表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖人:織田信長録  作者: 斎藤 恋
元服前:吉法師

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/45

第03話:四歳児の日常

記憶が戻ってからの日々は、奇妙なものだった。




四歳児の肉体


中身は五十のおっさん




このギャップは、想像以上にきつかった。





「吉法師様、お遊びになりますか?」


乳母が、笑顔で聞いてくる。



「……うん!」


子供らしく元気な返事を返して、庭に出る。





勝幡城の庭は広かった。




だが、この幼い身体では、その広さを十分に感じることすらできない。




(とりあえず、鍛錬はしとかないと……)


そう、この歳から身体を鍛えておかないといけない。



勝つにしても負けるにしても、武将というのは身体が資本だ。

例えば、徳川家康の「伊賀越え」本能寺の変の後の逃避行だが



この時、家康は、133.4kmを3日で踏破し切ったらしい。

時間は72〜75時間ほどだそうだ。


これは、再現経路が出ているから、真実である。


つまり、時速に直して約1.85km/時間だ。

1日単位だと、44.5km。




ちなみに、フルマラソンは42.195km

完走する時間は、5時間半ほどだそうだ。



これだけ聞けば、「いけんじゃね?」とか思う奴はいるよな?

それに対してはこう言ってやろう。



「は?ふざけんなし」



徳川家康とその一行が通ったのは、伊賀である。

当時、伊賀は山の中にあった。


そして、当時の道なんていうのは未舗装路である。




わかるね?

整備された道を走ってんじゃねぇんだよ。


しかも、いつ落武者狩りや明智勢に襲われるのかもわからないから、必死に偽装や隠れ進みながら、だ。


というか、山越えなんだよ。

途中、山道を越えて進んで、これなんだ。


明かりがあるわけでもない道を必死に進まなきゃならない130kmも。



キツイわー



それ以前に、戦がキツイ。



殺し殺されが、精神的にしんどい?



いや違う。



40kgもある鎧や具足を着て、日中、何kmも歩かなきゃならないんだわ。



正直、伊賀越のほうがマシかもしれん。

精神的な負担を除けば。



例えば、武田領に攻め込むとしよう。

岐阜城から高遠城までで考えてみよう。



ここの歩行距離わかるか?

大体、200〜220kmらしい。



・・・・・・・。



わかるだろう?

武士っていうのは、下手なアスリートよりキツイ職業なんだって。


しかも、ここから命懸けの戦闘があるんだぞ?



勝っても負けても、キツすぎるだろ。


前世じゃ、武将になって天下統一して内政チートで無双、ヒャッハー

とか考えてるやつもいたし、そういう時期がおっさんにもなかったとは言わん。



でもさ、考え直せ!

現代人ってのは恵まれてるんだ!


こんなにも運動しなくても生きていけるんだよ!



だから俺は、こんな歳から身体を鍛えなきゃならんのだ。




しかし、前世の記憶がある分、効率よくできることもあるが、制限も多い。




転びそうになる足。

すぐに疲れる身体。



そして、


「吉法師様、危のうございます!」

乳母が慌てて駆け寄ってくる。



すぐに止めにくる目付役である。




その時、俺は小さな石につまずいて転びかけていた。




(あーくそ。この体も思い通りに動かんし、誰かが必ずそばにいるからやりたいこともできないし……)



情けなさに、歯を食いしばる。

だが、我慢するしかなかった。



この身体でこの時代で、生きていくにはこれしかないのだから。





日々は、ゆっくりと過ぎていく。



朝起きて、

食事をして、

庭で遊んで、


また食事をして眠る。




単調な、幼児の生活。

体は必死に鍛えているつもりだったが、食べている物にタンパク質が少なすぎて、身についた筋肉は本当に僅かだった。



だがその中で俺は、

この身体に慣れていった。




言葉も動きも、以前よりはスムーズになった。


(早く、1人でなんでもできる立場になりたい…)



しかし、焦ったところで幼児は幼児のままだ。



(……待つしかない、か)




・・・・・・




「よしっ、吉法師。今日から、

お前がこの城の城主だぞ!」



ある日、俺は親父に那古野城とやらに連れてこられた。



「じょうしゅ……???」



(あ〜、そういや、幼少期に城主になってんだっけ……?)


俺は記憶を思い返し、

その流れで、どうやってこの城を親父が奪い取ったのかも思い出した。




(確か、友人だった今川の人間の城だったんだよな…?仮病を装って兵を入れたんだったか)



そう。ここは今川の城。

現、俺の城である。



「今日から、お前の家はここだからな」



「・・・・はい」



マジかよ、別にいいけど


などと、内心で思いつつ。



その日俺は、那古野城の城主となった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ