第36話:織武同盟
第36話:織武同盟
1560年5月
武田家と織田家との間に婚姻同盟が結ばれた。
夫側は織田吉法師9歳(未元服)
妻側は菊姫3歳
この同盟は、長期にわたり続くことになる。
※ちなみにこの世界では徳川家康となるはずだった子供は、今川に評価されることもなく今川領を出奔している。
「なんとか同盟は成ったか・・・」
俺は、那古野城の一室で一安堵する
「ですな・・。しかし、もっとごねられるかと思いましたが、そうでもありませんでしたな。」
「それは仕方なかろう。わしらが送った米の量を考えい」
「それはそうでしょうが・・。しかし、相手は武田ですからな。それに結局は我らが奪ったことには違いませんでしょう?」
「それはそうだ。しかしな、あの件で南信濃が揺れておったとなれば話は変わってこよう」
物資放出の際には、南信濃でも多少の混乱が見られれた。
他の領地の如く、大きく揺れるということはなかったが、それでも、秋山が留守がちであったのを加味しても、領民に不満が出ていたのは確かだったのだ。
「あの時、武田が本気を出せば、確かに取り戻せたかもしれん。しかし、そうなればこちらも本気にならざるをえんわけだ。そして、武田にはワシらの本気というやつが全くわからん。それが懸念だったのだろうよ。あの物資支援はそういった効果も生み出しておったわけだの」
武田から見た織田家というのは、あの時点で最大の脅威と写っていただろう。
100万石の食料をぽんっとだし、200万貫の塩を支援と称してタダで譲る。
こんなことができる大名家が他にどこにあろうか?
織田家領内の様子が年々武田家には伝わりづらくなっていることもあり、武田家からみた織田の巨像がどんどんと膨らんでいったろうことは想像に難くない、というわけだ。
「ふ・・、しかし、これで織田の布陣も完成したの。もうあとは無理に広げる必要もあるまい。」
織田家にとって必要なものは全て領内から得られるように成った。
少なくとも日本国内の、いや、近隣にある資源は。
まぁ、鉄量だけは不満なので将来、釜石あたりでも取りにいくつもりではあるが。
「そうなのですか?近江や京は目指しませんので?それと、伊勢は・・・?」
「伊勢はとった方が良いかもな?だが、京も近江もいらんわ。あのようなところいくら取っても何の利にもならん」
当時の京は過去の江戸のような巨大消費地であった。
人口も多かったようで、京方面の道には幾百もの関所が建てられたほどである。
近江から京に入るまでに、100を超える関所があったと言われるほどであるからその数は酷い。
他の経路にこれだけの関所があったなら、その道は誰にも使われないようになるだろうし、使われたとしてもその先の街で、商品は買われないだろう。
1つの関所につき1文であったとしても、到着する頃には100文だ。
1円の商品が100円。100円の商品が200円になるような暴利である。
しかも、その関所を領有しているのは将軍でも大名でもなく民間人だというからなお酷い。
要は金額すら決まっていないからだ。
おおよその基準はあるようだが、それもその時その時の主観によって変更が可能というような悪魔の基準である。
こんな地域誰が荷を持ち込みたいというのか?
余程の売れる当てでもなければそんなこと誰もしたくはあるまい。
それに、京を手に入れる利益というのは思いの外少ない。
そりゃ、大きな領土を得て、そこの統治に安定性を欠いているとなれば、必要かもしれない。
だが、翻ってみ俺たちはどうだろうか?
統治?那古野で教育された者が、領地の各所へと派遣されて文官武官ともに問題ないです。
問題を起こしそうな国人衆はほぼ全て排除されているか、織田家からの借金漬けで反抗すらできないように成ってます。
今の織田家の統治に、織田家以外の権威は必要なくなってしまっているのだ。
一応、未だに斯波家が織田の上には立っているのだが、若い世代を中心にそのことは忘れられかけている。
史実では大規模な反乱を起こした長島も、織田家の統治から外れては経済的に孤立してしまうだろう。
それに、織田家によって富貴になった、"織田成金""木綿成金"といったものが今の長島では幅を利かせているのだ。
彼らは既に長島の方針を左右する存在になっており、本拠の石山でも問題視はされているが、織田家に対する否定的意見は少ないというのが現状である。
織田の領内で長島だけ、織田の支配が及んでいない地域であるとも言えるが、それも織田家から流入する民草によって少しずつ変容している。
織田領内では、各地で学校が開かれ始めており、そこでは様々な教育が行われている。
織田家に対する敬意を持たせようとする教育もその一環であり、別次元だと洗脳教育だと非難する者も現れるかもしれない。
そして、織田領内では食料が溢れ衛生面でも進んでいるために、次々と子供が生まれている。
その結果が、織田領内のベビーブームだ。
今の時点で、尾張領内だけで70万人を超え、このままだと織田領の民が外部へとどんどん流出していくだろう。
しかし、そのために研究や開発にも莫大な投資が織田家からされているし、織田資本の商会や組合、『座』といったものも数多く作られてる。
これらはその人口爆発に備えたものでもあり、全体の何割かは織田領内に止まってはくれるだろうというふうに、織田上層部では思案されている。
だが、今1番力が注がれているものがある。
"船"だ。
・・・・・・・・・・
「で?南蛮船の進捗はどうなっておる?」
水野の領地で進められているガレオン船の建造の様子について、俺は尋ねた。
「はっ!あれから幾度か試運転も済み、半年後には1隻目の運行が始まるかと思われます」
ガレオン船建造のために、俺の知る限りの知識を船大工たちに伝えた。
ただ、船大工たちも既存の考えに縛られているものが多かったので、俺の下で教育を受けた開発者たちを数十人放り込んでいたのだった。
その結果、出来上がったのが改良型ガレオン船だ。
ガレオン船はその全長が30〜40mの船で複数の帆があることがわかりやすい特徴だろう。
しかしそこに、水密式の考えを入れ、スクリューと蒸気機関の考えをぶち込んだ、ガレオン船・・・、いや、蒸気船を作り上げていたのだった。
問題も多く、ここに来るまでに十年はかかっているが、今年、初の蒸気船が運行を始めるようだ。
「ようやっとか・・・」
「はっ・・・。しかし、あれだけの船です。川での運用はできんようですな。」
「む・・・そうか。じゃが、もうひとつあったろう・・確か船大工が最初に作った方が。」
「安宅船を改良した方ですね?確かにそちらであれば川での運用も可能でしょうな。ただ、小回りが効きにくい面は戦では不利やもしれませぬ」
作られた蒸気船は、帆の機能とスクリュー、その両方を使って動く機帆船だ。
俺自身が石炭というなくなり続ける資源を使って船の運用をするということに反対だったために、船の運行には竹炭が使われている。
あと、ちなみに・・
「今回作られた船をもとに小早も作ればよかろう。既存の小早より、倍は速度の出るものができるじゃろ」
「ではそのように」
「おう、伝えとけ」
こうして、織田家の海軍力は年々拡張を続けている。
狙いは5年後。
"釜石"だ。




