第九楽章 がんばりすぎずにがんばろう
「話しは戻るけれど……」
一呼吸おいて、気を取り直して真剣な面持ちで話しはじめた。
やっぱりこの人の人柄が掴めない。……ビスカはそう思いながら耳をかたむけた。
「この装置を利用して何をするかを君に知らせるために見せたんだ。
やることは大まかに三つある。
ひとつは、宰相ヴァフォーケンの動向を探って、逆襲の作戦を練ること。
復讐は別にしても悪い子にはお仕置きは必要だからね」
「悪い子にお仕置きって。ふふふっ」
ビスカは、レットの独特の言い回しが新鮮で思わず突っ込んだ。
「今の所、まだ王と王妃の死と、君が行方不明と言う事は公表されていない。
まだなにもかも足りないから情報を集めつつ今は相手の出方をみるしかないね。
二つめは仲間を集め戦力アップだ。王国の戦力全部が相手だとさすがに分が悪いからね」
「レットさんにはお仲間はいないのでしょうか?」
「修業時代とか師匠のツテとかいない事はないし、むしろクソ強い人もいるけれど事が事だけにあまりアテにはしたくない。お願いするにしても最後の最後だ」
「そうですよね。レットさん達ですら巻き込んでしまって……」
「はい、ストップ。俺らはもう好きで巻き込まれているんだから気にするな。
それでだ。最後の三つめは、誰よりも先に、魔王を見つけること」
「魔王を見つけるですって!?」
この人の口からは私の想像も付かない事が次々と発せられる。思考なんてとっくにおいていかれている。言いたい事は山ほどあるはずなのにそれ以上の言葉は出ない。
昨日から驚きっぱなしだった。この二日で何年分もの経験をしているようだった。
「ああ、誰よりも早くだ。全ての事象が【魔王転生】に集約されている。だから魔王を見つける事で何かわかる気がするんだ。この世の理のなにかとか伝承の真実とかね。
現に今、この国は見た目は平穏だけれどなにか暗い影を落としている。魔獣の活性化や街中で魔物が出没する事件も多くなっている。危険薬物の不法売買や人身売買の噂も後をたたない。実際クーデターも起こった。
魔王を見つける事で全てが繋がり全てが解決する可能性もあると思っている。
ひょっとしたら魔王が仲間になってくれるかもしれないしね。
魔王転生話自体がウソならそれはそれで、なぜウソの伝承があるのか知りたいんだ。
実は君が来るずっと前から魔王探しはしている。今の所、全てハズしているけどね」
(この人は魔王すら味方にしようとしているの?……)
ビスカはその話しに興味津々だったが、今はそれ以上聞けず、うなずいただけだった。
「あとこれだけはわかって欲しい。
俺達は行動の中で人間をできる限り殺さない。でもできる限りだ。それでも不可抗力で致し方ない場合だってある。それは許してほしい。殺そうと向かってくる相手にこちらだけ殺さない様に……なんて余裕をかましていたら、あっという間に死んでしまう。
それは極悪人だけじゃない。凶暴な魔獣や動物とかもそう。
妹達と……キ、キ、キミに害をもたらすものは容赦しない」
恥ずかしさでせっかくのフレーズをかんで台無しにした男に、ビスカはまじめに答える。
「もちろんです。キレイな手のまま理想論だけでは大義は果たせないという事もわかっているつもりです。承知しました」
(この姫様、説得する手間が省けて楽だな。ここまでわかっているのか。あのじじぃ(師匠)の教育の賜? それともこれも生まれ持った資質か?)
「わかってもらえてありがたい。……あ、もうひとつ忘れていた」
レットはわざとらしく左平手の上に右こぶしで叩く仕草をした。
「四つめは二人の姫様、ビスカのお姉さん二人を見つけ保護する事。
お姉さんはまだ殺されていない。生きているよ」
それを聞いた瞬間ビスカは涙を浮かべた。姉達はもう生きていないだろうと諦めていた。
「本当ですか。本当なのですか……」
「あぁ間違いない。少し時間はかかったけれど間違いない。生きているよ。ハッキリした居場所までは今はわからないけれど、この国のどこかにいるのは確かだ。」
「それでも、生きているのなら……」
ビスカは言葉に詰まった。
「ホントによかったね。お姉ちゃん」
後ろにいたユカリももらい泣きをした。もうユカリもホントの姉妹のようにお姉ちゃん連呼している。まだ出会ってから二日しかたってないのだが。
「アニキ、たまにはグッジョブじゃんか。早く助けてあげなくちゃ」
親指をたててサクラが褒めた。ま、「たまには」は余計だけど、どうしてもテレ隠して一言多くいってしまうんだよな。カワイイ奴め、サクラ! とレットは内心微笑んだ
「わたしたち、六人姉妹になるの~? もっと楽しくなるね!」
うれしそうにヒマワリが答える。いつも論点がズレているが、だからカワイイのだ。
「さあ魔王探しと、ビスカのお姉さん探しと、ついでにヴァフォーケンの野郎を倒しにいくぜ〜!」
いきなり右の手を突きあげ、いささか優先順位が逆のようなかけ声をかけたレットに対して、四人はどうするのが正解かわからずお互いの顔を見渡した。
(あれ? おい、又、俺、滑っちゃったの? みんなノリ悪すぎじゃね?)
レットは肌寒い空気を感じた。
「お〜!」
ヒマワリだけが時間差でレットと同じように右手を突き上げ、かけ声をかけてくれた。
場の気まずさを読んでくれての行動だろうか。兄をフォローしてくれたのだろうか。
天然かもしれないが、それでも本当にいい子だ。
それにつられて、他の三人も、同じようにしどろもどろに追従した。
「オ、オォ! ……オォォォー? ……オぅ??」
「ああもう! 締まらないじゃん、アニキぃ。そもそもどうするか先に教えてヨ! それにかけ声長すぎ! タイミング悪すぎ! あほスギ! バカスギ! カッコ悪すぎ!」
容赦ないサクラの罵声が鳴り響くが、でもかけ声自体はありなんだな。
「ああ、わかったわかった。俺がかけ声かけたら右手上げてオ〜! だ。さ、いくぞ!
がんばりすぎずに〜〜がんばろう!」
「オ〜!!!!」
今度は全員の息がピッタリ合った。ヒマワリだけは両手を突き上げていた。ビスカも初めての体験に、涙をふいてニコニコして兄妹達に合わせた。
結局は一回目とは違う短めのかけ声をレットは言った。
この言葉【がんばりすぎずにがんばろう】は、この家の家訓であった。




