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森のブーケストラ 〜私が女王になるまでの物語〜  作者: ヒロA


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第十七楽章 バカニキ! お姉ちゃん! いい加減にしろ~い!

「さあ、昼食の時間ですよ~、準備手伝って!」

 馬車に戻った後、すぐそばの開けた場所で昼食をする事になった。

 巨大なシートを敷き中央にサンドイッチやおかずが並べられた。

「お腹減った~、いっただきま~す!」

 サクラがミートボールをひとつまみして食べようとしたが後ろから制止された。

「ダメでしょ。サクラちゃん。はしたない。ちゃんといただきますしてから!

 それに手で掴んじゃダメ。ちゃんとフォークで食べなさい!」

 ユカリお母様からのお仕置きだ。それに対してへりくつ魔人もだまっていない。

「なんだよ。ユカッチ。ちゃんといただきますって言ったじゃん」

「ちゃんとは言ってないでしょ。それにみんな一緒に言ってないでしょ」

 ボン。へりくつ魔人に、お母さんの軽いチョップが炸裂した。

「さ、みんなで食べましょう」

「いただきます!!!!」(全員)

 お昼は特に祈りの言葉は捧げない。楽しいピクニックの第二幕が明けた。

 談笑しながら食べる方も進んだ。どうやら、ビスカも食事はできる様だ。

 朝からの実践であれだけ緊張し恐怖したのだから、食が進まなくても仕方がないはずだが、不思議と食が進む。本人も「美味しいですね!」というほど食欲旺盛だった。

 それには理由があった。馬車に着いた直後にユカリに、「お茶をどうぞ! お姉ちゃん! のど乾いたでしょう」とハーブ茶を勧められ、ビスカは美味しくいただいたのだが、そのハーブ茶にリラックス効果と悪い記憶を薄める効果があったのだ。

 ハーブが本来持つ特性に加え、魔法により増強されていた。記憶自体は普通に残るのだが、恐いとかイヤとか悲しいといった負の感情が薄まるのだ。自分の事だけど、どこか他人事の様に感じるといった所だ。

 それを知るよしもない暴食姫ビスカは先ほどの魔獣に対して質問した。

「あれはなんだったのですか。レットさん。差し支えなければ教えていただけませんか」

「はは、そこまでかしこまらないでくれよ。もっと気軽に。こっちが肩がこっちまう。

 教えたくても、教えたくなくなるよ! ただ、教えて! っていえば言いんだよ」

「そうだよ。私たちはもう家族なんだから、遠慮しないでよ~お姉ちゃんっ!」

「私も、もっとくだけてくれた方がうれしいです。お姉ちゃんっ!」

「ヒマもぉ!」

「あ、はい、努力いたします。あ、努力します! ですね」

「んー、ほとんど変わってないぞ。

 そこは、お姉ちゃん、努力するね! もしくは、がんばるからね! だから」

 気持ち悪い兄の言い方に、魔王の娘からのお仕置きがあったのだが、もうこのやりとりの描写必要だろうか?

「それで先ほどの詳細を知りたいのですが……」

「あ、どこから言おうか。まずは魔獣の正体、あれはなんだと思う?」

「なんだと言われましてもまるで検討が……」

 ビスカは頭をフル回転させる。

「ヒント、ヒマちゃんのポシェットですよ。お姉ちゃん」

 ユカリがかなり大甘なヒントを出す。その場で見ていればヒントなしでもわかりそうなものだが、あの時のビスカの精神状態はかなりやられていたから、大目にみるべきだ。

「あぁ、ウィルオーですか!」

「正解! 光の精霊ウィルオーライトがその正体だ。俺達が使っているウィルオーとはちょっと違うけどね。俺達のウィルオーは、ヒマが召喚したものなんだ」

 何か重要機密っぽい事を、さらっと明かした。

「ええええ! ヒマちゃんが!」

「そう、ヒマは最上クラスのビーストテイマー(魔獣使い)であり召喚士でもある。その能力をなんやかんやして【フェシー】を創ったんだ。

 まあ基礎理論と設計は、師匠とじぃちゃんなんだけどな。俺は最後の最後だけ創っただけさ。そして【フェシーはヒマそのものなんだ】」

「えええええ? どういうことですか?」

 ビスカはヒマワリを見つめた。

 心なしかヒマワリがエッヘンと偉そうにしているように見えた。。

「フェシーの根幹にあるのはヒマの頭脳なんだ。(厳密には違うが分かりやすく省略した) 

 いわばヒマが情報を分析しているってわけ。高い情報処理能力と莫大な情報記憶容量と魔法力があるから可能で、それを活用させてもらっているわけよ」

「それって、ヒマちゃんに負担ではないのですか」

「ヒマの一部の力を借りているっていった方がいい。別にヒマにはなにも実害はないよ。

 器が広すぎるっていった方がいいのかな。

 人間の能力、特に脳は生きて行く上で実際ほとんど使われていないんだよ。

 十%とか二十%位しかね。説はまちまちで五十%とか八十%って言う人もいるけれど確実に使わない部分は結構存在する。

 その普段使う必要のない場所の中でもほんの一部分を借りているだけ。

 体にも生活にもまるで影響はないし、ヒマを勝手に操作できるわけでもない」

「じゃあ、ヒマちゃんには何も影響がないのですね?

 機械や道具の様に使っている訳ではないのですね?」

 ビスカは自然に隣にいたヒマワリの頭をなでている。ヒマワリが隣にいる事が多く、ビスカは事ある毎に無意識に頭をなでる様になっていた。ヒマワリ自身もそれが嬉しかった。

「うん、ヒマ、なんでもないよ。大丈夫だよ」

 ヒマワリがレットの代わりに答えた。レットはうなずきながら話しを続ける。

「ああ機械や道具じゃない。ヒマがイヤと思えば言う事を聞いてくれないし、よかったら協力してくれるんだ。ヒマ次第でフェシーはガラクタになる。ま、結局ヒマ次第ってわけ。だから俺より(立場は)強いって事なんだ」

「どうして私にそこまで明かしてくれるのですか。そんな重大な事を軽々しく……」

 相変わらずあまりにもヒミツを明かしすぎる事が逆にビスカは心配になった。

「君がヒマを守ろうとしてくれた事への御礼かな」

「うん、ありがと! お姉ちゃん!」(サクラ)

「ありがとうございます! お姉ちゃん!」(ユカリ)

「あ、り、が、と。お姉ちゃん!」(ヒマワリ)

 三姉妹がとっさに同時に感謝の意を表した。

「え、私はなにもできませんでした。感謝されるような事はなにもしておりませんが……」

「別にヒマを守ってくれたから感謝しているわけではないよ。君の気持ちに感謝しているんだ。自分を犠牲にしてヒマを守ろうとしてくれた事にね」

「うんそうだよ! そうだよ! アニキよりよっぽど役に立っているよ!」

 サクラがへらず口を叩く。レットは華麗にスルーして続けた。

「その気持ちがうれしいんだよ。俺達はね。

 君は失敗したと思うかもしれないけれど広い意味では失敗でもなんでもない。結果なんて時の運も絡むし、初見ではどうしようもならない時だってある。経験があろうとしょうがない場合だってある。その課程でどう思ったのか、どう考えたのか、どう行動したかが大切なんだ。

 精一杯やったら例え失敗したとしても後悔なんてしないもんだ。失敗したと思ったら次にそれを活かせばいいだけ。そしてまわりの奴は、失敗して落ち込んでいる奴を励ましてやればいいだけさ。

 今回で言えば誰も死んでないし大ケガも負っていない上で、いい経験をつむことができた。それはある意味大成功でまた次の機会をもらったと思えばいい。」

「はい、そうですね。私は今まで失敗しちゃいけない。失敗しちゃいけない。ばかり考えていました。結果ばかり恐れて、結局うまくいかない事も多くて……」

「ま、失敗してもいいといっても成功するように精一杯がんばる気持ちは必要で、そのがんばりを続けるためにがんばり過ぎない事が大切なんだ。

 だからうちの家訓は【がんばりすぎずにがんばろう】なんだよ」

「なにかステキな考え方ですね、なにかワイス先生みたい」

 ビスカは、今まで自分にはなかった価値観に触れてまた感動していた。

 生前のワイス先生もこんな感じで語ってくれたと思い出して思わず名前を口にしてしまった。レットは師匠に話し方が似ていると言われ若干不機嫌になったが続けた。

「なんでもかんでも褒めなくていいからな。俺が言うことが唯一の正解でもないし。

 世の中にはたくさんの正解があって間違いももちろんある。

 俺の正解が君の正解とは限らない。

 全て鵜呑みにするんじゃなく自分の中でじっくり考え消化し自分なりの答えを導きだす事が大切なんだ。

 そして違う考えややり方の人がいるって事実も受け入れないとね。

 自分の価値観が全てではなく誰でもそれぞれ違う価値観をもって生きている。

 それを押しつけたり否定するのではなく、認めた上で話し合ってお互いに納得できる所、妥協できる所まで歩みよっていくんだ。でも……」

 またまた、レット先生と生徒ビスカの図式になっていた。ビスカも熱心に聞き入った。

 サクラは、またでたよ、いつもの病が! 説明乙! という表情だった。

 ユカリはいつもの通りニコニコしていた。

「なにやら話しが横道にそれて別の方へいってしまったね。元に戻そう。

 それで今回表れたウィルオーがなぜ、あんな魔獣みたいになったかわかるかい?」

 もうレットは先生そのものだ。

「ウィルオーが自分を守るためとか……」

 ビスカは、自信さなげに答えた。ビスカはなにも思いつかないから適当に答えた。

「半分、正解! いいとこ、ついてる。ウィルオーは別世界の住人だ。つまりこちらの世界で生き続けるためには、誰かに存在を認めてもらう事が重要なんだ。

 俺達のそばにいるウィルオーは、こちらの世界にヒマが遊びにおいでって召喚して、あの形で俺達が認知しているからあの形で存在できている。

 だがなにかの弾みや召喚士の力不足で、不意にこちらに迷いこんだウィルオーは誰からも存在が認められていない、いわばノラウィルオーで存在が不安定なんだ。

 だからこの世界で自分の存在を保つために自己防衛本能で、最初に目に入ったこの世界の動物をコピーした。コピーといっても、そのままではなくかなり誇張していたけどね。

 形や仕草だけをコピーしただけで、不安定さはそのままだから凶暴になったってわけ」

「ではなぜ、最初に【フェシー】で見つける事ができなかったのですか?」

 質問魔姫の血がうずき出した。

「同じウィルオーだからこちらのウィルオーでも探知できなかったんだ。

 効率化のために【質量のある大型の個体】として限定して探していたんだ。まさかウィルオーとは思わなかったからノーマークだった。やっぱり思い込みはいけないね」

 そこでレットがパチンと両平手を合わせて叩いた。

「ではここで問題! なぜヒマのなでなでで、球状のウィルオーに戻ったのでしょうか?」

 レットはまた問題形式にしだした。

 彼は聴く側が、ただ聞くだけよりもそれを聞いて考える事、自分なりの結論を出す事を重要視しているのだ。これも実は故ワイス師匠の影響なのだが自分自身気付いていない。

「ヒマちゃんが存在を認知したからですか?」

 ビスカは今度はちょっとだけ自信ありげに答えた。

「正解! ヒマがこの世界では私が知っているよ。私がいるよ。ここにいていいんだよ。一緒にいよう。一緒に遊ぼうって示したから形が安定してあの形になったんだ。

 でもあんな事できるのはヒマだけさ。俺達にはできない。精霊を召喚するにも認識できるのも、心を通わせるのも才能。その他にも条件があるけど今回は省略」

 再びレットがパチンと両平手を合わせ叩いた。問題形式を止めようとしない。

「次の問題。では、いつ正体がウィルオーとわかったのでしょうか?」

「うーん、私とヒマちゃんに襲いかかる寸前ですか。もしその前にわかっていたら、ヒマちゃんは行動しているだろうし」

 ……その瞬間ビスカは自分のふがいなかった姿を思い出して恥ずかしさで少し赤面した。

「おしぃ! またまた半分正解。

 そのちょっと前のユカリが切りつけた瞬間だ。それまでのサクラの攻撃は当たっていた。

 攻撃が当たっているから物体として存在していると勘違いしていた。

 でも実は俺と同じ防御結界をはっていたんだ。自分の体の形を覆うようにね。

 ウィルオーが防御結界をはれるという事実には正直驚いたけれどね。

 ユカリが攻撃した時は防御結界は貼られてなくて攻撃がすり抜けたから気付いたんだよ。

 それまで集めた情報とその時の情報を照らし合わせて分析してね。

 その時には【フェシー】は繋がっていたから情報はもちろんヒマも共有していたわけ」

「それ、ちょっと違うお兄ちゃん、ヒマが先に気付いたんでしょっ!」

 今日の最優秀選手ヒマワリは割り込んでいた。自分の手柄を横取りされたくないらしい。

「ああ、ごめん、そうだ。ヒマが気付いて俺に伝えてくれたってわけさ」

 ビスカはなんだか頭がこんがらがってきた。フェシーと繋がる? ヒマちゃんと共有する? 理解が全く追いつかない。

 ただ【とにかくヒマちゃんは凄い! そしてカワイイ!】とだけはわかった。

「あのう、質問なのですがよろしいでしょうか……」

「はいどうぞ、ビスカ君」

 レットも調子に乗ってきた。

「そもそもウィルオーって実体がないってことではないですか? 

 防御結界をはる意味ってあったのでしょうか」

「いいところに目をつけたね。ビスカ君。厳密には、実体がないわけではないんだ。

 ウィルオーにはコアと呼ばれる、弱点みたいなもの、人間でいうところの心臓というか……いや魂といった方が近いかな。そこを壊されると存在自体が消滅してしまう。

 だから、防衛本能で守っていたんだと思う。あくまで仮説だけどね」

「では、なぜユカリちゃんが攻撃した時、それを解いたんですか?」

「これも仮説でしかないけれど、ユカリの一撃は自分でも耐えられないと感じ自ら解いたのか、もしくは時間の制限があったのか、防御限界だったのか、どれかだろうね」

「自ら解いた場合、コアも守れなくなるから意味ないのではないでしょうか?」

 質問魔姫の本領発揮である。

「それは俺も考えた。解かずに防御結界を張っていた場合、仮に破られたら、その衝撃で自分のコアもまとめて壊れかねない。でも、防御結界を解いて実体をなくせば、コアに当たりさえしなきゃどうという事はない。

 ユカリの太刀筋の先にコアはないと判断したから解いたのかもしれない」

「もしくはユカリちゃんの剣ではコアは壊されないと判断したとか……」

 ビスカも乗ってきた。

「おおお! その案もある! でも時間的に可能かどうか考えないとね! もしくは……」

「バカニキ! お姉ちゃん! いい加減にしろ~い!」

 二人だけの世界に入っていたところに、サクラが割って入った。

 レットの頬へ軽めの右フックとともに……。

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