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森のブーケストラ 〜私が女王になるまでの物語〜  作者: ヒロA


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第十三楽章 前のめり姫・暴走姫・おてんば姫・泣き虫姫・質問魔姫

 昼食後、明日のミーティングが行われた。

「まずは森の近くに馬車ごと空間転移させる。そこに馬車を一旦止めておく。

 そこから森の入り口まで歩いてそのまま森に突入して探索。

 魔獣討伐後、馬車に戻って馬車でナツメディアに向かう」

「なぜ、そのまま馬車で向かわないのですか」

「ビスカは、魔法を見続けて麻痺してしまったのかもしれないけれど魔法は万能じゃない。

 空間転移した先に、すでに何かが存在していた場合どうなるかわからない。

【二つのモノは同一空間には存在しない】と言う自然界の摂理に逆らう事になって、最悪、最初に存在していたモノも自分も消滅する可能性があるんだ」

「……ゴ、ゴメンナサイ。リカイフカノウデス」

 ビスカは別に頭は悪くない。むしろ聡明な方だ。ただ今まで得てきた常識とは別の法則がある世界に、まだ戸惑っているだけなのだ。

「ごめん、俺もうまく説明できなくて。わからなくて当たり前だから。ま~つまり、闇雲に空間転移しちゃうと森に激突する可能性があるって事。危ないでしょ」

「なるほど~!」

「だから離れた位置に空間転移する。そもそも空間転移だってどこにでも行けるって訳じゃない。マーキングっていって入口出口みたいなモノを設定しなければならないんだ。

 そのマーキングをしている場所以外、そもそも転移できない。だから必ず最初は自分の足でそこに行く必要がある。

 俺達は道もないこんな森の奥に住んでいるから、いたる所にマーキングをしてそこにジャンプするんだ。もちろん一般人には見つからない様な対策はしてね。その他にも制限はかなりあるけれど、今回はこれくらいに」

「なるほど、なるほど……」

 なにやらビスカはゴソゴソとしていた。説明を彼女なりにメモ紙にまとめている様だ。

「そして森に入ってからだ。魔獣を探すのは問題ない。問題は見つけた後だ。今回は俺達が対処する。君は距離をとってヒマと一緒に見ていてくれ。何もしなくてもいい」

「私も参加させてください! あの剣技では不安ですか」

「いやそうじゃない。君の剣技は素晴らしいものだ。このまま鍛錬を重ねればマスタークラスも夢じゃないだろう。でも君は本当の魔物とか魔獣をどれくらい知っている?」

「本で見た事と先生からお聞きした程度で実際には見た事はありません。さっきあの草原で見たのが初めて位です」

「なら尚更だ。今回は特にどんな魔獣かわからないし何が起こるかわからない。今回だけは我慢して俺達のやり方を見て欲しいんだ。昨日も言っただろ。見る事が大切だって。一瞬も見逃さずに見続けるんだ。それが次に役立つ。ピンチになれば遠慮なく助けて貰うよ。

 それに今のところ闘うと決まった訳じゃない。会いに行くだけさ」

 レットは「今回」という言葉を強調した。【なんでも前のめり姫】の操縦術が自然にわかってきたのだろうか。

「はい、その様な理由なら今回は承知致しました」

 渋々、ビスカは(今回は)了承した。この姫は元来、守られる姫体質ではなく、行動的な【暴走姫】……いや【おてんば姫】なのだろう。

「後はその都度、説明するよ。わからない事があったら遠慮なく聞いて欲しい。

 次の話しだが、君も持っているペンダント。いやそこに埋め込まれている魔法石【ソウルフル・クォーツ】の話しもついでにしようか。

 ユカリ、すまないがみんなの石を持ってきてくれないか」

 ユカリは「はい」とうなずき、席を立ちなにやらリビングの奥の【フェシー】ヘ行く方へ向かった。レットは説明を続けた。

「魔族の末裔は生まれた時に一人にひとつ【ソウルフル・クォーツ】が与えられるんだ。 

 今では血は薄まり魔力も弱まっているが、それでも赤ん坊の状態だと自分の魔力に体が耐えきれず、死もしくは消滅してしまう。だからこの魔法石にその子が持っている全ての魔力を全部封じ込めるんだ。その石はペンダントにして生涯大切に持たされる。

 そこから魔力が供給され魔法が発動するんだ」

「そんな大切なものをワイス先生は私にお渡しくださったのですか?」

「ああ元来人にあげるものではない。その人しかその石の中の魔力は使えないからね。

 主がいなくなれば魔力も徐々に自然界に放出され光沢も失い最後はただの石コロになる。

 でもあのじじぃ……いや、師匠の魔力が強大だったのかな。まだ宝石のような光沢がある。そもそも師匠のものとも限らないけれど、今でも何かしらの効力を発揮しているようだ。君がそれを持ってここの結界を抜けてきたのがその証拠だ。

 いつ、ただの石ころになるかわからないけれど、その石に守られていると思って肌身はださず持っていて欲しい。師匠の生きた証でもあるしね」

 レットは口悪く言ってはいるが本心は自分の師匠を心底尊敬しているとビスカは感じた。

 彼女は胸のペンダントを服越しに両手に握りしめ目を閉じうつむいてつぶやいた。

「先生、私を守ってくださり、この出会いを創ってくださり本当に感謝いたします」

 またまた泣きそうになっていた。【泣き虫姫】という不名誉なあだ名がつけられそうだ。

 説明している間に、ユカリが大切そうに大きな木箱をもってきた。

「はい、兄さん!(テーブルに木箱をそっと置いた)もう少し、結界緩めませんか? 

 持ってくるの大変なんですよ」

「あぁ、わかった。考えておくよ。持ってきてくれてありがとな」

 レットが施錠の呪文をつぶやいた後に、その木箱を開いた。

 そこには四つのペンダントが大切にしまわれていた。

「普段はこうやって厳重に保管されているんだ。別に肌身はださずってわけじゃない。位置さえ把握していれば、ある程度離れていてもなにも問題なく使える。まあ距離によっては魔力供給が少なくなる場合もあるんだけどね」

 ビスカは必死に書き留めた。今はわからない事でも後でわかる時がくる。役に立つ時がくると先生から教えられていたため習慣になっていた。メモ魔姫の称号獲得まであとわずかなようだ。

 ひとつひとつレットが手にとり、説明した。

「この赤い石が俺の奴で、キャラに似合わずこのピンク色の奴がサクラのものだ。そして紫色のものがユカリだ。カワイイ黄色のがヒマのだ」

 サクラはレットに拳で「キャラに合わず……」に突っ込んだ後に答えた。ユカリも続く。

「みんなカタチが違うでしょ。ま、サクラのやつがいっちゃんカワイイけどね!」

「お姉ちゃん、キレイでしょ。この色はその人の魔力の色なんだって。魔力をいれた時に色とカタチが変わるんだって」

 やはり自分のものが一番なのだ。サクラだけではなくユカリもヒマワリも自分のものが一番カワイイと思っている。

「本当。本当にキレイ。なにか普通の宝石とは違いますね。輝き方もそうだし雰囲気とかカタチも見た事ないし……」

 普通の宝石は円や楕円状、菱形や六角形等、その宝石が一番輝いて見えるよう均一に加工されている。でも、ここにあるものはそれぞれが違う。なにか花や花ビラのようにも見える複雑な造形だ。この世界の加工技術では難易度の高すぎる造形だ。

 明日はこのペンダントをみんなもっていくと言った後、レットが片付けようとした途端、話しを終わらせようとしない者が現れた。

「あの~そのペンダント、もし、なくなったり、盗まれたらどうなるのですか?」

「それはだ。え~~~~」

 【質問魔姫】の質問はつきない。イヤな顔せずレットは答え続ける。そのやりとりがその後、数十分にわたり交わされた。他の三姉妹には、このような説明はもちろんいらないし、ビスカに対しても本来はここまで説明する必要もない。

 逐一ビスカが質問し、レットも事細かに聞かれた事以上に説明するから、なかなか話しが先に進まないのだが誰もイライラしていない。

 レットは学者気質で、うまいへたはともかく説明するのが好きなのだ。しかもこんなに積極的な生徒の前では尚更だ。まるで先生と生徒の図式の様で、その後も授業は続いた。

 一体何杯ものハーブ茶がその本来の味や匂いを味わってもらえず、ただただのどを潤す為だけに消費されたのだろう。話しのコシをおらないように、何も言わずに合間合間に絶妙なタイミングでユカリがお茶をついでいたから、なおの事消費ペースは速かった。

 時折サクラとユカリもレットのへたくそな説明にフォローを入れた。

 ヒマワリは論点のズレた一言をたまに繰り出し、まわりに笑いと癒やしを提供した。

 本来、魔法自体、絶対的秘匿事項な為一般人(魔法を使えない人、魔法の存在がわからない人)にここまで明かすのは厳禁なはずだがなぜかビスカだけは別と思っていた。 

 むしろ情報を共有することの方が重要と感じていた。

 全ての事を包み隠さず話しているわけではないが、それでも詳しく説明しすぎていた。


 その後、家の中、家の外問わず様々な場所に移動し(多くの時間は【フェシー】であったが)特別授業が開催された。

 三姉妹は気まぐれに参加したりしなかったりで、しないときは明日の準備をしていたようだ。といっても日帰りという事もあり実際ほとんど準備するものはない。ただ明日何着ていこうかとファッションショーに明け暮れる時間が圧倒的に多かった。

 想像以上の質問魔姫と化したビスカにレット先生は手を焼き、やれやれしょうがないなあと呆れた表情をしたのだが、内心楽しくてしょうがなかった。

 明日のために早めの夕食をとって、早めに休む事になった。

 さすがにビスカとレットの授業が長時間になったため、夕食当番のレットの変わりに、お願いされるまでもなく昨日に続き三姉妹が創った。

 決まり事はあれどそれだけに縛られることもなく、その時その時で臨機応変に、かつ損得ヌキで自然に気を使い助け合えるこの兄妹の姿をビスカはうらやましく思っていた。

 姉二人は尊敬していたが、幼少時代ならともかく最近はこの兄妹の様に多くの時間を共にしてはいないし心を通わせていた自信もない。

 姉二人に再会でき、元の暮らし(といってもすでに両親はいないのだが)に戻る事ができたのならもっと甘えよう、そしてもっと助けよう。たくさんの時間を共有しよう、たくさん話しをしよう。今度はこんな兄妹のような関係を築きたいなと思った。

 兄の変わりに料理を創った三姉妹には、実はご褒美と称した別の思惑もあったのだが、ビスカの疲労を考慮しそれは後日にお預けとなった。

 そうビスカお姉ちゃんと一緒にお風呂に入り、一緒の部屋で一緒に寝るという事だ。

 その晩、皆早く終身についた。明日のために。

 でも三姉妹は昨日に続きなかなか寝つけなかった。遠足の前日のように。

 大好きなお姉ちゃんとはじめて一緒に旅行にいける事が楽しみでしょうがなかった。

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