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森のブーケストラ 〜私が女王になるまでの物語〜  作者: ヒロA


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第十五章 【魔王の娘】って、ダ・レ・ノ・コ・ト・カ・ナ?

「お前逹ちょっと待て~い!」

 レットたちが振り返ると、十人以上の完全武装した見るからに悪役づらのうっとうしい男達の群れが現れた。

 この草原は遮蔽物も多くこっそり隠れながらレット達についてきたのだが、実はレットはとっくに気付いており無視していただけだ。

 むさ苦しい男どもを姉妹達の意識化に入れたくはなかったので、こっそりどうにかするつもりだったのだが先に行動されてしまった。

 先頭の中央に立っているこの集団の頭らしき身の丈二メートルほどの大男が怒鳴る。

 ビスカは剣に手をかけ身構えようとしたがレットが手で制し小声でささやいた。

「まだ早い、もうちょっとおびえる演技をしてくれ」

「お前ら、どこに許可もらってきているんだ! ぼけ~! これから俺らが魔獣討伐に行くからそこどけ~!」

(うわっ。べたべたな展開だな。いちいち邪魔すんなよな~。このサンシタが。つうか最初から俺達を襲うつもりだっただろうが)

 レットは心の中で呟くが、でてくる言葉は違った。

「いや~すみません。さあどうぞどうぞ。このへんで珍しい魔獣がでるっちゅ~んで、勇者様方の戦いを見学しにきただけなんだべや~」

(うわ、下でにでやがった。このクソニキは。それにめちゃくちゃ演技ヘタ。

 あとでタップリしばかねば)

 サクラは心の中で兄を罵倒するが、でてくる言葉は違った。

「か、かっこいいお兄ちゃん達、魔獣討伐、がんばってきてね!」

 一応ヒマワリのマネをしたつもりだが棒読みにもほどがある。

(あちゃ~、二人ともやっちゃったわ。相手ぽか〜んとしているじゃない。なってないわね。あとでタップリ演技の練習をさせないと)

 ユカリは心の中でだめ出しをして自分がお手本を見せた。

「ステキなおにい様方! おいしいサンドイッチ用意して待っていますね! 

 よろしかったら一緒に食べたいな〜! 気をつけていってきてね!!」

 今にもきゅんっとしてしまいそうな自然な演技だった。さすがユカリ、そつがない。

 悪女の才能の片鱗を見せつける。

 先程三文女優にマネをされた元祖ヒマワリは特になにも考えていない。ただ、みんなに合わせて言ってみた。

「おじちゃんたち、がんばってきてねっ!」

 やっぱりヒマワリはナチュラルでカワイイ。それだけで十分だ。余計な演技や演出なんてなにもいらない。

(な、なに、なにぃ~、どうすればいいの。私、どうすればいいの?!)

 ビスカはただただ、みんなの対応について行けず、焦っていたがとっさに言葉を発した。

「あの~、え~と、きょ、きょ、今日は、て、天気がよろ、よろ、よろしいですね」

 声も裏返りカミカミまくり一番ダメだった。使い物になりゃしないダメダメ女優だった。

 姫の称号も剥奪されるレベルだ。

(何も思いつかなかったら何も何も言わなきゃいいのに。微笑んでいるだけで充分なのに。

 俺の完璧かつ華麗なプランが台無しだよ。このダメダメ姫が!)

 レットは自分の演技を棚に上げた。

(あちゃ~、お姉ちゃん、やっちまったよ。やっちまったよ。喋らなければ美人なのに!

 姫様なのに! ああもう! この残念美人が!)

 サクラも自分の事を棚のはるか上にほうり投げた。

(さすがです。何言っても絵になります! 失敗した姿も最高にカワイイです!)

 ユカリだけは、過剰な色眼鏡でなぜかビスカを絶賛した。

 ヒマワリは特に感想はない。お手本を見せるかのようにカワイク微笑んだ。

 兄妹たちのそんな茶番は、頭らしき大男にはまるで通じなかった。

 でも他の奴らは不抜けた感じになっていた。目がハートマークになっている奴もいる。

 演技審査をへて、ユカリ推しとヒマワリ押しに分かれてそうだ。

 ポンコツ美人や残念美人好きな奴はビスカ推しになるかもしれない。

 サクラは一番、二番人気は応援せず、盛り上げ役の元気な子を応援したい奴にはありだ。

 ただ頭らしき大男の横で小声で耳打ちしている、いかにもずる賢そうな狐目の男は特定の子の押しではなく【ハコ推し】だった。

「お頭、お頭、すごい上玉ですぜ、あの娘は! それに三人のガキもレベルが高い。

 これは高く売れますぜ~!!」

 普通ならレット達には聞こえない位の小声だ。でもビスカをのぞいた四人にはしっかりその声が届いていた。レット、ユカリ、サクラは明らかに目の色が変わった。

 特にレットの心には確実に火が、いや業火がともされた。

 ヒマワリは何を考えているか読めない。そして残念美人ビスカはその声が自分の耳には届かず、先ほどの自分の演技の不出来さにずっとショックを受けたままだった。

「おい、そこの【華麗に舞う黄金の鷲団】の皆さんよ!」

 レットは最初からこの集団ギルドを知っていた。冒険者ギルド組合内でも評判の悪い極悪ギルドだ。人の手柄を横取りする。ウラで恐喝は当たり前。密売、人身売買お構いなしとなんでもありだったが、悪事の証拠を力と賄賂でもみ消していた。

 ザ・雑魚というような出で立ちの一人の男が返答した。

「なに! 俺達の名前を知っているのか!」

「ああ有名だからね。でも似合わない! 改名しろ! 今すぐ改名しろ!

 今からお前らは、【今晩カレーになるカワイクないぶたさん】だ!」

「ぶたさん! ぶたさん!」

 適当にもほどがあるレットのネーミングセンスに合わせて、ヒマワリがきゃっきゃしている。サクラはあちゃ~ってなっている。ユカリはなぜか笑いをこらえていた。【ぶたさん】のフレーズのカワイらしさと、集団のむさ苦しさとのギャップが面白ろくツボに入ったようだ。ビスカは、え、なになに、どうなってるの? って一人話題に取り残された顔をしていた。

 レットは人が変わったような普段では聞くことができないドスの利いた声で怒鳴った。

「お前は言ってはならない事を口走った。どんな理由があろうとも、ここから生きて帰れると思うなよ。魔王に変わって征伐してやる!」

 そのオーラに威圧され、【今晩カレーになるカワイクないぶたさん】(仮)の皆様達はたじろいた。

 昨日ビスカに告げた、妹達とビスカに害をもたらすものは容赦はしない……を実践しようとしていた。だが自分がやるのではなく間接的にだ。実際に実行するのは……

「サクラ~! 手加減しなくていい! やれ!」

「おっけぃ! こんな奴ら、最初からやればよかったじゃん! 全くぅ」

 サクラは目を輝かせ被っていた帽子をユカリにあずけ、せえのっ! と反動をつけて前方へ飛んだ。普通の人の跳躍力では不可能な高さと距離だった。

 同時に、レットは担いでいた二本の内の一本の長尺の袋から長い武器を取り出した。

 中身は槍だった。取り出すと一、五メートル程度だったはずの長さが自然に三メートル以上になぜか伸びていた。フォームチェンジ時に光りもせず地味に長くなっていた。単純に持ち運びに便利なように袋の中では短めになっていただけだ。使用時にはサクラの用途に合わせて伸縮するのだ。もっと短く収納はできるが、あまりに使う時との長さの差が大きければ不信に思われるため、一、五メートル程度に収納されている。

 その槍を前方斜めに放り投げた。高く高くジャンプしたサクラは空中でそれを受け取り、そのまま敵の集団の後ろに着地した。サクラは飛んでいる最中に空中から見て集団の全容を確認したが、三十人ほどの大集団だった。当初、集団の先頭にでかい大男が並んでいたために、後ろにこれだけいたのがわからなかった。

「サクラちゃん、だいじょぶなんですか? あの槍で闘うのんですか?」

 ビスカは、心配そうにレットにたずねた。

「ああ、大丈夫さ。ビスカも見ただろ。草原で魔獣をぶん投げている姿を。

 実践のサクラはなお強いよ。世界は終わらないけれど奴らは終わるかもな」

 ビスカはそれでも不安であった。競技と実践は違うし、今回は穏やかな魔獣ではない。

「まあ、見てなって。槍は使うけど槍は使わない戦闘を。

 あんな奴ら、あっという間に調理されるさ。」

「槍を使うけれど槍は使わない?」

 意味のわからないビスカはますます不安だったが、兄は妹の実力に相当な自信を持っていた。

【今晩カレーになるカワイクないぶたさん】(仮)の集団の後ろに着地したサクラだったが、いつの間にか若干距離をとられつつ大勢の男達に囲まれていた。

 それを遠くで眺めていたレットはのほほんとビスカに問うた。

「集団と闘うセオリーはなんだか分かるかい?」

 ただ彼女はサクラが心配でそれに答えるどころではなかった。レットが続けた。

「お頭をいの一番に狙う事さ。そいつを仕留めればそれだけで組織は無力化できる。

 訓練されていない集団や烏合の衆だと特にね。独裁者やカシラだけ強すぎる場合は特に効果は絶大。あっという間に組織は瓦解する。

 問題はそれをやると逃げる奴がでてしまう場合もあるって事。今回は全員生け捕りにするつもりだからあえてカシラを最後に残す。それだけの実力をサクラは持っているから」

「あんなに囲まれていて、そんな事が可能なのですか?」

「ああ、大丈夫。よし、いけ、サクラ! ショーの始まりだ!」

 レットは、自分はなにもしないのにクールに攻撃の合図をした。小声だったが充分サクラの耳には届いた。

「うりゃああああああ!」

 気合いのかけ声とともに、両手で長槍を握ったサクラははるか真上に飛翔した。

【今晩カレーになるカワイクないぶたさん】(仮)達は、サクラの姿を目でおって上空を見上げたが太陽のまぶしさでなにも見えない。

 ひゅぅぅぅん、ドッスーーーーーン!!!

 大轟音と共に、サクラがおりてきて、そのまま、地面に長槍をぶっ刺した。

(あれ? 上空から敵に向かって攻撃するのではないの? それとも外しただけ?)

 ビスカは、自分の予想とは違うサクラの行動に不思議そうな表情を浮かべる。心配はしていたが、それでも次に何をやってくれるか期待に胸を膨らませてもいた。

 サクラは刺さった長槍の柄を、お猿さんのようによじ登り最上部までいった。

 右手の平を水平に額にあて相手を眺めるかっこうをする。ホントにお猿さんだ。

「一、二、三、四、五、六……いっぱい。あ~もういいや。全部倒せばいいんだよね」

 そう言うと長槍に乗ったまま、両手で引きその長槍を前後左右に揺らし始めた。

 槍を地面に刺したまま、どんどん早くゆらし、しなりも激しくなった。

 普通の槍では折れるような強烈なしなりでもこの槍は決して折れない。

 前後左右に、ゆれる。ゆれる。ゆれる。しなる。しなる。しなる。

 なにが起こったのか理解できずに、それを見ているだけの【カワイクないぶたさん】(仮)達……。例にもれず、あっけにとられていた頭らしき大男も、やっとベタな攻撃の号令をした。

「あ、なにぼけっと見てやがる! 野郎どもかかれ~!」

 お頭はサクラを倒すというよりもサクラを生け捕りにし恐怖を刷り込み、戦意喪失をさせるつもりだった。他の姉妹達も逃げていなければそのまま生け捕ればいいし、逃げていたらサクラを人質にし、それを餌に最終的に総生け捕りにするつもりだった。

 ただそんな意味を込めた号令もサクラの耳にはもう「子豚どもかかれ!」としか聞こえない。三十人のむさ苦しい男どもがいたいけな十歳の少女に一斉に襲いかかる。言葉だけにするとなんともおぞましい光景だ。少女がいたいけの枠に収まるかどうかは別にして。

「もう遅いよ。子豚さんたち~」

 槍のしなりを利用してサクラは飛んだ。飛んだ先は子豚扱いされた下っ端の一人だった。

 そのままの勢いでサクラのキックが顔面に炸裂した。

 キックの勢いでまた槍に戻る。そしてその勢いで槍をしならせ、再度別の敵に飛び込む。

 そしてその勢いでキックやパンチをおみまいし、その敵を踏み台にして、また槍に戻る。

 そしてまたしならせ、再度敵に向かって飛ぶ……。

 よく見ると……いや普通の人には認識できるわけないが、サクラの腰と、槍の最上部は細い紐のようなものにつながれていた。

 槍からサクラが敵に向かって飛ぶ。飛んだ先で仮に戻るための踏み台役の敵がいなくとも自然にまた槍に戻ってこられた。この紐状のものは長さが伸縮自在のゴムのような性質だった。

「うりゃぁぁぁぁ、サクラちゃんスペシャルロマンシングライジングサイクロン!」

 いつものように訳のわからない適当な技名を叫びながら、サクラは攻撃の手を緩めない。

 なすすべなく一人、また一人と吹っ飛ばされる。

 サクラの槍〜敵〜槍〜敵と往復するうちに、速度はますます加速され、いつしか彼女は分身しているかのように何人にも見えた。

「アレがサクラの力さ。サクラは基本、身体能力アップに魔法を全ブッパだ。パっと見、魔法を使っているように見えない。せいぜいただの武術の達人に見えるって寸法さ」

 レットは、その光景を満足そうに見ながら自慢げにビスカに説明した。

(見えない……私にはそうは見えない。私には魔法を使っているとしか思えません……)

 魔法の存在を知ってしまっているビスカの目には、すでにもう魔法を使って闘っているとしか見ることができない。

 魔法に見えるかはともかく、武術の達人というレベルで済むはずはなく、ひょっとしたら人間として認めてもらえないかもしれないレベルだ。正直レットも感覚が麻痺をしているのか、魔法を隠せていないのに完璧に隠していると言い張る場面は多い。

「さあ。そろそろフィナーレだ!」

 レットが主役のようにかっこつけてそう告げる頃には、ほとんどの男たちが倒れていた。

 そして、最後に頭らしき大男だけが残った。

 サクラは槍のしなりの反動で飛び出し、お頭に最後の攻撃を敢行する。

 結局余裕がなくなり殺す気満々になっているお頭は、サクラの突撃に合わせ大剣を振り下ろしたが空振りした。サクラはその寸前で、腰と槍に繋がる紐の伸縮機能を利用し、空中ストップし、間一髪で槍に戻ったからだ。

 再び、槍を発射台にして、再度飛び込む。

「おいしいものは最後に残す! 私が好きなのは、豚のかしら肉とミミガーだ~!!」

 キレイなドロップキックが決まり、頭とおぼしき大男もサクラに調理された。

「まあまあだな」

 今回のヒロインに向かって、ただ槍を放り投げただけの男がえらそ~に言った。

 サクラはドヤ顔で右手でピースサインをこちらに向けた。よく見たら、人差し指と中指をくっつけ、薬指と小指をくっつけたぶたさんの手だった。皆が笑顔と拍手で讃えた。

「……そこまでだ!」

 お祝いムードをぶちこわす空気を読めないしようもない男の声と殺気を感じ一斉に振り返った。一番後ろで見ていたユカリが腕で首を押さえつけられ、頬に刃物を突きつけられていた。もう一人、森の陰に隠れていたのだ。先行偵察で森の中にはいっていたようだ。 

 当初の予定の人質役は変わったが、結果お頭の描いた状況になってしまった。

「この子がどうなってもいいのか! まずは大人しくしろ!」

(またベタな台詞を。もうそれフリでしかないじゃん。お仲間もういないじゃん)

 最も遠くで見ていた、ぶたさんの手をしていたサクラに意外と緊張感は感じない。両手をぶたさんの手にしている。

 ユカリは押さえつけられた相手の腕を指でツンツンしていた。意外と冷静だった。 

「私はユカリと申します。【ステキなお兄様】、ちょっと苦しいです。逃げませんから、どうかその手を解いていただけませんでしょうか?」

「お前は大人しく黙っていろ! 暴れたらただですまないからな」

 そんな怒号は相反し、【ステキなお兄様】と名付けられた男は気を良くしているようだ。

 ビスカは心配そうにヒマワリの手を握りしめながら半身で隠すようにしながら後ずさり距離をとった。

 レットは顔色を変えてはいなかった。怒りに震えていると思われたが意外な言葉が発せられた。サクラと同じように両手をぶたさんの手にして、相手に見せながらあおった。

「どうぞ、どうぞ。可能ならいかようにもしてくれ。でも、お前とそのかわいい女子が釣り合うかっつーの。身分をわきまえろこの豚野郎! 地面に頭をこすりつけてひれ伏せ!」

「なにぃ! 本当にどうなってもいいんだな! 本当にやるぞ! 後悔してももう遅い!」

 あおられた三十一人目のぶたさんの沸点は最高潮に達していた。

「ユカリ~手加減しろよ。そのぶたさ……いや【ステキなお兄様】が消滅しちまう」

「女の子に対して失礼ですよ。兄さん。

 私はサクラちゃんみたいに、そんなバカ力ではありません!」

 軽~くサクラをディスった後に、男の腕をつかんで一緒に真上に飛んだ。

 空中でステップをするようにぐんぐん上昇する。二人が小さく見えるほど上空に飛んだ。

「そろそろいっか。よいしょっと!」

 そのまま、一本背負いの形で急速落下する。その後、衝撃音と共に地面が割れた。

 レットの言った通り、三十一人目のぶたさんは地面に頭をこすりつけられ……いや頭といわず全身を投げ飛ばされ叩きつけられた。ただ彼は落下中にすでに気絶していたようだ。

 ビスカはあっけにとられていた。さっき心配した事が本当にバカみたいだった。

 これで本当に【今晩カレーになるカワイクないぶたさん】(仮)は壊滅した。

「ちなみにユカリは、サクラのように身体能力に全プッパしているわけではないぞ。使っている魔法は違うけれどサクラと同じように、ただ普通に飛んで普通に相手を投げたように見えるというのがミソだ。

 ユカリも魔法を使っているようには見えないだろ。ただちょっとだけ力が強い女子に見えるだけ。ついでにユカリは武闘家ではない。本気だすときは武器を普通に使う。

 まあ、すぐにお目にかかれるさ。それまではお楽しみに!」

 レットはそこまで言ったくせに全容を明かさずにもったいぶった。

 ビスカには、ユカリが魔法で大男を担ぎ上げ大ジャンプし魔法で大男を投げたようにしか見えない。超人的な二人の戦いを見て驚きの連続に語彙力も失っていた。

 ただ「ユカリちゃんもなんか強いし、かっこかわいい」とだけインプットされた。自分が思っていた強さってなんだろうと改めて考え直したくなった。

 ビスカははっと我にかえりレットに恐る恐るたずねた。

「あの~、あの方たちは亡くなってしまわれたのですか?……」

 手を汚すことも致し方ない場合もあると承知はしていたが実際殺人現場は見たくはない。ましてや女の子がなにも躊躇なく大量殺人するなんて到底耐えられるものではない。

「あ、だいじょぶ。だいじょぶ。あいつら、全員重症だけど誰も死んでいないから。

 言っただろ。全員生け捕りにするって」

 えらく軽くレットは答えた。

「本当ですか。ふぅ。よかった~」

 ビスカも襲われた側の被害者のはずだが、なんだか敵の生存に安堵のため息をもらした。

 サクラもユカリも手加減したわけではない。実はレットがこっそり誰も死なないように細工していた。彼女らもそれがわかっていたので兄を信じて全力で闘う事ができたのだ。

「あんな奴らは、こんな美しい草原にはいらない風景だ。

 だからまとめて、ナツメディアのギルド組合のゴミ箱に空間転移でもさせるさ。悪事の証拠つきで。俺達が魔獣討伐から戻るころには、キレイさっぱり元の美しい草原になっているさ」

 ひどい表現だが妹達の手を煩わせた罪に比べればこれでも優しい言い方だと思っていた。

 彼の言葉には一部誇張された部分があり実際とは異なる。そもそも大男達を一斉に空間転移させることはできない。でも結果だけ言えばウソではない。帰る頃には連絡済みのギルド組合の関係者により処理されて元の美しい草原になっていることだろう。

 ビスカはなにも疑いもなく普通に納得した。表現に関しても意外と寛容なようだ。

「でも私達、その後、ナツメディアに行くんですよね? 会ったらどうしましょ?」

「牢屋送りか病院送りだろうから顔を見ることはないと思うよ。

 仮にもし会ったとしても問題ないだろう。奴らの記憶に一生消えない恐怖が刻み込まれているから俺達から逃げると思うよ。特に……」

 レットは親指で後ろをさし、言葉を続けた。

「一生、【魔王の娘】の悪夢にうなされることになるだろうし」

「ん? 【魔王の娘】って、ダ・レ・ノ・コ・ト・カ・ナ? オ・二・イ・サ・マ!」

 後ろにいた、三日月型に釣り合った目でにらみつける【魔王の娘】(仮)から、レットはただならぬ殺気を感じた。本日、三十二匹目の子豚ちゃんが調理された。

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