表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森のブーケストラ 〜私が女王になるまでの物語〜  作者: ヒロA


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/37

第十四楽章 どんどこどこどこどっこいしょ♪ 今日はどこ行く? ここ行こう♪

 次の日の朝を迎えた。絶好の旅行日和、いや魔獣討伐日和だった。

「その長いもの、釣り竿ですか? ……その二つの長いものだけでよろしいのですか?」

 質問魔姫でなくても、質問するであろう。それもそのはず、魔物討伐といいながら、レットと三姉妹はまるで普段着だ。防具のぼの時も着ていない。用意された道具らしきものは一、五メートル程度の長いもの二本が少し目立つだけ。もちろん、おのおの自分のペンダント【ソウルフル・クォーツ】を首からさげ、見えないよう服の中にしまっている。

 サクラは見た目には殆ど違いはわからないが、彼女曰く【戦闘用のいつもよりちょっと可愛くない服】だそうで動きやすくて破れにくいとの事だが、それ以外は肘当てと膝当ての入った袋をもっていた。

 外作業以外でほぼスカートしかはかないユカリは、今日もスカートだった。険しい森の中へ踏み入れる格好には到底見えない。今日の目的は魔物討伐なのだが彼女にとってズボンをはく程の外作業ではないのかもしれない。いや、ただカワイサ優先で選んだのかもしれない。

 この兄妹は、着て行く服を選ぶとき目的に合わせるというより、どれだけテンションが上がるかの方を優先し、みんなで賞賛しあうのが基本だ。

 レットは自分がイケメンでもないしセンスはないと自覚しており、ザ・無難で普通をモットーにしているが、妹達は何を着ていても似合うので基本褒め称えた。肌の露出が多い時だけ若干苦言する程度だ。

 ヒマワリはいつの通りのカワイイ格好だ。ユカリがコーディネイトした時はユカリっぽくなるし、サクラがコーディネイトした時はサクラ色に染まる。

 みんなでお出かけという事? でユカリが決めたかったが、残念ながらサクラが決める権利を勝ち取り今回はオーバーオールだった。それでも何着てもかわいいからユカリに不満はなかった。もちろんレットとビスカも。

 あとはそれぞれがリュックサックをかついている。水筒も肩にかけている。ちなみにリュックサックの中身は一応ちょっとした着替えとおやつだ。

 なんだか、ただ普通のピクニックにでもいくようだった。

「お昼のサンドイッチたくさんつくりましたから、広いところで食べましょうね」

 ユカリはかなり大型のバスケットを抱えていた。かなり遠足気分だ。

 レットは剣を腰にぶら下げ、小型の自分のカバンを腰につけ、ヒマワリの大きなポシェットを変わりに持っていた。

 ビスカは、すっかりキレイに洗濯された自分の服だった。(自分の服といっても逃亡用に侍女が用意した庶民風の服で下はスカート)。ユカリから借りた小型のカバンを肩からさげ、剣を一本だけ抱えていた。

 今日の朝、ユカリから渡された自分の服は予想以上にキレイになりすぎていて新品と間違ったくらいだった。

 ちなみに、この家には魔法で制御された全自動洗濯機と乾燥機のようなものが備わっていた。もうなんでもありだった。このような近代装備を完備していた事にはもちろん理由があり、全てレットが修行時にワイスの助力により蓄えた秘匿の知識の賜だった。この世界では現在、全自動はおろか洗濯機の類いも存在しない。

「本当にこのような格好でよろしいのでしょうか?」

 ビスカはこの服しかないからしょうがないにしても他は緊張感のない普段着に、なにかピンとこない。本当に魔物討伐にいくの? 私だまされてる? と思わざるを得ない。

 ユカリは「そうだ! ちょっと待ってて」といった後、バスケットを荷台におき、なにやら取りに行き、足早に戻ってきた。

 後ろに隠しながら、持ってきたものを見えないようにして一旦馬車にいき、そろそろとビスカに気づかれないように後ろから近づく。

「はい、おねえちゃん!」

 満面の笑みで、ビスカの後ろからうす茶色の手編み帽子をかぶせた。

「か~わいいいいいいい!!!」

 三姉妹が感嘆の声を上げた! 確かにかわいい。お姫様だけが持ちうる美しさ、品性と、人を寄せ付けない気高きオーラ……いや、人を寄せ付ける魅力的なオーラが倍増していた。

「あ、ありがとう」と恥ずかしながらビスカは答えたあと、ちょっとかぶり直した。

 姉妹のやってくれた事にまるで反対せず、全て受け入れているのは天然なのか、それとも器が広いのかはわからない。

 頭のサイズは知らないはずなのにぴったりだったその帽子を、ビスカも気にいったようだ。サイズがぴったりなのは魔法で調整されていたのだが、自動でサイズ調整されたわけではなく、一日目の夜、寝ている間に三姉妹達に測られていた。

「でも本当にこのような格好でよろしいのでしょうか? 本当に大丈夫なのでしょうか?」

 ビスカは「本当に」を強調し、繰り返してたずねた。

「あぁむしろ、そんなかっこの方が目的を知られず都合がいい。それにピクニックに行く美人四姉妹って絵になるだろ。あ、でも、目立ちすぎるのはやばいな。若干【見逃しの魔法】でもかけていくか」

 レットが言った【見逃しの魔法】とは、姿を消す魔法ではなく、単純に存在感を薄め、気付かれにくい、興味をひかれづらくする魔法だ。この世界で姿を消すまでの強い魔法はない。この魔法も、この四姉妹のビジュアルに果たしてどれだけ効果があるのかレットは自信を持てなかったが、なにもしないよりマシだろうと一応魔法を施した。

「私も帽子もってこよ!」

「ヒマも~!」

 サクラとヒマワリも急いで帽子をとりに戻ろうとした。

「ふたりの分もあるわよ~!」

 ユカリが制止した。ユカリは自分の分とふたりの分も用意していたのだ。本当に気が利く長女である。今はビスカがいるので二女だが。

 帽子は四人ともお揃いで、サイズとリボンの色だけ違うものだった。

 サクラはピンク、ユカリは紫、ヒマワリは黄色、ビスカは白だった。

 やれやれとレットは呆れたが、こんな雰囲気は嫌いではなくむしろ大好きで、どんな難解な事でも悲壮感や緊張感はほどほどに、みんなが楽しんでくれることがうれしかった。

「準備ができたら、馬車に乗って乗って!」とレットが四人を促した。

 袋に秘匿された一、五メートルほどあろうかという二本の長尺のなにかはすでに荷台の横に設置されている。馬車といってもロバの一頭立てて、うしろが屋根のない軽装の小型荷台馬車である。それでも荷台に四人と荷物を積むには、充分過ぎる大きさだった。


 レットは馬車を運転するため、前にすわり手綱をひいた。

 実際、手綱を引く必要もなく目的地にたどり着くことはできるのだが、手綱を引く人がいない馬車なんてありえないため、演出の意味も含めレットが手綱を引いていた。

 荷台に荷物と四人姉妹が座った。昨日から、誰がビスカの横に座るのか争奪戦だったようだが、どうやら勝者はヒマワリのようだ。二人の姉は、もし自分が勝ったとしても結局ヒマワリにその権利を譲ったかもしれないが。

 荷台の前方にサクラとユカリ、向かい合って後方にビスカとヒマワリが座った。

「さあ、行こうか!」

 少し馬車で移動した先に円状の魔方陣らしきものがあった。そこで一旦停止し、ビスカ以外の四人が一斉に元気よく声をあげた。

「せ〜の! どんどこどこどこどっこいしょ♪ 今日はどこ行く? ここ行こう♪」

(なに、なに、この意味不明な言い方、歌? 呪文? また私だまされているの? ……でもなんだかかわいいかも。ちょっと一緒に言いたいかも……)

 いつも感性を疑うようなおかしな呪文に対しビスカは疑心暗鬼になっていた。けれど楽しそうに歌う妹達を見ると、このはずかしい歌? 呪文? も、なんだか一緒に歌いたくなった。

 繰り返しになるが、ここに行きたいという思念派と音声認識だけでいいので言葉はなんでもありだった。普段は感性やタイミングが合わず、つっこみが入るのだが(主にサクラからレットに)たまには四兄妹のテンションが合致する事もあるのだ。

 まばたきを二、三回しているうちにあっという間に目的地(マーキングした場所)についた。光に包まれるという演出もなく意外と地味だった。大きな木が一本近くにある草原の一画にたどり着いた。目線の遠くに目的の森サンディの入り口が見える。

「さぁおりて、馬車はここに隠していく。あとは徒歩で行く! リュックとかバスケットとか戦闘に必要ないものはおいて行く事! いいな! わかった?!」

「はーい!」

 まるでレットは引率の先生だ。それに対して三人は元気なかけ声で右手をあげた。ビスカも若干遠慮ぎみにその波に加わった。徐々にではあるが、楽しんだもん勝ちのこのノリに、ビスカは戸惑いつつも染まってきた事をまだ本人は自覚していない。

【見逃しの魔法】でこの馬車は誰にも見つけることはできない。しかも見た目は普通だが、荷台に載せている限り、食べ物や飲み物はいつまでも新鮮な状態を保つ仕様のご都合主義満載の馬車だった。もちろん質問魔姫には事前に説明済みだった。

「あっという間についてビックリしています。庶民……あ、皆さんが使っている馬車がどんなものか興味がありましたのに」

「だいじょぶ。魔獣討伐が終わった後に街へ向かうためにイヤというほど庶民の馬車を経験できるよ」

 少しいじわるにレットは答えた。

 レットが長尺の二本の何かを肩でかつぎ、腰に片手剣をさげて出発の準備をした。

 ビスカは、腰に剣をさげ、小型のカバンと水筒を持っていく。

 サクラは、膝当てと肘当てを装着した。

 ユカリも、小型カバンと水筒を右肩から下げた程度だ。

 ヒマワリは、自分の身の丈に比べバランスが若干悪い大きめのポシェットと水筒を両肩からクロスにかけた。

 四人の乙女はそれぞれ帽子をかぶっている。時間的には早いが充分、日ざしは強い。

「はい、みんなこっち集まって! 日焼け防止と虫よけ対策をしましょう」

 乙女にとって紫外線と虫は大敵だ。ハーブを主成分とした何か不思議な液体を二種類、霧吹きで女子全員にふりかけた。もうビスカはこの光景になれてしまったのか、何も不思議がらずにユカリに従った。

 一行は、一応冒険者スタイルではあったが、それでもやっぱりピクニックに行くようにしか見えなかった。

「よし、行こうか!」

「おー!」(三姉妹)

「おー!?」(これでよろしいのでしょうか?)

 レットのかけ声にあわせて、ここまでは全員ノリがイイ。若干ビスカが遅れてまだ恥ずかしそうに言ってしまった。それでもせっかくのいい雰囲気になったがそれに水を差す男がいた。

「いいか、お前達! 帰ってきて、ただいまっていうまでが討伐だ。

 安全安心を心がけ、決して最後まで気を抜くんじゃないぞ!」

「アニキ、そのフレーズ、古すぎ。ダサすぎ。センスなさすぎ。なんも面白くない!

 はい、やり直し!」

 レット渾身のネタはあっさりサクラにより却下された。

 前方にサクラとユカリが歩き、真ん中にビスカと手をつないだヒマワリが横に並び、しんがりにレットが続いて目的地の森に向かった。

 サクラとユカリは幾度となく振り返りながら真ん中の二人とガールズトークを展開している。それを後ろから、微笑ましくレットが眺めていた。

 話していると時間がたつのが早い。本当にあっという間に森の入り口についた。


「よし、とりあえずウィルオーを放って偵察しつつ森へ入るか。ヒマ、よろしく!」

「あいあいさー!」

 ヒマワリはカワイク敬礼をしながら返事をして腰にぶらさげたポシェットを開く。

 その中から、まるでホタルの放虫かの如く十体の球形の光の玉が解き放たれた。

「キューたん! ピーたん! あと、みんな! 頑張ってきてね~!」

 残りの八体の名前をひとまとめにされたウィルオー偵察部隊はけなげに飛び立っていった。ヒマワリ司令官は手を左右にふり見送った。

 さあ、俺達も行こうかとレットがいった瞬間、レットの後ろで、このほんわかムードをぶちこわす(いや本来ほんわかでは問題あるのかもしれないが)不届きな、本当に不届きな、ノイズのようながなり声が響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ