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森のブーケストラ 〜私が女王になるまでの物語〜  作者: ヒロA


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第十八楽章 つながりを深める事で、別れがきた後もつながれる 

 その後、馬車で王国第二の都市ナツメディアへ向かった。

 途中、立ち往生している壊れた馬車を助けるという予定外のミッションはあったものの何事もなく街へ到着した。

 三姉妹とビスカは、たっぷりと買い物を楽しみ、それぞれの服を大量に買い込んだ。

 その間、レットはこの街のなじみのギルド組合支部へ顔をだして時間をつぶした。

 大量の服とパーティーの買い出し資金はレットが快く全額負担したのだが、その資金源は実は【今晩カレーになるカワイクないぶたさん討伐】と【魔獣討伐】の報酬だった。

 それを妹達には内緒にし、さも自分は気前がいいアピールをした。

 普段なら、家計を一手に担う倹約家のユカリは無駄使いや爆買いを戒めるのだが、今回はビスカのためだったので事情は異なり、むしろ進んで散財街道をばく進した。

 レットもユカリもそうだが、ただケチなのではなく必要な時に使うために倹約しているのであって、その必要な時には惜しまず使うという考え方だった。

 行く時より何倍も山盛りにふくれあがった荷物と思い出をかかえて帰路についた。

 夜は今日のつかれはなんのその、盛大なパーティーが開催された。

 深夜姉妹達が寝静まった頃、バルコニーでイスに座りながら美しい星空を眺め、ぼおっとしていたレットの後ろから、ビスカが語りかけてきた。

「まだ、おやすみになられないのですか?

 本当にここは星空がキレイですね。空気が本当に澄んでいて安らげます」 

「ここはフレグラント一、星がキレイな所さ。君こそまだ起きていたのかい。

 あいつらはどうした? もう寝ちゃった?」

「彼女達はぐっすり眠りましたよ。

 今日は大活躍だったんですから、疲れたのでしょうね」

「あいつらはそんな玉じゃないよ。きっと君との時間が楽しすぎて満足しちゃったんだよ。

 それに君こそ、動きっぱなしだったし初物づくしで疲れてないのかい」

「いえ逆に、今でも興奮しっぱなしでなかなか寝つけません」

「よろしかったから少しお話ししてもよろしいですか」

「ああ、もちろん、感激の極みでござまいます、姫!」

 和ますために狙っていったのだが、ビスカには通じない。

「あぁもう、姫はやめてください! いつも通り、ビスカとお呼びください」

「ごめんごめん。(通じなかったか、いや姫様扱いされるのがイヤなのかな)

 今度から姫って言わないから。

 でも君こそ俺のことをレットさんって言っている。呼びすてでいいって言っているのに。

 それに気をつけているようだけど言葉の端々がまだ姫様仕様だよ。

 もっと庶民仕様にしてくれないと俺らも話しづらいし、これからの計画に支障もでる(これは大げさに言っているだけだが)」

「ごめんなさい。まだまだ慣れてなくて。

 もう少し待っていただけるとありがたく存知……ありがたいです。」

 やっぱりビスカはすぐ謝る。もう口癖なのだろうか。口癖というのなら、レットも負けてなく、ごめんは連発しているのだがこちらは妹以外の年下の女子の扱いに慣れてないだけだ。

「二、三日で慣れるものでもないし気長に待つさ。それに本当に無理なら、自分のいいやすい言葉づかいでいいから。俺も自分の使いやすい言葉で言っているしね」

「ありがとうございます。でもがんばります!」

「よしそれでオッケイだ。あっ、レディーに対して失礼だった。うっかりしていた。

 そこにお座りください。おひめさ……おっとビスカ」

 基本、レットは話しの中に意地悪なワードをいれたくなるのだ。聞いている相手があきないようにとか、興味をいただいてもらえるようにか、笑ってもらえるようにとか、印象に残して欲しいとか、そんな意味を込めて。それも師匠ゆずりなのだが本人は気づいていない。

 話しの流れもあって再度、お姫様というワードをいれて、わざとビスカと言い直したのだが大して効果はなかったようだ。

「あい、ありがとうございます。ご厚意に……」

「おい、丁寧すぎ! そんな時は、なにも言わなくも座ればいい、むしろ言うの遅い! レットのバカ! ってすねるもんだよ。サクラみたいね!」

「あ、そうですね!」

「ははははっ」

 二人して笑った。


「……それでどうだい、ここの暮らし心地は」

「こんな素晴らしい場所があった事に驚きです。それにレットさんも妹さん達もみんな良い方で。ずっとここにいたい位……」

 ビスカは無意識に、かつなにも他意もなく言ったので気づかなかったが、レットにとっては【ずっとここにいたい位】はかなり心にささった。

 社交辞令や言葉の流れ的に無意識に言っただけとわかっていてもかなり引っかかった。

 二つの意味で。

 ひとつは、ずっとここにいたい位、気にいってくれたという事。

 もうひとつは、つまりいつまでもここにはいられないという事。

「いや~、その~、なんか、ありがと」

 なんだか意味のわからない返答になってしまった。

 本当なら、ずっとここにいなよと言いたかったがその言葉を出すことはできなかった。

 そんな感情を悟られたくなかったため、それに対して別の方向性で話しを濁した。

「言い忘れた事があるんだけど、いや言いそびれただけなんだど……」 

「なんでしょう?」

 こちらを見つめるビスカの瞳が夜にきらめく星のようにまぶしすぎて、ビスカのほうをまともに見る事ができず、すぐ目をそむけた。

 ビスカは別に見つめているわけではない。ただ相手の目を見て会話するという普通の事をやっているだけだが、姫様から見つめられて正常な男子がいるわけはない。

「その〜、え〜とだな」

 別に話しづらい事ではないのにレットはペースを掴めず、しどろもどろだったがなんとか話しを続けようとした。

「き、君は本当に女王になりたいのかい?」

「え? それはどういう事ですか?」

「君が女王になるしか道がないと思っているように感じてね。

 ならない選択肢だってあるんだ。人生は自由なはずさ」

「自由な人生……」

「ああ、君が強い意志を持ち女王になると決めたのなら俺達は協力を惜しまない。

 けれど、イヤイヤとか、仕方なくとか、流されただけとか、責任感だけとかなら俺達は徹底的に君の女王即位を阻止する」

 ビスカははっとした。本当に自分は女王になりたいのか? 女王にならなければならないのか? その道以外の道があるというのか? 他にやりたい事はないのか? 今の気持ちが少し揺らいでしまった。でも……。

「私が女王に相応しいのかはわかりません。ただこれだけは言えます。この国が大好きです。この国の人達を愛しています。だからもっと笑顔にあふれる国にしたいです」

「その気持ちがあるなら、やっぱり言わないとだな」

「なにをでしょうか?」

 またもや彼女はつぶらな瞳でじっと見てきた。空を見る振りをして目をそらして続けた。

「最初に、妹達のお姉ちゃんになって欲しいって言ったよね」

「はい、私もうれしかったです。そんな事言ってもらえて。

 ユカリちゃん達みたいな妹が欲しかったから本当にうれしかった」

「君が望むなら、王位奪還なんてやめてずっとここでお姉ちゃんでいて欲しいとさえ思う。

 ユカリもサクラもヒマワリも君にお姉ちゃんになって欲しいと心底思っているんだ。

 でも妹達もわかっている。それが永遠に続くものじゃなくて一時的なものだって事をね」

「……」

「でも永遠ではない限られた時間だからこそ、かけがえのない時間をつくろうとするんだ。

 君とたくさんの楽しい思い出をつくりたいとがんばれる。

 君が笑顔でいてくれるようにがんばれる。

 その期間は本当の姉妹のように接したいと思っているんだ。

 いつか別れる時がくることを知っているからこそ、今を大切にしようとする。

 別れの時、悲しくなるのがイヤだから『今、つながらない』のではなくて、限られた時間の中でも『つながりを深める』事で、別れがきた後でも『つながれる』って思っているんだよ」

「つながりを深める事で、別れがきた後もつながれる……」

「だから別れがくるとか考えないで本当の姉妹として妹達と一緒に過ごして欲しいんだ。

 妹達との暮らしをしっかり覚えていてほしいんだ。ごっこ遊びかもしれないけれど」

「私はごっこなんて思っていません。まだ日は浅いですが、彼女達はもう本当の妹です。むしろ私のほうこそよろしくお願いしますね」

 彼女はこの兄妹達が自分をこんなに大切に思ってくれている事が本当にうれしかった。不安に押しつぶされそうになっていても自分は一人ではないと思うことができた。

 照れ隠しか、うるうるしていた瞳から涙がこぼれないようにか、二人とも空を見上げ、星々のきらめきをしばし無言で眺めていた。

 星空を眺めながらの会話なんて、もし妹たちが見ていたら大変な事になっていただろう。

 特にサクラから「そんなシーン、ラブコメだけが許されるんだ!」とか言われて飛び蹴りが飛んできただろう。実はレットはそんな状況も想定して身構えながらビスカと話していた。場が重くなればむしろこい! と思ったかだろうがとりあえずまだ大丈夫だった。

 普通に話しているように見えるが、王都での修行から帰ってきたからというもの、最近では女子と話す機会なんて妹達くらいしかいなかったので心の中では本当に度緊張だった。しかもお姫様相手なんだから尚更だ。

 だが、誰かと会話できるという喜び、楽しさの方が勝っており、それのおかげで普通に会話ができていただけだった。レットは学者や先生気質で本質は喋りたがりだった。

 沈黙に耐えられなかったのかビスカの方が先に話題を変えた。

「そういえば、ハルメディアへ行く途中で馬車を助けた時になぜ魔法を使わなかったのですか?」

 喋りたがり体質はレットだけではなかったようで、まだお開きにならなかった。

 なにもかもが新鮮で、質問する事がつきない質問魔姫ビスカが、今日の出来事のワンシーンを問いかけた。

 積極的にどんどん質問してくる生徒がいるから、レットもついうれしくなり余計な事までまた話してしまう。これだとサクラとかが止めない限り朝まで続きそうだ。

「使ったさ。ちょびっとだけね。ただそれ以上は必要なかっただけさ。魔法を使わなくていいならそれにこした事はないからね。ビスカは魔法っていえばどんな事が思い浮かぶ?」

「えええっと、空を飛んだり、炎をだしたり、凍らせたり……」

「その知識はどこから?」

「絵本や小説、絵画物語(漫画)とか、演劇とかでしょうか」

「その作り物が、全て意図されていたとしたらどうだい?」

「それはどういう事でしょうか?」

「あえて魔法を派手なものに描く事によって、現実ではありえないと思わせている」

「……えっと、それってつまり、そうする事によって、本当の魔法というものを隠匿できるという事でしょうか?」

「やはり君は勘がいいね。その通り、木を隠すなら森の中って事さ。

 そうやって魔法の存在を隠す、つまり魔族の末裔の存在を隠して自分達を守っている。つまり魔法が絡む物語を描く人の多くは魔族の末裔って事さ」

「なるほど。でも私にとってはレットさん達が使う魔法だって万能で派手に見えますが。

 物語の中が必ずしもおおげさに言っていると思えません」

「そりゃ、俺達があえて君にはおおげさに派手目に見せているからね。

 街で普通に生きている魔族の末裔達は魔法を全く使っていないか、使うにしてもわからないようにもっと地味に使っているんだ。

 では、問題。【火の玉魔法ファイアーボール】とか【雷魔法ライトニングボルト】、【隕石落とし魔法メテオストライク】とか、派手な攻撃魔法は今存在しないのはどうしてだと思う?」

「え、それは……すごい魔法じゃないと倒せない魔物とか魔族がいなくなったから使う必要がないとか?」

「ぶっぶー」

「魔族の血が薄まり使えなくなったからとか? 知識が途切れて使い方が分からないとか?」

「うーん、半分正解かな!」

「あ、そうだ。普通の人に、魔法を見られたくないからだ!」

「それも正解だけどやっぱり半分正解。それだけじゃない」

 半分正解ばかりだ。ビスカは正解を当てたいのになかなか難しいものだ。

 レットは、全く正解に近づかない時や半分まで正解にたどりついたら、本当の正解を説明し始める。     

 本来なら、正解まで導くまでヒントを出し続けて導いてやるのが正しいのかしれない。

 自分が説明したいのか正解して欲しくはないのか、ある程度で正解を説明しだす。

「魔族の血が薄まり使えない魔法が増えているのは事実だ。でもそのファイアーボールとか、メテオストライクみたいな派手な魔法は、もとから実はないんだ」

「ええ〜、な、ない?」

「あぁ伝言ゲームみたいなものさ。真実がねじ曲がって誇張して広がった噂でしかない。

 例えば、君がキッチンで見た光景。サクラの手から火がでて調理していたって奴。

 それがいつしか魔物を焼き尽くすファイアーボールが使える大魔術士を見たに変わるようなもの。単なる料理をしている娘なのに」

「それは鮮明に覚えていますけれど、サクラちゃんは本当に手から火を出して調理していたように見えました」

「見た目はね。でも根本的に違うよ。サクラは炎魔法なんて使えないよ。サクラは……」

「あ、サクラちゃんは、身体能力に全ブッパ? ですっけ」

 たまには先まわりして、ビスカが答えられるようにもなってきた。

「でも、全ブッパってなんですか? 今まで聞きそびれて……」

「……あ、ごめんごめん! はははは! そんな言葉、わかるわけないよね。俺が悪い。

 全ブッパって全部をそこに集中させるって感じの意味さ。つまり、サクラの魔法は自分の本来もっている身体の力を魔法で増強しているだけ。

 簡単にいえば、高速で指を弾いて砥石みたいに火をおこして、そのまま指をはじき続けたり息をふいたりして風をおくって火加減を調整していたって事かな。

 他に仕掛けはもちろんあるけどね。言うなればタネのある手品と変わらないさ。

 でもあんな事普段やらないよ。めんどくさい。君が来ることがわかっていて君を驚かせたくて演出していたんだよ。あいつらは」

「あああ、なるほど。そういう事だったのですね」

「相手にわかりやすいように伝えるって、ホントに難しいよな。俺も日々勉強だな」

「私も本当の想いを伝える事がうまくできなくて、よく勘違いされますもの」

「まあ、わかってもらえるまで、何度も何度も話すことしかないかもね。だから、わからなかったら遠慮なく突っ込んで」

「あのう~突っ込むってなんですか。なんとなくはわかるのですが……」

「ごめん、それも伝わらないか。本当に君と話ししていると新発見ばかりだな。

 突っ込むって指摘するって感じの意味さ」

「あああああ、なるほど。サクラちゃんがよくレットさんにやっている事ですね」

「あああ、その通り(苦笑)。あいつはすぐ指摘してくる。ケリとかパンチ付きでね。

 もっとおしとやかになって欲しいんだけどねぇ。女子なんだから」

「ふふふふ。でも見ていてもなにも不快に感じませんよ。

 むしろなんだか笑いが込み上がります。暴力はいけない事なのに」

「あれが暴力ではないからだよ。あれは一種のコミュニケーション。

 心をつなぐ大切な兄妹の儀式さ」

「そうですね。サクラちゃんとレットさん、なぜか楽しそうですもんね」

「ああ、でもイタイのは変わらないよ。あいつはどんどん力が強くなっていくから、今までどれだけ顔に出さずに我慢してきたか」

「まあ、お兄さんをするのも大変なのですね!」

「どんなに力が強くなっても耐えられるよう鍛えているさ! 兄の威厳もあるしね! 

 あいつの攻撃はどんどん受けてやるさ!」

「まあ、お強いお兄様だこと! なんだかお父様みたい!」

 はははっと二人が笑い合っていると、とぼとぼとぼと何か足音が聞こえてきた。

 二人はハッとして振り返る。

「あ~に~き~、またラブコメすんな……し!」

 少し離れた所にサクラがいた。……でもいつものようなケリは飛んでこなかった。

 寝ぼけていたようで、トイレタイムで起きたのだろうか。その一言だけ告げたサクラは瞼を擦りながら、ほとんど目を明けることなく方向転換しその場から去った。

 【魔王の娘】の二つ名を兄より拝命された少女からのお仕置きは今回まぬがれたようだ。

 二人は顔を見合わせて笑った。

「噂をすれば、なんとやらだな」

「なんとやらですね」

「さあって、俺達もそろそろお開きにしようか」

 本当は「そろそろ寝ようか……」と言おうとしたが、その言葉は別の意味で変な誤解を招くと思い言い方を変えた。

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