第42話:当主就任
永禄14年(1571年)3月1日
この日、織田信長は、織田家当主を正式に継ぐこととなった。
理由は、織田信秀の意思である。
既に信秀も、この年62歳となり、肉体が衰えてきているのは隠せなくなっていた。
信長の"聖水"によって、心身は健康であるとしても、余りにも遅い継承であると信長の権威が衰えてしまうと言うことも理由の一つであった。
だが、既に何年も前から実質的には信長が当主としての実務はこなしていたこともあり、家臣一同は、信長の継承に反対することはなかったのだ。
本当のところは、織田の一族の反対があったために、継承が遅れたというのが、真実だった。
「信長・・・いや、吉。俺は隠居するから、あとは頼んだぞ」
「わかっておるのじゃ。死ぬまでに支那や呂宋まで見せてやるから、すぐには死ぬなよ、親父殿?」
「ふん、いいおるわ」
そうして、継承のための儀式もさっさと済ませ、朝廷にも、信秀の隠居と信長の当主就任を告げる。
織田尾張守信長の誕生である。
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美濃の略奪も済み、接収した美濃領の武田への引き渡しが始まった頃、浅井の関ヶ原侵攻が始まった。
とはいえ、関ヶ原はこの頃には要塞化が進んでおり、今須城・玉城・藤川城・松尾山城などは解体され、関ヶ原の中心に建てられた関ヶ原城に統合されていた。そのため、浅井の侵攻による被害は薄く、一度の襲撃で浅井家は撤退することとなる。
この襲撃により、浅井領へと向かう商人が激減したため、襲撃による被害はむしろ浅井の方が大きくなった。
織田家から武田家へと引き渡される美濃の地域は、美濃の中部と北部である。
現在の織田家では、那古野から清洲、養老町にある大墳城を抜け、上石津方面を通って関ヶ原にいくルートが整備されている。
中山道のルートも使われていたのだが、武田家との兼ね合いもあり、関ヶ原は織田家のものとしたまま、中山道の一部や、稲葉山城のあった金華山の北側は武田へと譲られることとなった。
細かい部分を言うのなら関ヶ原と大宮大社の南側を除いた、不破郡は武田家へと譲られることとなっている。
織田家では、武田家との国境にはベルリンの壁のような長大な壁を作り、要所要所に門と関所を設けることで流通管理を画策しているところだ。
そして、それと同時に、紀伊大島や串本の辺りと、紀伊国三尾の領有を狙っている。
とはいえ、あの周辺地域は、既に海賊衆による定期的襲撃を行っているために、今では無人地域になり果てている。
が、今後は、四国遠征を行う予定ができたので、紀伊國の牟呂郡串本浦の辺りと三尾の水軍拠点の設営と整備はどんどん行っていきたい。
その二つの拠点が、四国を攻める際の集結地点となるのだ。
それら以外にも、織田の進出は着実に進んでいる。
釜石の採掘は始まっているし、伊勢も、鳥羽や志摩の拠点化が進んでいる。
元々ここにいた海賊衆は殺されるか追放されてしまい、ほとんど残っていない。
生き残りもわずかな人数が、山中に集落を築くのみである。
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───織田領内side
織田家領内では数々の政策が進んでいる。
交易路の整備もそうであるし、上下水道の完備も一部地域では行われている。
日々変わってく街や村に、抵抗感のあるものも多いが、それ以上に整備されたとのメリットもまた知らされているために、その改革を歓迎している者は半数を超えているのだ。
そして、織田家に、というより織田信長に対しては、彼がもたらした"聖水"と彼が千秋家の娘と婚姻していることで、織田信長を"聖人"や"神"として扱う者もどんどん増えてきている。
「おう、これか風呂いかねぇか?」
工場で働く労働者と見られる男が同僚に向かって聞く
「あぁいいな。今日も行くか。」
「今日は何時ごろ終わるんだ?」
「んー、あと半刻ほどだな」
「よし、んじゃ待ってるわー」
・・・・・
「ふぅ・・・今日もいい湯だった・・。癒されるぜ・・・」
「だな・・・。流石は織田大明神様だ・・」
「いや、聖水ってのを生み出してくれるんだから、聖人様じゃねぇか・・?」
「かもなぁ・・・」
男たちは、湯に浸かりつつ体を癒していく。
これらの風呂は、電気熱によって温められた"聖水"が使用されている。
こういった庶民で使われる"聖水"は希釈されたもので、本来の効能からすると1/10にも満たない。
しかし、それでも、普通の湯に浸かるよりはるかに効能があり、風呂に入る労働者の生産性は格段に上昇しているのだった。
「しかし、湯に浸かるだけで疲れも病も、怪我でさえ癒えちまうんだかなぁ・・。それも一回10文。以前までの生活には戻れねぇな」
「当たり前だ。織田様が逝かれたら、俺たちはどうすればいいんだ・・・?そうなった時のことを考えるだけで恐ろしいよ・・・。」
「だな・・。ウチんとこのガキも、この風呂で助かったし、爺様の知り合いにゃ、無くなった腕が生えた、なんて話も聞いたぜ?」
「ホントかよ・・?・・・いや、しかし、この聖水を体験しちまったからな・・・、嘘とも癒えねぇなぁ・・・」
"聖水"は、信長が毎日60000L、70万石ほどは生産されている。
それらは、織田家領内へと運ばれ、地位の高い家臣たちから順に提供される。
余った分は希釈され、こうして風呂に使われたり、農作物の生育のための肥料として扱われるなど、多くのことに利用されているのだ。
それ以外にも、織田家の蔵や水軍衆の蔵や船内には、常時配備され、戦さ場にも戦時物資として運ばれ利用されている。
「そういや、聞いたか?」
「ん?何をだ?」
「織田の殿様が遠方で働く奴を探しているらしいぜ?来年か再来年辺りだそうだがな」
「陸奥方の話か?それなら聞いたぞ?」
「違うんだなー、これが。・・・・どうにも四国の方らしい。近々、攻めるんだとよ」
四国攻めの話は、尾張領内に静かに広がっていく。
しかし、そのことを、四国の者たちが知るのは、織田家の侵攻後のことだった。
駄文ですが、Kindleで作品ひとつ出しました。
同じく歴史物ですが、こちらは転移者ですね。
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ただ、初のKindle作品ですので問題も多いかと思います。
その点は次回作にも生かしていこうと考えておりますので、どうか応援のほどよろしくお願いいたします。




