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森のブーケストラ 〜私が女王になるまでの物語〜  作者: ヒロA


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第十一楽章 魔獣との体をつかったレクリエーション

 【フェシー】を後にして、ユカリは昼食の支度に入った。

 レットはちょっときてくれとビスカに促し二人は外に出た。

 四兄妹が住む家の隣には、右側に二つの小屋と左側に馬小屋と小さな養鶏場、小動物の飼育場がある。家のまわりには野菜畑と様々なハーブや花を栽培しているガーデンが広がっていた。

 順番に見せてまわるという事で小動物の飼育場へ入った。

「かわいいですね。この生き物はラビィですね」

「ああ、その内の一匹は、君とほぼ同時にきたんだ。ほら、その金色の……」

「へぇ。そうなのですか? 触ってもよいですか?」

「ああ意外と気性が荒いから噛まれるなよ」

 ビスカは金色のラビィに、おそるおそる手を差し伸べたが触る瞬間に逃げてしまった。

「私、振られちゃったみたいです。怖かったのかな?」

「ははは、それは逆だ。君が怖がっていたから逃げたんだよ。動物は敏感なんだ」

「だって、レットさんが噛むって脅したから……」

「ははは、ごめん。からかった。それは冗談さ。ここのラヴィ達は人なつっこいから、むやみに噛まないよ」

 そこへとことこ、ヒマワリがやってきた。

「ヒマワリ先先が手本を見せてくれるよ」

 ヒマワリはしゃがんで両手を広げた。

「ヒマちゃん、危ない!」

 ビスカは思わず叫んでしまった。五匹のラヴィ達がヒマワリに襲いかかったからだ。

 しかし、それは勘違いだった。

 五匹のラヴィはヒマワリの体の上を四方八方に周りまくった。ただじゃれているだけだったのだ。

「こらこら〜、みんな、くすぐったいよ〜」

「な、相手によって、生き物の態度はこうも変わるんだよ。自分が怖がれば相手も怖がる。 

 自分が敵対すれば相手も敵対する。自分が優しければ相手も優しくなる。

 ま、あくまでここにいるような優しい奴限定だけどね。自然の中で生きる獰猛な奴にはその理論は通用しない。どうしてもわかり合えない奴はどこの世界にもいるものさ」

「なるほど。奥が深いんですね」

 ヒマワリは、その内の一匹を手で優しく包んでビスカへ渡した。

「はい、お姉ちゃん。かわいいでしょ?」

 ビスカは優しく金色のラヴィを抱きかかえ、背中をなでた。

「ありがと。ヒマちゃん。ホントにかわいいね」

 金色のラヴィは先ほどとは違い驚くほど穏やかだった。あっという間になついたようで、ビスカはほっておけばいつまでも戯れていそうな雰囲気だった。

「ビスカ、君に見せたかったのはラヴィだけじゃない。いつでもラヴィには触れるから、そろそろ次、行こうか」

「あ、はい、すみません。かわいいものは一生見ていられますね。次はどちらへ?」

「そこさ」

 レットは奥のドアを指刺した。見た感じ、反対側の出入り口のようだ。

 レットはなにやら呟いて扉を開いてビスカを誘った。

 扉をくぐると、大草原が広がっていた。

「え、え、え? ここは外? でも……」

 ビスカはその景色に呆然とした。この建物の外は森が広がっていたはずで、大草原のはずはない。ただ、目の前は確かに大草原だった。

「驚いたかい? ここは現実だけど、現実にはない場所。秘密の楽園さ」 

「レっ、レットさん、後ろ! 危ない!」 

 レットの後ろから、クマのような四つ足の魔獣が突撃してきたので、ビスカは叫んでしまった。ただ彼女の叫びに比して、レットは至って冷静だった。

「大丈夫さ。ここの魔獣はみんな大人しい。無害だから」

 その言葉通り、レットの前で急停止した。その魔獣をなでながら彼は話しを続けた。

 レットに真似するかのようにヒマワリも魔獣をなでなでしていた。

「さっき言ったとおり、絶滅危惧種や新種の魔獣の生態研究所さ。

 大人しい魔獣を虐待しながら戦闘兵器として研究している奴らもいる。そんな奴らから保護し生態観測をしているのがここ。百種を超える魔獣がいるけれど俺達を受け入れてくれた優しい奴しかしない。襲われる事はないさ」

 よく見ると、遠くに多くの魔獣の姿が見えた。

「ピィー! みんな集合!」

 いつからいたのか、サクラが魔獣達を口笛で呼び寄せて一列に並べていた。

 少女は地面に輪を描きはじめた。

「サクラちゃんは何をするのですか?」

「まあ、見てみな」

「ええええ!」

 ビスカはその光景に声を上げたが、その後は見入っていた。

 サクラは一列に並んでいた魔獣達を次々と輪の中に誘い、次々と投げ倒した。

「これはどういう事なのですか?」

「虐待じゃないぞ。魔獣との体をつかったレクリエーションさ。あれは【スモー】っていって、相手を輪の中から外へだすか倒せば勝ちって競技」

「はじめて聞きました。そんな競技。でもサクラちゃん強すぎじゃないですか?」 

「ははは、あれでも手をぬいているんだ。あいつが本当の力を解放すれば、この世界が終わっちまう……うわっ」

 説明するレットに向かって投げ飛ばされた魔獣を寸での所でよけた。

「あぶね〜。おい、ビスカに当たったらどうする」

「私がそんなミスするわけないじゃん。で誰がこの世界を終わらせるって?」

 魔獣を相手しながらも、レットの悪口には敏感なサクラであった。飛ばされた魔獣はいい迷惑だった。

 数分、スモーに興奮気味に見入っていたビスカだったが、ふとある疑問がわいた。

「ところでこんな広い草原で、逃げないんですか?」

「ああ、ここは広いけれど限られた空間なんだ。自然の一画じゃなく、あくまで自然と同じように作られた場所さ。箱の中にいるような物で逃げる事はできないんだ。ま、そもそも逃げたいと思わない位、快適だろうけど。それでも自然に戻りたくなった奴は返すし、狂暴化した奴、共生できない奴は別に対処しざるをえない場合だってある」

 自然と同じように作られた空間? 箱の中にいるような物? ビスカはまるで理解できなかったが、初めて触れる世界に気持ちは高揚していた。

「まあ、今までの常識とは違う物を見せられて、いきなり全てを理解するのは難しいものさ。徐々に教えていくよ」

「はい、ありがとうございます。今はまるでわかりませんが、すごい事をしていらっしゃるのはわかります。ただただ圧倒されています」

「そのリアクションが欲しくて見せたんだ。ひょっとしたら、ここも君が女王になった時に役だつ時がくるかもしれないな。さ、次行こうか」 

 扉をくぐり再び小動物の飼育場へ戻り、そこから元の森へ戻った。

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