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聖人:織田信長録  作者: 斎藤 恋
元服前:吉法師

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第04話:気づき

さらに、年が過ぎた。




言葉が、少しずつ滑らかになり、家族や家の者と話すことも多くなった。




「父上、これは何ですか?」



信秀が持ってきた刀を指差して、俺は尋ねた。



「おお、興味があるか」


信秀は嬉しそうに笑う。


「これは太刀だ。武士の魂よ」




「……たち?」


俺は、その言葉を繰り返す。

刀剣は嫌いじゃない。


むしろ好きだ。

男の子だしな。


しかし、正直、その種類なんかについてはさっぱりわからん。



戦国時代の武器ってのは実用性に優れていて、

他の時代のものよりも強力だっていう話は聞いたことがある。


他にも、同田貫?という刀が1番良かった、みたいな話もだ。



えーと、確か、刀の腹の部分が分厚くできてるんだっけ…?



その程度である。


太刀、小太刀、後は、斬馬刀くらいしか知らん。

あれだ、某剣豪の話で出てきた、さ◯らさんの武器である。




前世では、アニメや漫画で見るだけだったものが、今は目の前にある。



「大きくなったら、お前にも持たせてやる」


「はい」


(……戦、か)


いずれ、この刀を持って、戦場に立つことになるのだろう。




人を斬り人に斬られ




それが、戦国武将の運命。


(しかし、それ以前の問題なんだよなぁ…。)


そう、武将としてのキツさは斬り合いじゃない。

甲冑というクソ重たい金属塊を身に纏い、何百kmもの距離を行軍するのだ。



馬に乗ってるから大丈夫?

笑わせんな。


馬に乗るのってキツイんだぞ?!……たぶん



まだ、乗ったことがないから知らん。




「吉法師は、賢い子だな」



信秀は、俺の頭を撫でる。



「きっと、立派な武将になるだろう」



「……はい」



返事をしながら俺はその運動漬けの未来を嘆いた。




小さな、子供の手。

だが、この手でいずれ多くのものを掴むことになる。



権力

領土


そして——


(天下ねぇ……)




織田信長の人生を


俺は、どこまで辿れるのだろう?

上回ることはできるだろうか?




寒かった。

この年、俺が城主となったこの那古野城にも、雪が降った。




前世の、北海道の雪に比べれば大したことはない。



だが、この幼い身体にはそれでも寒さは堪えた。



「吉法師様、掘り炬燵でお暖まりください」


「うん」


俺は、炬燵に潜り込んだ。


(あったけー……)

(この時代にも、あったんだなぁ…)




正直、この時代の暖房器具なんて、火鉢くらいだと思ってた。

しかし、どうやら掘り炬燵はあるらしい。



まぁしかし、前世でよく入っていた炬燵と違い、布団が薄い布切れでしかないから、まだ寒い。




あの、北海道の家で。


雪に埋もれた、あの家で。




(はぁー、あの後どうなったんだろ。救助は来たのかねぇ…。

あの化け物も、殺したとは思うけど…あれだけで死ぬのかな…?


というか、俺の身体どうなったんだ…?もしかして、今のこれは俺が化け物の中で見ている夢なんだろうか…?)




ふと、そんなことを思った。




前世のあの体には程遠いこの小さな肉体。


しかし、あの時の感触は、今もこの手に残っていた。




・・・・・・・



五歳になった。


身体もやっとしっかりしてきた。



走るのも飛び回るのも以前よりは楽になってきた。



「吉法師様、庭でお遊びですか」


「うん」



俺は、頷く。


もう、言葉も大人と同じようにしている。


前世の記憶だが、五歳というのは論理的な思考ができるようになるなる歳出そうだ。


つまり、どんなに賢い子供でも、計画的な行動をするような2歳児3歳児はいないわけだ。


(はー、やっとだよ。まったく…)



しかし、前世の記憶がある分、時折、この時代にはない言葉が出そうになって慌てて飲み込むこともあった。




「では、お気をつけて」


乳母に見送られて、俺は庭に出た。




春の陽気。


暖かな日差し。


梅雨には、まだ少し早いその日。



遊びと称して、腕立て伏せ、腹筋、ももあげ、踵上げ、記憶にあるさまざまな筋トレを行なっている。



正直に言おう。

こんな子ども嫌だ。


俺なら見捨てるかもしれん。


だって、怖すぎるだろ?

黙々と筋トレを続ける幼児なんてさ。


ホラー映画の方がまだ現実味がでかもしれない。



最後はランニングである。

とは言っても、この離れの周りを何周かするだけだが。


塀の中だけだし、人もそれなりにいる。

だからこそ、世話役の人も中から見ているだけだ。



まぁ、俺が今までに培った信用もある。



「吉法師様、あまり走り回ると危ないですよ」


「大丈夫〜」



俺は、世話役の制止を振り切って、庭を駆け回った。




那古野城近くのこの家はそこまで大きくない。

いや、前世の家と比べれば大きい。



しかし、城主としてはどうなんだろう?

もっと大きい家に住んでいるのだと思ってた。



こうして走ったり筋トレしたりの習慣はなかなかに続いている。



そもそも、この時代には俺がしたいような娯楽がない。

ゲームも歴史考察も、ネットサーフィンやYo◯tubeさえないんだ。



マジでどうやって時間を潰せばいいのかわからん。


一刻ほど走った後、家の中に入って休む。



「吉法師様、お水をどうぞ」


世話役が、水を差し出す。


「ん、ありがとう」


俺は、それを受け取って、一気に飲み干した。


冷たい水が、喉を潤す。


(冷てー…水うめー…)


こんな冷たい水を飲めるのは井戸が近くにあるおかげだ。

普通の農家だと、ぬるい水しかないだろう。




そして、

(井戸の水は、まだマシな方だろうな。川なんかは汚っないんだろうなぁ…)




川の水は汚れている。



この時代の川っていうのは、あらゆるものが垂れ流しである。

要はガン◯ス川だ。


これは、侮蔑しているわけじゃない。

あそこには、宗教的な意味が合う場所だからな。



しかし、ここは違う。

この時代の河川は、単にきれいにしなければならないっていう考え方そのものが無いんだ。



だからこそ、水は病気の原因にもなる。


(水、ねぇ…。どうにもならんな。)


手元の水を綺麗にするだけなら、その方法はわかる。

しかし、領内の者たち全てが、毎日のように綺麗な水を使う方法など、見当もつかなかった。




ちなみに、上水道設備が街に引かれたのが、関東大震災の後だ。

復興名目でかなりの整備ができた。


水に塩素を入れ、綺麗にしたものを各家庭に流す。


言葉にすればこれだけだが、それがどんなに困難なことか。



(本当にどうにもならんな、これは。)


残った水を飲みきり、俺はこのことを考えるのをやめた




・・・・・・・




五月も終わりに近づくと、雨が多くなってきた。




梅雨




「吉法師様、今日は雨で庭がぬかるんでございますよ」


「でも、走りたい」


俺は、乳母に訴えた。


「濡れれば、お風邪を召されます」


「大丈夫。少しだけ」



結局、俺の我儘が通って庭に出ることが許された。



(ぅゎぁ、マジに泥濘んでんなー。

しかし、整備されてない場所なんてこんなもんなのか。今まではほとんど外に出してもらえなかったしなー)




(ほっ、ほっ、ほっ、ほっ、ほっ)


小さい手足を使い、俺は短い距離を走り続ける。



走って、


走って、


走って、




そして、水たまりに顔から突っ込んだ。



「っ!」



バシャっ、という音とともに水たまりから顔を上げた。



「ゴホッ、ゴホッ、うげぇ〜、ペッ。鼻にも口にも入ったし…」



泥水が鼻や口に入り込み酷いことになった。


「吉法師様?大丈夫ですか?」


後ろからゆっくり追いついてきた世話役が、声を掛けてくる。


「あぁ、大丈夫。」


「あら、汗がすごいですよ?」


「?」



おかしい。

そう、おかしかった。


この世話役は今言った。




汗がすごい、と。




しかし、今の俺の顔を見れば、泥水まみれで汚れているはずだ。

袖にも服にも泥がついているし。



しかし、汗と言ったのだこいつは。



(なんだ?本当に何言ってるんだ、こいつ?)



まぁ、別にいいか、と流すことに決めた。

布を受け取り、顔を拭く。



「あらあら、泥だらけですね。」


顔を拭いた布には、泥はついていなかった。

彼女は恐らく、服を指していったのだろう。



しかし、俺は、俺の頭はそれどころではなかった。



そう、顔を拭いた布に泥水がついていなかったのだ。

顔が泥水に浸かったはずなのに。



俺は、ふと、目の前の泥水を手で掬ってみた。

世話役の女に気づかれないように、だ。



すると、手の下から泥が落ちていく。

そして、手の中にあった泥水が透明で綺麗な水へと変わっていた。


(……マジか…おい、マジかよ)



どうやら、転生五年目にして俺はチート能力を手に入れたらしい。




無味無臭。


何の汚れもない、透明な水だ。



泥が手の下から落ちていったのも、何かの能力的なものなんだろうか?

調べてみる必要がある。



しかし……


(すぐには無理だよなぁ…。このアネさんもいるし…)




この日はこの後、訓練も切り上げ、体を拭いて休んだ。


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