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森のブーケストラ 〜私が女王になるまでの物語〜  作者: ヒロA


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第十二楽章 私、双剣流の方が得意なのです!

 次は、家の右側にある小屋に案内された。

(今度はなに? 今度はなに?)

 ドキドキが止まらない。好奇心の高いビスカの期待値は上昇の一途をたどった。凄いモノを見せられ続けていたから次はどんな世界を見せてくれるかと心臓の鼓動は止まらない。

 レットが扉を開けた。ジャーン!!

(えええええええええええ!!!)

「ん? なに? まあいいか。ここが鍛冶工房だ」

 レットはビスカの表情が腑に落ちない。そこには大きな釜とテーブル、道具や武器のある、ごくごく普通の工房だった。ビスカはあからさまにがっかりした。別の意味で驚いた。

(普通ですよ。普通すぎますよ。レットさん。今まであんなにビックリ箱だったのに)

 そもそも、鍛冶現場自体、見た事はない姫様にとってこれでも充分好奇心を満たせるはずが、今まで見たもの、聞いたものが常識外すぎてハードルがかな~り上がっていたのだ。

「ん、どうした。なんか今までと反応が違う気がするけれどなんかあった?」

「い、いえ、なんでもありません。こ、ここは鍛冶をする所ですよね? 

 レットさんは鍛冶屋なのですか?」

「鍛冶屋というわけではないけれど鍛冶もする。武器とか日用品とかここで創っているものもたくさんある。難易度が高いものは他にお願いしたり共同で創っているけどね」

 レットがなんでもできる事(そう見せているだけだが)に対して、すでにマヒしており驚きは少なくなっていた。この家のたいていのもの(トンデモ設備も含む)はレットが創っていた。

 難解なものに関しては修行時代に世話になった工房の力を今も借りていた。

「君の武器を選ぼうと思ってね。闘わないにしても護身用として一応持っていて欲しい。

 新しく創るのには時間がかかるから、現状、今あるものから選ぶしかないけどね」

 テーブルの上にずらっと完成品の武器が並べられた。

「剣からヤリ、弓、ハンマーまでいろんなものがあるよ。好きなものを選んで。

 一応、魔法の杖もあるけど、使い方むずいからオススメしない」

 ビスカはじっくりと観察した。素人目に見ても、どの武器も素晴らしい出来映えだ。

 レットの鍛冶スキルはかなり高いと感じた。

「これも魔法で創ったのですか?」

「まあ、行程短縮のためにちょっとだけ使っているけれど、基本普通の鍛冶屋と同じように創っているよ。俺は鍛冶屋で五、六年ほど修行したんだ。ワイス師匠と修行しながらね。五、六年しか鍛冶屋で修行していないから一人前とは程遠いけど。後は実践あるのみさ」

 さも当たり前のように言っていたが普通の人が修行のかけもちなんてできるわけない。

 ビスカは感嘆しっぱなしだ。

「すごいですね。尊敬します!」

「普通の事だよ。尊敬される程の事でもないけれど気持ちは喜んで受け取らせてもらうよ」

 褒められて嬉しくないわけはない。が同時にホントにこの姫様は身分とか見た目で判断せず、きちんと自分の目でその人を判断できるんだなとレットも感嘆しっぱなしだった。

「ビスカは王宮でなにか体術とか習った? お姫様だとそんな事しないか?」

「いえ、ワイス先生から体術を多少は教えていただきました。特に剣技に才能があるとおっしゃっていただきました」

(お姫様に体術だと! じじぃやりやがったな。学問だけじゃなかったんかぃ!)

「ならこの剣はどうだい? キミの体格をみるとこれなんか使いやすそうだよ。それにデザインにも凝った奴だから姫様に見劣りしないと思うけれど」

 レットは柄の部分が赤い細身の剣を手にとった。彼はデザインセンスがなかったから装飾部分はユカリがデザインした。ビスカはその剣を受けとり右左に軽くふってみた。

「はい、これは素晴らしいものですね。振った感じ使いやすそうです。

 これに決めさせていただきます。でも……」

「でも?」

「こちらもよろしいでしょうか?」

 テーブルの上にあった、柄の部分がエメラルドグリーンの剣を指さした。


「私、双剣流(二刀流)の方が得意なのです!」


 えっ! さすがのレットも驚いた。まさか扱いが難しい双剣流の使い手だなんて。

 いやいや遊戯レベルかもしれないから驚くにはまだ早い。

「だったらキミの実力も見てみたい。君がその剣に慣れるためにも俺と手合わせしてくれないか?」

「はい、喜んで。こちらこそお願いします。ワイス先生のお弟子さんに稽古をつけてもらえるなんてこれほど名誉な事はありません!」

「よし、オモテにでて今すぐやろう! お手並み拝見といこうか」

 家から少し離れたところに、芝生の広い場所がある。

 小さい頃はよく四人で遊び回ったのだが今では訓練をする場にもなっている。

 リビングから続くオープンデッキの特等席に三人のギャラリーも集合していた。

「おねぇちゃん! 遠慮すんな~、アニキの手足、斬っちゃえ斬っちゃえ!」

「おねぇちゃん! がんばって~、でもケガしないでねぇ!」

「おねえちゃん! ファイトファイト~」

 三姉妹は全てビスカの応援団だ。レットの事なんて知ったこっちゃない。ビスカはありがとうと軽く手を振って答えた。

「おい、誰か俺の応援もしろ~い! まあ、いい! 全員悔しがらせてやる。

 いつでもいいぜビスカ! 手加減なしでこい!」

 レットが勝ちでもしたら悔しがるよりもブーイングの嵐になるのに、レットは大人げない言葉をはいて、左手には小型の盾をはめ、右手で片手剣を構えた。

「はい、行きます!」

 ビスカは両手の剣を下に落として、目を閉じ呼吸を整えた。そしてレットに向かって、なぜか背を向けた。これが構えなのだが、普通に見るとただ後ろ向きで立ち、剣をただ下に降ろしているようにしか見えない。その姿勢は、絵になるなんてレベルではなく剣豪のそれに近いオーラを背中から発していた。

(な、なんだ、この構えは、ワイス流の構えそのものじゃないか。あのじじぃ、カタチだけじゃく本気でビスカに教えてやがった。しかもこの雰囲気、彼女は剣を持たせると性格が変わるタイプか? なら、こちらも手加減できないな)

 レットがあれこれ考えて、気を引き締める事に決めたその瞬間、ビスカは吐き続けていた呼吸をとめ、目を開いた。

 予備動作なく反転し、ゼロの状態から雷鳴の如く加速しレットに飛びかかった。

 ビスカの右手剣と左手剣が右に左に乱舞する。若干、その細腕で剣の重さに振り回されている感はあれど様になっている。現にレットはビスカの鋭い剣技に受けるだけ、かわすだけで精一杯になった。

(こ、この姫様、なんなんだよ。なにが多少だって?)

 自分の過小評価を恨んだがそんな事をいっている場合ではない。反撃の糸口が掴めない。

 彼女は剣を振りまわしレットの剣に防がれてもその反動で体ごと横一回転してその勢いで反対の手の剣をみまう。くるくると右回転、左回転を繰り返し、剣撃を繰り出し続ける。

 これこそがこの剣技の特徴で、相手に背をむける事もいとわず、回りながら、相手の呼吸に合わせ、リズムを同調させ攻撃するのだ。流麗なダンスを踊るかの如く。

 右からの攻撃をさけては受け、左からの攻撃をさけては……と思うと上下からも攻撃がくる。レットはどんどん後ずさる。こちらも時たま攻撃はするが軽くいなされる始末だ。

(うれしい誤算だけどホント参ったな。ここにも天才がいやがった。

 この世の中にはどれだけの天才がいるんだよ。イヤんなるな、全く。でも……)

 攻撃も一定ではなく緩急をつけ、時に鋭い突きも繰り出しはじめる。型にはまらない変幻自在の剣技はまさにワイス流のそれだ。

 ギャラリーの三姉妹は魔法を全く使わない美しい剣舞に、応援の声もなく魅入っている。

 だがレットだけは魅入っているだけではなかった。

(双剣は扱いが難しいものだ。見た目の華やかさ、かっこよさに比べ実践向きではない。

 長所より短所の方が多い。実践向きの双剣はどちからというと暗殺者が好み、扱う剣も短いものだ。師匠が刃の長い双剣を使えていたのは魔法があったからだ。

 でも彼女は魔法を使えない。ならなぜ師匠は彼女に双剣を教えたんだ?)

 師匠ワイスは、双剣使いではあったがそのあまりも速すぎる剣筋により何本もの剣を操っているようにも見えたため本人曰く【百剣流】と言っていた。だがその【百剣流】は、レットもほとんど見た事はなかった。なぜならあまりにも強すぎて普通の【双剣流】すら繰り出す事はまれで殆どが【一本の剣】に見立てた【杖】で事が済んでいたからだ。

「君はすごいね。予想以上だ。ただ双剣は辞めたほうがいい。地道に一本の剣で剣術を磨いた方がいいよ」 

「えっ?」

 自信を持っていた双剣流にダメだしを食らって急に技の切れ味が鈍る。

「なぜです? 理由を聞かせてください」

 その言葉で二人は構えは崩さないまま一端距離をあけていた。

「双剣は見た目は華やかでかっこいい。稽古や円舞なら通用する。けれど実践向きではないんだ。殺傷力のある重い剣での双剣流だと、その重さでスピードが鈍るし、振り回されるだけでスキだらけだ。二本振る事だけに精一杯になってむしろ動きもパターン化され読まれやすい。防御面も弱い。今はその細くて軽い剣だから扱えているだけだ。力の伝わりづらい双剣は殺傷力はないしガチの相手の一撃に耐えられるものでもない。

 物語の中で人気の二本の大剣使い【黒髪のウィンヴィーネ】は確かにかっこいいけれど、あれは物語の中だけで誇張されたものだ。

 その点、一本の剣なら余った手で態勢を整える事もできる。つかんだりなぐるもできし、アイテムを使う事もできる。盾を構えれば防御面も盤石になる。両手で握れば、速くて力強い会心の一撃を叩き込むこともできる」

 彼女はあからさまにショックな表情を見せた。

「現に君は圧倒的に攻めているけれど、決定打を打てないでいるだろ?

 だが君の剣の才能は本物だよ。そこは保証する。自信を持っていい」

 そこまで言われた場合、意固地になって双剣流にこだわりあくまで双剣で闘いぬくか、もしくは自信や戦意を喪失し戦闘放棄をするのが普通だ。

 だが彼女はそのどちらでもなかった。彼女の信念は別の部分にあり、プライドはそこにはなかった。

「わかりました。では早速実践向きの剣技で行きます」

 左に持っていた剣をそっと脇に置き、一本の剣を両手に持って突進してきた。

「え? えええええ?」

 彼女の想定外の行動にレットは動転していた。

 彼女は一本の剣で、容赦なく次々に攻撃を繰り出した。

 先ほどを違うのは、一本の剣を時に両手で、時に片手で臨機応変に振り回し、双剣の時とは比べものにならないほどの剣速と体さばき。そして一撃、一撃が少女のそれではなく重かった。

(うわっ、どこまで想像を超えるんだよ。なんだよ。この割り切りの良さと対応力は。

 ……まさか師匠は【彼女に人を殺させないため】にあえて双剣を教えたのか?)

 何度目かの剣と剣の交錯のあと、両手で強く握ったビスカの強烈な一撃で、グワシャーン! という轟音とともにレットの剣が手から離れ空中に飛び彼は尻餅をついた。

 ビスカは剣先をレットの首元に向けた。

「ふぅ。私の勝ちですね。手を抜いて下さったと思いますが、稽古していただきありがとうございました。そして気づかせてくれてありがとうございます」

 ビスカから剣豪の険しいオーラは抜け今までの姫様スマイルに戻った。

 剣を鞘に納めレットに手を差し伸べた。

「やれやれ、とんでもない姫様だ。まいったまいった。俺の負けだ負け。降参降参。

 ビスカ、君強いね。それに臨機応変力もある。俺の想像以上だ。正直侮っていた。十分戦力として計算させてもらうよ」

 レットは立ち上がろうと差しのべてくれたビスカの手を掴もうとしたが叶わなかった。

「お、ねえぇちゃあんんん!!!」

 三人姉妹が満面の笑みで、ビスカに飛びかかって抱きついたのだ。

「強い、超強い、超カッコいい!」

「ステキです。ステキです。本当にステキです!」

「お、おねえちゃん勝った! 勝った!」

 三人の笑顔にビスカも笑顔で答えた。それをうれしそうにレットは眺めていた。

 この場所にいる誰よりもレットが実はうれしいのかもしれない。

 ビスカの剣技の実力を知れた事ではなく、四人の少女が笑顔でいる事が。

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