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聖人:織田信長録  作者: 斎藤 恋
元服後:織田信長

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第25話:三河一向一揆③

三河の様相は地獄の釜を開けたかのようになっている。



今川は、最初、上宮寺や本證寺までの城を攻略し、本丸を叩いてから周辺を平定しようとしていたみたいだ。

実際に、その過程にある城をいくつも攻略している。



しかし、一揆は三河全土にまで広がってしまている。

本證寺を目指して進軍した軍勢は、まともに休むこともできないほどに、日夜嫌がらせが続けられ、途中撤退する羽目になった。


食料の輸送ルートは全て抑えられ、ほとんど孤立状態になった。




「酷いな・・、完全にゲリラだろ、これ。」



そう。寝ているところに馬糞を投げつけられ、天幕を見掛ければ火矢、食料の運搬があれば即略奪。

落武者狩りが三河一国単位になったような様相である。


一揆相手だと、舐め切っていた今川軍は一度体制を立て直すようで、今は既に曳馬城にまで下がっている。




「酷い有様だな。あれでは、まともな戦さになどならんな」


とは親父殿の言である。



そんなこんなで、三河は既に松平の手も今川の手も離れ、一向一揆の地獄と化してしまっているわけだ。

そして、そのように戦乱が続いているせいか、食料事情が格段に悪化している。


尾張の食料価格も上がっていて、通常価格の2割り増しである。なかなかにまずい。


何がまずいって、今が収穫の時期であることが1番問題なのだ。

1番米の安い時期に、米価格が上がっているのだ、これから一年の相場は恐ろしいことになるかもしれない。



三河でしっかりと収穫物が残っていればいいのだが、焼きはられていれば、これから一年の食糧が消失しているわけで・・・

三河一国分の米が日本から減るということでもある。


まぁ、一揆勢が1番悪いのであいつらだけが苦労していればいいのだが、今川を攻めるのが難しいとなれば、今度はこちらにやってくるだろう。

食い物欲しさに、攻めかかってくるのは目に見えているのだ。



餓鬼の集団が襲いかかってくるような世界が三河に広がるわけである。


「今川とだけやり合っておけばいいのにな、あいつら」



「ですねぇ・・。しかし、準備はしているんでしょう?」



「あぁ、もう済んでるよ」



そう。仕込みは済んでいる。

安祥城を攻めてきた時には、地面ごと吹き飛ばすための火薬が仕込まれているし、鉄条網も少量ではあるが用意してある。


それ以外にも、西尾城を落としたので、西尾城より海側に城を建設するための兵を繰り出し、三河との国境線強化にも手を打ってある。


矢作川の西側には、既に防衛戦が張られているわけだ。



仮に今川が攻めてきても、どうせ矢作川を渡っては来られないので、こちらから散々に挑発してやるだけでいいと伝えてある。

既に、安祥城の失陥そのものの可能性が低くなっているわけだ。




西尾城と安祥城の間はそれなりに空白地帯ができてしまってはいるのだが、ここの部分は、佐治と水野両家に委任してある。

三河を落とした暁には、彼らにも幾らかの領地配分があるからと伝えてある。


佐治は自前の水軍を持っている集団でもあり、完全に織田家内に組み込んでしまいたいのだ。

水野に関しても、常滑の利権を確保したいという思惑がある。


無論、常滑ほどの利権を手放すことは難しいだろうが、正直、それを水野が認識しているのかはかなり怪しいものだと考えている。

現在の収益と同額を与えてしまえば、簡単に譲ってしまうのではないか?という思いもあるのだ。


水野当主との話をした感触では。

最近、当主交代があったばかりだから、それもまた変わっているかもしれないが。




・・・・・・・・・・



というわけで、三河の情勢はこんな感じで長引きそうである。

今川の支配が解かれて、一向宗が支配する国になったような有様だ。


ここを織田家が支配する展開を想定していたんだが・・・




「若様、これ大丈夫なのですか?」



少し心配そうな顔で恒が問いかけてくる。



「・・・。なんとも言えんな」



そう。本来であればもっと今川との間で泥沼になってもらいたかったのだが、あまりにもあっさり今川が負けて引きがったので、織田家としては介入の隙がないのだ。


いや、介入しようと思えばできてしまうが、今川の損害は思いの外小さい。

なので、三河へ介入すると、今川の軍勢も入り込んだ三つ巴になってしまう可能性が高いのだ。



はっきり言って、そうなってしまうと織田家としては大損である

わざわざ、三河で一揆を起こさせた意味が半減してしまう


そのため、介入を戸惑っている、というのが今の状況だ。




「今川め・・・。あそこまで情けない様を晒すとはどういうことだ・・・!俺の計画が台無しではないか!」



今川に対して憤りが隠せない。

これが計画的なら、敵ながらあっぱれと言ってやりたいところだが、今川自身への悪影響が大きすぎる。

どう考えても策略などではあり得ないのだ。


「このままでは、武田も介入してきそうですね・・・。四つ巴ですか・・、本当に地獄ですね。」



「くそっ!奥三河だけでも確保したいが、どうにもならんか・・・」



「えぇ。ですから、最低限の利益だけ得て、うちの分は終わらせましょう。」



「矢作川から南か。西尾のあたりを完全に固めるわけだな?」



「そうです。とりあえずはそれしかありません。あとは、今川と武田次第です」



「・・・・・・・。はぁぁぁぁ・・・仕方ない、か」



情勢が落ち着くまで手が出せない。

膠着状態が始まった。





三河の一揆勢は武器も食糧も豊富で意気軒昂の状態で三河の国人衆と争っている。

正直言って、三河の復興には相当な時間がかかるだろう。



一揆が始まった十月から、既に3ヶ月が経つが、どこかから手に入れてきた食料と武器で彼らの意気はまだ下がらないままだ。

今川も、本格介入しないまま、三河は一向宗の領土と化してしまっている。

今川からすれば踏んだり蹴ったりだろう。


今まで三河に注いできたリソースが全て無に帰したのだから。




義元がぐずっているらしい、というような噂が流れてくるほどには、行き詰まっている様子だ。

そんな今川家では、粛清の嵐が巻き起こっているという話も出ている。



実際、あれだけの敗戦をして、武士としての面目以前の戦況だったのだ。

責任者の首なしにはいられなかったのだろう。


まして、東で取り戻した領地経営に取り組んでいる最中の話だ。

太原崇孚は軍勢に入っていなかったし、三河と西遠江に者らが中心の軍だったようだ。

一向宗の恐ろしさを知らぬまま攻めかかり、一万強の軍勢は、帰ってくる頃には半数にまで減っていたというのだから、もうボロ負け。

壊滅状態になったと言っていいだろう。



当然、重臣の子といえども責任とらざるを得ないし、そうしなければ、三河の領地分の損失を埋められない。

結果、今川の再侵攻はのびのびになっていたのである。



「次は義元が出るか」



「出なくてはならないでしょうね。今川にはもう後がない。馬鹿の後始末以外の何者でもないですが、それでも、やらなければ滅びましょう」



「あーあ、かわいそうに。御愁傷様とだけ祈っといてやるか。」



「ぷっ、なんですかそれ。」



「今川義元の未来と今の苦労を労う言葉だよ。」



今川は、今度こそ、本気で三河を攻めざるを得ないのだ。

しかし、そこで待つのは準備万端の一揆勢。



俺たちは、漁夫の利をつく。

2勢力が本気で争っていた後、戦力なりが下がってから攻めとるのだ。




「時間がかかったが、後少しだな・・・。」


織田領の三河となる日も近い。

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