざと自分の顔面を踏み台にしやがったのだ。とっさすぎて防御結界盾を貼ることもできなかった。

 ウィルオーはすぐさま箱にしまわれた。

 リビングのテーブルのまわりに全員が集合し、先ほどの箱はテーブルの中央に置かれた。

「ビスカ、今から面白いものを見せてあげよう」

「はい!」

(なになに~! やった~! 今度はどんなものが見られるの! ドキドキ、ワクワク)

【好奇心姫】の心は大きく高鳴り元気に返事をした。

 新しい何かを見せてくれる事が「ひとつの楽しみ」になっていた。手には書くものとメモ帳らしきものが握られている。かな~りの前のめりで目がキラキラ光っていた。

 まさに、実験をする教授と、勉強熱心な生徒の図式だ。

「ユカリ、用意はしてくれたかい?」

「はい、兄さん、自信作です!」

 そう告げ、取り出してきたものは、白い犬のぬいぐるみだった。

 どうやら、ユカリが編んでつくったらしい。

「うん、かわいいな。さすがユカリ、仕事がはやい。それにいいできだ」

 レットは軽く褒め、ぬいぐるみを受け取り箱の横においた。

「さあ、やろうか。マジックショーの始まりだ。まばたきする事なく刮目しろよ!!」

 箱からウィルオーを優しく取り出した。両手の間で浮いていた。

「ちちんぷいぷいのぽい!」

 創造性のかけらもない言葉を発し、ウィルオーをぬいぐるみに重ねる。

 もうかけ声に誰も突っ込まない中、リビング中にまばゆい光が広がった。ビスカは光を左手で遮りながら顔を背け目をつむった。

 レットはやっぱり意地が悪い。まばゆい光を発して目をつむる事を事前にわかっているからこそ「まばたきする事なく刮目しろよ」なんて言葉をあえて言ったのだから。

 光がやんだ。テーブルの前に残っていたものはなにも変わらない箱と犬のぬいぐるみだけだった。ただウィルオーだけがそこには存在しなかった。

「あれ、なにもおこっていませんね?」

 ビスカは自分の予想……いや希望するような事が起こってない事に不思議がるというより残念がった。どんどん不思議体験に対する満足度のハードルはあがっていた。

「うん、今の所問題ない。続けよう」

 まだ、終わってなかったんだ。ビスカの早とちりだった?

 レットはなにか企んでいるような顔つきだ。にやにやしている。

「ウィルオーはぬいぐるみの中にいれた。そしてこれからだ」

「サクラ、ヒマ、名前は決まったかい?」

「うーん、まだ決まってない」

 どうやら、この一連の自称マジックショーは、ビスカ以外はわかっているようだ。

「いっぱいかわいいのがあって決められないんだよ。困っているんだよぉ」

「んー困っているんだよぉ。困った。困った。」

 サクラの言い方にヒマワリがマネをする。

「早く決めて貰わないとこっちが困るよ。失敗しちまう。

 はい、じゅぅ、きゅぅ、は~ちぃ、な~なぁ……」

 レットは笑いながら手拍子をし二人をせかすようにゆっくりめのカウントダウンを開始した。

「こまる、こまる」

 今度はヒマワリはレットのマネをした?

 いや今回は違った。再びぬいぐるみが微弱な光を放つ!

 今度は先ほどより激しくはなくビスカもじっくり見る事ができた。

 光はぬいぐるみをやさしく包み、若干浮き始める。

「さあ、いくぞ。スリー、ツー、ワン、パチン!」

 レットはかけ声と共に、指をならした。同時に目の前の光がはじけた。

「ワン!」

 あれ? また、カウントダウンが、ワンに戻っているぞ。続けてなにやら声が聞こえる

「ワンワン! わぉぉぉぉん!」

 目の前のぬいぐるみに生が吹き込まれたかの如く動き出した。しかし、ユカリの作ったぬいぐるみとは形も雰囲気も明らかに違う。シルエットだけ面影を残し、ひと回り程大きくなっていた。よく見れば、体を包む青白い光の炎らしきものを纏っていた。

「よし、成功だ!」

「うわあああ、やった~!!!」

 皆が感嘆の声を上げる。

 そうこれこれ、これですよ。これを私が見たかった! とビスカは満足感いっぱいだ。

 ぬいぐるみだったなにかは、ゆっくりヒマワリに近づく。

「こまる! こまる!」

 ヒマワリの言葉に呼応するかのように鳴く!

「きゃいぃぃぃぃぃぃん!」

「こまる! こまる!」

 ヒマワリが抱き抱えた。微笑ましいその状況を皆が暖かくみている。

「ヒマっち、ヒマっち! 私にも抱かせて~!」

 ……そうして、六人目の家族【こまる】が誕生した。

 ヒマワリからすれば、大家族に新しい子が一人増えただけかもしれない。

 すでにたくさんのウィルオーや動物、花達、ハーブ達と一緒に住んでいるのだから。


 家の前の庭では、ウィルオーとユカリ謹製ぬいぐるみの合作で生まれた子犬のような子狐のような新生物【こまる】と遊ぶサクラとヒマワリの姿があった。

 ユカリは時折そちらに目をやりながら微笑んで、庭の手入れをしていた。

 それをバルコニーデッキでハーブ茶をのみながら楽しそうに眺めている二人がいた。

「あの二人、楽しそうですね。あのワンちゃん、いえ、こまるちゃんもかわいいですね!」

「あの感じ、どこか見覚えないかい?」

 また難解な問題を出されているのかしらと一瞬思ったが、ビスカにもすぐわかった。

「あぁ、こまるちゃん、昨日の魔獣に似ていますね。サイズはかなり違いますが」

「その通り。あれは昨日の魔獣だよ。説明きく?」

「ぜひお願いします!」

 どうせ説明するくせに、もったいぶるレットに対してビスカは目を輝かせ即答する。

 すでに、ペンとメモ用紙は手に持っている。

「昨日のウィルオーは、迷い子のウィルオーだ。ヒマワリの存在認知で、この世界に存在することはできたけれど、まだまだ不安的な存在だった」

 はいと相づちをしつつビスカは必死にメモ書きする。

「要はこの世界に順応できていないって事。そもそもこちら側にくるつもりもなかった」

「先生、では他のウィルオーはなぜ安定しているのですか?」 

 ビスカは無意識に先生といってしまっていた。本人は気付いていない。

「ここにいる多くのウィルオーは召還するときに俺達が……というか、ヒマワリがこちらで住む場所を用意したっていう感じさ。暮らしやすいように場所を用意し、役割を与え、生きる存在理由みたいなものをあげたんだ。だから安定している」

「そもそも、ウィルオーに意志ってあるのですか?」

「厳密には俺達のような固有の性格とか意志は存在しない。俺達の理とは別の世界で生きてきたのだからね」

「でも、別別の行動をしているように見えますし、レットさんやヒマちゃんの命令を聞いているように思えます。現にあそこで二人と遊んでいますよね?」

「ああ、その説明の前に、ひとつ前置きが必要だな。

 魔法を発動させる時には主に三つの重要なキーがあるんだ。それはなんでしょう?

 ひとつは魔力供給のための【ソウルフル・クォーツ】

 あと二つは? ノーヒントだ。俺の説明と、今までの行動でわかるはずだよ」

 お、きたきた、レット先生からの問題。

「はい、思う事というか考える事?……あと、それを乗せて言葉を発すること」

「正解! なかなかわかってきたね。ビスカ君。

 この世界の魔法には思考、思念と言葉がキーになる。ウィルオーもそうさ。

 俺達の思い、考えにウィルオーは応えてくれるし、言葉も理解してくれる……ように感じるんだ。それは俺達が勝手にそう思っているだけで実際は違うかもしれない。

 意志や感情もないはずなのにあるようにも見える。だからこそ俺達は、召還したウィルオーをただの道具のように使うんじゃなく共存したいと思っている。

 最大限の礼を尽くして、友達になってもらう。

 命令しているというよりも、友達としてお願いして助けてもらっているんだ。

 ヒマにとっては、それ以上の存在で家族と思っているのかもしれないけどね」

 ビスカにとって驚く事ばかりだ。会話や気持ちが通じるかもわからない得体のしれないものでも、人と同じように接している。仲良くなろうとしている。

 こんな風に皆が生きる事ができたら、争いなんて起こらないのではないかとすら思える。

「話しを戻そうか。昨日、捕まえたウィルオーは生きづらい、どうしていいかわからないって感じでずっと暴れていたんだ。おてんば娘はもうこの家には間に合ってますって感じ」

 ふふふふっ、そうですねと庭で遊ぶサクラを見ながら、ビスカは笑った。

「だから生きやすいよう、より存在を定着させ、こっちで暮らしやすいように強固に存在を認めてあげようと思ったのさ」

 ぬいぐるみはあくまで依り代で、形があったほうが分かり易いから骨組みたいなものを用意した。そしてあとは思考や思念と言葉、それに加え、より深い認知だ」

 ヒマの心の中に、昨日の魔獣の形がしっかりと刻み込まれていたし、俺達もしっかり魔獣を記憶していた。

 あとはヒマと俺達の気持ちさ。ここにいて欲しい。一緒に生きよう。もっと仲良くなろうってね。君も無意識の中で手伝ってくれていたんだよ」

「私もですか?」

「ああ、人数が多ければ多いほどハッキリするからね。どうしても一人だと不足する。

 記憶がぼやけていたり違うように記憶していたり、思いが小さかったりで。

 でも多くの人の記憶や思いのパーツがあればあるほど姿形はハッキリするんだ」

「でも私はそんな事思って見ていませんでしたよ」

「君は思ってなかったというけれど、実際期待していただろ。こうなればいいなって。こうなることは想定外ではなかっただろ」

「はい、確かにぬいぐるみが動きだせばいいなとか、動くのではないかと思いました」

「その時に自然に君は昨日の魔獣とふれあうヒマワリの姿を思い出していたはず。

 そうなると『絶対動く!』って期待以上の確信に変わってなかった?」

「……はい、そうでした」

 ビスカは完全に思考を読まれていた。というよりもそちらに誘導されていたと分かった。

「最初から種を明かされて見るよりぐっと自然にできただろ?」

 最初から説明を受けていても同じような結果になっただろうが、ビスカに魔法の発動のプロセスを、身をもって知って欲しくて事前説明をしなかった。

「こんな風にビスカが魔法を使えないとしても【魔法を使う人】を手伝う事ができる。

 つまり【魔法を使う人】を使って、魔法を活用する事も可能って事さ。

 だから、君に魔法のなんたるかを教えているんだよ」

 ビスカははっとした。魔法が使えない自分に魔法の事を明かしまくっているレットに対して本質を理解しようとせず、ただ好奇心だけだった自分に反省した。

 そうか、自分が魔法を使えなくとも、魔法を理解していれば、魔法をよりよく活かすために自分は動けるんだと改めて知った。

 レットは話しを続けた。

「そして、今回始めてやった事があります。それはなんでしょうか?」

 はいでた! 問題。これは即わかった。ビスカは自信満々に答える。

「名前をつけた事ですね!」

「正解。名前はその人の存在を示す最も重要な要素だ。魂にも刻み込まれる。だから名前をつけたんだ。ま、ちょっと四苦八苦したが結果よかったよ。なんか名前もあのウィルオーらしいから余計ハマったね」

 ビスカはいまいち理解できなった。

「おてんば娘で、手のかかる困った奴だから、みんなが【こまる】ってね!」

「あ!」

 単なる偶然だが、思いっきりダジャレだった。

 ヒマワリ本人は【小さいとか子供の丸まる】=【小丸、子丸】の意味でつけたのだが。

「それに、守護獣【拒魔犬こまいぬ】ともかかっているし、わが家にぴったりだ」

「まあ! かわいいロイヤルガードですね!」

「ははは、ロイヤルガードか。そりゃかっこいいな。……でもたったひとつ失敗があった。

 誤算だったというべきかな?」

「え、なにがあったんですか。失敗したようには感じませんが」

「ぬいぐるみの大きさのせいか……、ひょっとしてヒマのこうなって欲しいって思いが強かったのか……ちっちゃくなっちゃった!」

「まあ! ふふふ。……でも実は、私もヒマちゃんと同じ事思っていたかも知れません」

「それってひょっとして小っちゃくなったの、ヒマじゃなく君が原因なんじゃ……」

 ビスカはとたんに赤い顔になった。なにか恥ずかしかった。

 外では飽きもせずサクラとヒマワリが、姫に小さくされたロイヤルガード【こまる】とじゃれていた。

 そのまわりで一緒に遊んでいるかのように、飼っている五匹の小型魔獣ラヴィもぐるぐる走り回っていた。五匹のラヴィ達【コレット、カリン、サクランボウ、マリモ、スピカ】も【こまる】を怖がる事もなく家族の一員として迎えていた。

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