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聖人:織田信長録  作者: 斎藤 恋
元服後:織田信長

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第24話:三河一向一揆②:狼煙・開幕

織田家が尾張を統一し、今川が河東を得た頃。



三河の諸寺は警戒を敏にしていた。

今川方も、尾張を統一した織田家を警戒し、国境の城に置く兵数を増やし始めていた。




「頃合いじゃな」



夜闇に紛れ、馬を走らせること2刻半

俺と赤母衣衆の面々は西尾城近くへと到着していた。



「若様。これだけの数で本当に攻めるのですか?」


「おう。問題ない。だが、あれが失敗すれば方策を変えるゆえ安心せい!」


「それなら・・、よろしいのですが」



恒興の心配そうな顔をしているのだろう。

月明かりでうっすらとしか見えないが、そう言った雰囲気は感じていた。



「よし、支度せい。」



そういうと、母衣衆の面々が火矢の準備にかかる

が、今回使うのは火矢は火矢でも、射る際に火を使わない火矢だが。


「3方に散れ。城の3方から焼くのだ、良いな?」



「「「はっ!」」」



母衣衆の者たちが3方向に散らばり、徐々に西尾城へと近づいていく。

夕刻からかなりの速さできたため、未だに俺がいるいうことを掴めてはいないだろう。


だが、国境線の城である。

警戒はされているようで、篝火を焚いている箇所がある


しかし、赤母衣衆はいくらか増えたが、未だに50名ほど。それも、全員が来ている訳ではなく、ここにいるのは15名。

しかもそれが、3方向に散っているのだ。


怪しい人間を見咎めたとしても、城からわざわざ出てくるとは思えない。




「そろそろか・・・」



「始まりました!」



西尾城が燃え始める。

白燐による炎上は普通の人は違う。


水を掛ければより燃え上がるし、温度も高い。



燃え広がる勢いは通常の火矢の比ではないのだ。



「恒、全員戻ったら伝えろ」



「はっ」



しばらくして、火矢を射掛けた者たちが戻ってきた。



「全員戻りました」



「ご苦労。首尾はどうだ?」



「射掛けるのが案外難しいですね・・・。もう少し、射やすい様に何か工夫が必要かもしれません。」



射掛けられたあと、一瞬で広がった青白い炎は、城全体を埋め尽くしている。

ここからでは、敵兵の悲鳴も叫びも聞こえてはこない。



しかし、今川への牽制としては最高の一矢だったろううと思う。





───そうして、白燐の炎は西尾城を燃やし尽くした。今川方では結局何が原因なのかわからぬまま、城は破却されることとなった。その後、西尾に城は築かれていない。木灰と幾らかは混ざったとはいえ、火傷を引き起こす白い粉がそこかしこに残ったままだったからだ。



「若様、あれの使用は控えた方がいいです。今回のように燃やすだけであればよろしいのですが、城取りとなりますと、厄介に過ぎます。」



「あぁ、そうだな・・・。木灰を掛ければよかったはずだが、どうだったかな・・・?試させてみるわけにもいかんか?」



「試させるのはかまいません。しかし、どちらにせよ、どこに残っているのかわからない白灰の処理は手間が大き過ぎます。」



「仕方ないな。白燐だけでの使用はやめにしよう。通常の火矢と併用なら構わんだろう」



「・・・、それなら、問題も軽減しますか・・・。使用するならば要所で使う方がよろしいかと。」



恒興の提案に、堅城などであれば、使用を躊躇う必要もなさそうだなと考えた。


「まぁ、そもそも作る手間が大きすぎるからな。早々に使えんじゃろ」



白燐の原料は、骨・木炭・砂である。

しかし、これに電気を加えてガスを一気に冷やすことで白燐を得るのだが、生産性が過ぎた。


今回使ったものも、ほぼ一年掛で作りためたものである。



余程でなければ使えるようなものではないのだ。




「まぁ、今回はこれでよかろう。あとはこの狼煙で、向こうのものが動き出すのを待つばかりじゃ」



そう。今回の西尾城攻めは、西尾城を落とすことが目的ではない。

真の目的は、・・・・・







・・・・・・翌朝



「待てい!それはどこに運び込むものだ!」



武士の格好をする者が、農民の集団に声をかける。



「へ、へい。これは上宮寺様に運ぶための年貢でさぁ」



そう、この農民の集団は、上宮寺の寺領の者たち。

年貢を寺に収めるために運んでいる者たちだった。



「ここは、今川の領地であるぞ!これは岡崎城まで運べ!」



「え、いや、しかし・・・ぐはっ!」


反論しようとした農民を武士が斬り殺す



「ふん、口答えなぞいらん。とっとと運べ。話はもうついておるのだ!」



「へ、へい・・・」



農民たちは怒りを溜め込みつつも、話がついているという言葉を聞いて、上宮寺への年貢を岡崎へと運び込む。

岡崎城では、寺領のものが年貢を納めに来たことを疑問に思ったが、「話はついている」という言葉を、運んで来た農民たちから聞き、何も考えずに蔵へと入れた。



しかし、一部のものは上宮寺へと走り、この件について上宮寺の僧へと問いただすこととなる。

その後───




「今川、討つべし!!!」「仏敵今川を討てーー!!!」




───三河一向一揆が始まった。






・・・・・・・・・・




「ふふふ、親父殿、三河は随分と荒れておるようだな。」



2人の親子が、清洲城で対面している



「ふん、あれは酷いな。あれでは、今川もどうなるかわからんな」



三河一向一揆は三河全土へと一挙に燃え広がり、豊橋、吉田城の辺りまで広がっている。

襲撃を受けているのは、今川方の城全て。


というより、目につくもの全てを襲っているようにも見えるほどである。




「親父殿。結局、どの程度介入したのだ?」



「うん?まぁ米と槍をくれてやった程度だな。あまり与え過ぎても後に響くであろう?」



「だな。まぁ、米であればよかろう。食えばなくなるしの。槍も数が少なければどうということはあるまい」



「うむ。しかし、おっとろしいのぉ〜。ワシが三河を食っとったら、あれはワシに向かってきたわけだろ?あんなもんどうしようもないわ」



三河の一揆の勢いは凄い。

示し合わせていたかのように、本願寺系の各寺が一斉に蜂起したのだ。



松平だけでなく、今川も手の打ちようがなかっただろう



「あとは、今川の出方を待つのみだな」



「おうよ。しかし、流石に無視することはないとは思うが・・・」



そう。この作戦において、今川がこれを無視し、一時的にでも三河を蜂起されると、こちらとしては痛いのだ。



「それは流石にあるまい。それをしてしまっては、武田が出てくるだろう。」



そう、武田は先年、飯田城を制圧している。

飯田城のすぐ南は奥三河、今川の領有地である。



「無視しなくとも武田は出てくるかもしれんぞ?」



「来るかな?」



「五分・・・、だな。」




武田は海を望んでいるが、今川とは同盟関係にある。

しかも、三河が現在失陥している状態とはいえ、戦力の中心は駿河と遠江なのだ。

実質、戦力は減っていないと言ってもいい。




───数日後




「吉、今川が動いたぞ」



・今川義元進軍



三河のほぼ全土の反乱に、流石に危機感を覚えた義元は、駿河と遠江の戦力の過半をあげて進軍を開始した。

恐らく、俺たちへの威圧も兼ねているのだろう。



公称4万の軍勢が三河へと進んでいく。

実数はおそらく1万ちょっとだろう。


相手が武士でないために、数字で威圧しにかかったものと思われる



「4万か。実質的には1万ほどだろうに」



「まぁ、そういうな。一揆相手だからな。数で圧をかけようとしておるのだろう」



この頃一揆勢は、岡崎城を落とし、吉田城や奥三河の城などを除く多くの城を失陥させていた。

安祥城に攻めかけてきた者らもいるようだ。



「安祥の信広兄いは大丈夫なのか?」



「この程度で落とされるやつではないわ。むしろこの程度で落とされたのなら、ワシが斬り捨ててやる」



「兄いも期待が重いことで」



「ふんっ。それに今川の軍勢が迫っとるのだ。こちらにちょっかいをかけておる場合ではあるまい?」



「それはそうだがな。一揆勢は、とてもじゃないが冷静とはいえんからな」



そう。今川だけでなく、俺たち織田家もが恐れていることがある。

加賀のように三河が百姓の持ちたる国になることだ。



「願証寺の出方が気になるのだがな・・・」



「そりゃ、幾らかは手助けもするだろうが・・・。所詮は他人事だろう?戦力までは出すまい。」



願証寺は、その海運力を用いて本證寺勢に支援している。

史実でも今回も、戦力の抽出はないが、こちらの動き次第では、長島周辺で動くことはあるかもしれないと考えている



「願証寺が、どこまで考えているのかがわからん。」



「・・・そうだな。あやつらが加賀のようなことを望んでいるのかどうか、そこが肝だな。」



「願証寺の代表は、穏健派だとは聞いている。しかし、三河で本證寺が優勢にことを運べば、どうなるかはわからんな。」



そう。願証寺の代表だけで、長嶋があるわけではない。

穏健派だけでなく、過激派の数も少なくないのだ。



本證寺が順調に三河支配を進めれば、長島でも、と言う話になる可能性は大いに残っているのだ。



「まぁ、今川がどう勝てるかよ」




───今川と本證寺の勝敗で、織田家の動きが決まるのだ。

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