第08話:堀川と汚水
そうこうしてると、俺は八歳になった。
ちなみに、六歳から続いた勉強は終わりである。
「あとは実地で学ぶように」だそうだ。
今の俺の地位が、那古野城城主であることは言ったと思う。
が、しかしだ。
八歳の子供に実際の領地運営なんて任せると思うか?
現状、ほとんどを林や平手たち爺さんが文官たちを指揮してやっている状態である。
「だが、その前に領内の現状を見てくるように」
というのが、爺さん連中の最後の指導らしい。
とは言っても、初陣もまだだし、教えてもらいたいことは山ほどあるんだけどな
それはさておき。
久しぶりの外出だ。
ガキが外に出て遊ぶなんて、この時代じゃ到底できないからな。
いや、農民なんかの子供はやってる。
でも、俺みたいな立場の人間にはできないのよなー
別にやりたいとも思わんけど。
外には出たいけど、同じ年代のガキと一緒に遊ぶなんて無理だわ。
勝三郎には悪いんだけどなー・・・
まぁ、あいつとは色々一緒に遊んでるからまだマシか。。
というわけで、俺は城下町、じゃない、城付きの集落や町を見て回っている。
ーーーガヤガヤ
「結構に賑わってるなぁ」
「吉法師様、危ないので前には出ませぬよう」
「あぁ、わかってるわかってる。
あ、そうそう、今日はいくつかの商家に行きたいのと、あとは水場が見たいんだ。」
「商家はわかりますが、水場、ですか・・・・?」
「うむ。水場だ。病の原因とするものの一つに水があるそうだ。
なので、一応、見ておきたいと思ったんだよ」
「なるほど・・。でしたら、どちらを先になさいますか?」
「ん?そうだな・・。水場を先にするか。
多少暗くとも商家では問題ないだろうが水の様子は明るい方が良いしな。」
てなわけで、近くの川から順に見ていくことにする。
「近くの水場だったら、堀川がありますよね!」
「あぁ、あるな。では、勝三郎。他にはどんな水場が思いつく?」
「え、と・・井戸があります!あと堀!」
「だな。それと忘れてはいかんのが二つある。」
「え・・・と・・。わからないです・・。」
「いや、いいいい構わんさ。答えはな、庄内川と下水。下の水だ。」
「吉法師様、庄内川はわかりますが・・、下の水ですか・・・?」
「うむ。そうじゃ、案外見過ごされておるのだがな。
例えば、病にかかったものがおるとしよう。
当然、そやつらも出すものは出すわけだ」
「はい、そりゃまぁ・・・」
「その出したものの中にはな、瘴気が混じっとることがままあるらしい。
そして、大概の場合、出したもんは川に流すわけだから・・・」
「そんな川の水飲んだら、病になっちゃいます!」
「そうだな。その通りだ勝。
だからの、今はまだ無理だが、そうして混ざることを防ぐようにせねばならん。」
「あぁ、そういうわけですか。でしたら、この水堀などはよろしくありませんね。
ここなどは、城内の水のほとんどが流れてきておりますから・・・。」
「だな、近くまで来ると本当によくわかるわ・・・。すごい臭いだの・・」
那古野城には堀川から続く水堀がある。
今、私たち一行はその水堀をそばで眺めているわけだ。
「おい、桶と手拭いはあるか?」
見せるつもりはなかったが。まぁいいか。
「え?あ、いえ、ここにはありませんが、城内はすぐそこですし取って来させますよ。」
「うむ、頼む。あと、紐も頼む。ここの水を引き上げてみたい」
「・・・この水をですか・・。まぁそれくらいなら・・・。」
かなり嫌そうな顔をされたが、気持ちはわかる。
俺だって、理由がなけりゃこんなことはせん。
そうこう話しているうちに
護衛の1人が走って、城内から桶と紐を持って来た
紐を繋いで桶で堀の水を汲む。
水の色を見るが、かなりひどい。
外から堀を見ていてもそれなりの色と臭いだが
こうして桶で汲み上げてみると、本当にひどいのがわかる。
「ぐ・・、なかなかの臭いですね・・。」
「であろうな・・・。ここには、諸人や馬の糞尿が多く含まれとるのだ。
そして、この臭いというものには瘴気を含むとされる。
だが、これだけの広さの掘に蓋をするというわけにもいくまい。
これを綺麗にするなり、何か方法を考えんといかんわけだ。」
「なるほど・・。しかし、確かにこれだけの臭いですし、病の元となるというのはわかる気がしますな。
私も今にも病に罹りそうですから・・・。」
「かはははは。まぁ、そんなにもすぐに病になるということはあるまいよ。
だが、それよりも、今回はこれを試してみなければな・・。」
そういうと、俺は懐から、包み紙に入れた白い粉末取り出す。
「これはあまり数がないのでな・・。もう少し増やせるアテが出来次第、林らにも言うのでな。
今は黙っておいてくれないか?」
「?えぇ、まぁそういうことでしたら構いませんよ。林さま方への報告はお任せいたします。」
「よし。では試すぞ?」
そう言って、俺は桶の中の水に粉を入れ、そこへ手を突っ込んで混ぜていく
「ちょ、吉法師様。汚いですよ!」
「よい。わかっておる。しかし、これはこうせねばならんのだ。
・・・・ほれ見てみろ」
そういうと、桶の中を従者たちに見せて回る。
そこには、そこに溜まった汚物のようなものの塊と白い粉。
そして、綺麗になった水があった。
「お・・・!こ、これはどう言ったことです?!水が!」
「落ち着け、三左衛門。先ほども言ったが、さっきの粉だ。」
「・・・はあ、なるほど。これだけの効果があれば確かですな・・。
あ、そういえば希少なものなのでしたか。」
「うむ・・・。量産の当てもない。
だからの皆もこのことは、今はまだ、黙っとってくれ。
騒ぎになれば、誰ぞかを処断せねばならん。」
「・・・ですな。おい、全員黙っとれよ。
お主らどころか、わしの所の年貢を足しても足りんことになるかもしれんのだ。
それならば、誰にも知られん方がいい。」
三左衛門がそういうと、護衛のものたちも納得したのか全員がうなづいた。
(まぁ話が本当なら、給金がいくらあっても足りんだろうしな。そう、本当ならな)
そう、あれは水を綺麗にする秘密の粉などではない。
ただの塩だ。
俺がやったのは、ただの塩を汚水に入れて素手でかき混ぜただけである。
(しかし、効果があって良かったよ・・・。こんな汚い水の臭いなんて最悪だしなぁ・・。
だが、おおよその時間も分かった。数えるまでもない。反応するまではほぼ一瞬だな…)
そうだ。
俺がこのことで本当にやりたかったのは能力の検証である。
どんな水でも同じ結果が出るのか?
また、結果が出るまでにどれだけの時間がかかるのか?
そう言ったことが知りたかったのだ。
本当は、水の成分なども調べてはみたいが・・・
そんな設備も器材もない。
飲んで確かめる、なんてのも嫌だ。
こんな汚水だったもの飲みたくないしな。
とりあえず、桶の水は適当な草にでもかけておくように伝えた。
すると、桶を持って堀の際に生えているヨモギに水をかけて中身も掘に捨てていた。




