第22話:次の戦略
生み出された水は、【神水】または【聖水】と呼ばれ、織田家の戦略物資となった。
また、作られた聖水は1年で効果を失った。
親父殿は、これを以て俺を織田弾正中家の当主とし、千秋の娘との婚姻を結ばせた。
斯波には、息子の義銀の方に最近生まれた娘を嫁がせる予定だそうだ。
できるだけ、近くにおき、2人の関係を密にする予定だそうだ。
美濃との戦争もなく、今川への遠征もない。
この影響は大きく、特に美濃では、斎藤道三の影響力は史実より落ちている。
今川は三河への支配を強めているが、織田はそれにほとんど手を出していない。
そのため現在では、ほぼ完全に、松平氏は今川の従属国である。
第一次小豆坂の戦いも起こってはいないし、第二次もこのままだと起こらないだろう。
松平の氏族から、救援要請のようなものは多数来ているが、こちらでは黙殺している。
こいつらの要請を受けたところで、なんの価値もないからである。
(それに三河は毒饅頭だ)
そう。三河は最初に支配権を行使した者に牙を向く毒饅頭なのである。
それはなぜか?
本證寺。
ここが問題なのだ。
三河の本願寺系列は松平の先代から不入の権を受けているのだ。
つまり、今川が支配した後で、こちらから適当に突っつけば、三河一向一揆が起きるわけだ。
なぜ、不入の権が一気に繋がるのか?
その理由は簡単。
不入の権を今川、もとい戦国大名は認められないからである。
そもそも、不入の権というのは、それを受けた寺領などでは、国に税を納める必要はない、という権利だと思ってくれればいい。
厳密には違うのだろうが、実質としてはこれだ。
国に税を納めず、寺領の収穫物は、そのまま寺へと納められるというわけだ。
現代日本に置き換えるなら、日本国の中に朝鮮や中国の領地があって
そこに住んでいる人間は、日本国ではなく、それぞれの国、朝鮮や中国へと税を納める、といった仕組みだと思えばいい。
誰がこれに納得するんだ?
日本では似たようなことをしていたこともあるし、もしかすると現在でもしているかもしれないが、普通の為政者はこれを容認なんぞできないだろう。
しかも、寺領の人間は三河者ではあるが、戦力にはならないのだ。
自領に住んでいるだけの敵国人と同義だというわけだ。
力の弱い時なら、認めざるを得ないのかもしれない。
しかし、ある程度力を持てば、これを是正したくなるのは世の常、なんだろうな。
そして、今川が三河を支配しようとするなら、絶対に避けては通れない道である。
(ふふふ、せいぜい頑張って我らのために本證寺の力を削いでくれ)
これが、親父殿が三河への侵攻を辞めた理由である。
毒饅頭は最初に今川に食ってもらうように誘導するのだ。
~今川Side~
今川、駿河城では、2人の男が話していた。
1人は今川義元、もう1人は太原雪斎、もとい太原崇孚という
「来年か再来年には河東が取れそうですな」
「長いの。三河のようにあっさりとはいかんか。」
「えぇ。三河はうまくいきすぎです。織田が手を出してくるかとも思っていたのですが・・」
「内での争いに忙しいのだろうよ、あやつらは」
「今までの信秀であれば、それでも攻めてきたように思いまするが、一体なぜなのか・・・?」
「まぁ、考えすぎても仕方あるまい。まずは河東じゃ。その後に三河に手入れをする。」
「はっ」
~Side End~
順当に行けば、2年後には河東の乱がある。
北条にとって危機だろう。
佐治氏と水野氏とは、完全にこちら陣営だから、伊勢湾の東に関しては問題ないだろう。
今川水軍もいるが、伊勢湾内は完全に彼らの庭となっている。
ただ、三河が弾ける前にこちらに侵攻してくる子には注意しないといけない。
史実でも、三河が弾けたのは桶狭間の戦いが起こった後のことである。
まぁ、だからこそ、今のうちに寺の関係者に散々噂を流し、今川に対しての警戒感を醸造している最中なのだが。
ともかく、この北条の危機に介入するのは難しい。
このタイミングが北条に多大な恩を売れる絶好の機会なのだが・・・。
まぁ今回は無理だろうな。
北条との関係を進めるのは諦めるしかないだろう。
織田家で伊勢湾を制す。
それができなければ、俺の理想は叶えられん。
聖水の力で、長嶋本願寺(願証寺)を攻略するための目処はついた。
あとは、熱田神宮の力を高め、尾張各地に分社を建てなくてはならんな。
あとは、信仰の力で一気に押し流してやる。
(見ていろよ本願寺。民衆の力の恐ろしさを、今度はその身で持って知るといいさ)
「若様。わーかーさーまー!寝てるんですか?目を開けたまま寝ると目が乾きますよ?」
「ええい!うるさいわ!起きておる!一体何じゃ!」
「いえ、水野殿と佐治殿、そしてウチ。その三家の合同結婚式の話ですよ。」
「あん?それならもう済んだだろう。残りは任せる故、当日まで休ませろ」
「そういうわけにもいきませんって。三家合同の結婚式なんて、今まで例がないんですから」
「いや、甲駿相の三国同盟が、って、まだできてなかったか・・。」
「ん?なんですか?三国同盟ってどこかであったんですか?聞いたことありませんが・・・」
「いや、俺も聞いたことないなぁってな。しかし、別に普通の結婚式と変わりあるまい。俺が決めねばならんようなことなどあるのか?」
「決めなければならないことはこちらで決めますから。若様は、もっと3家の方々と交流してください」
「はぁぁぁ・・・、また酒を飲むのか?もう水でいいだろぉ?」
「飲まなきゃダメです。というか、若様酒なんて飲んでないでしょ。毎回、水に変えてるくせに。」
「いや、飲んでる。飲んでるぞ?少しは飲まねば、流石に怪しまれようが。」
「本当ですかぁ?でも若様、本当にお酒に弱いですからね。」
「仕方あるまい。そういう体に生まれたのだ。どうしようもないわ」
「何度も飲んでいれば、もっと飲めるようになるそうですけど?」
「嘘だ。飲めるようになるのではなく、正気を失うまでの機が分かるようになるだけだ。別に飲める量は変わらんわ。」
「?そうなんですか?」
「あぁそうだ。そもそも、酒というのは、少量であれば百薬とも言えるものだが、多量に飲めば毒にしかならん。
強い酒を一気に飲めば死ぬこともある。あのようなことは阿呆のすることだ。お主らの間では辞めておけよ。酒で死人を出すなど、武士の恥だわ」
「なるほど。確かに、戦さ場ではなく酒の飲み過ぎで死ぬなんて、武士とは言えませんよねぇ」
「あぁ、言いがかりをつけてくるなら、俺がそう言っておったと返してやれ。
まぁ、俺の水も一緒に飲めば、死なんかもしれんが・・・。」
「あー、確かに。ウチならそういう方法もありますよね。ははは」
「笑っとる場合か。ったく。はぁー、また飲み会か・・・、気が重いわ。」
「そんなに大変なんですか?あれ。」
「あぁ、考えてもみよ。みんなが酔っ払っておる中、俺は1人だけ素面なのだぞ?俺も酔っ払っとれば戯言に対して笑っておるだけで良いものを・・・」
「あ〜〜、それに関してはなんとも言えせんね。」
「で、あろう?だから、気が重いのだ。俺も適度に笑っておらねばならんし、どうにもならん。
・・・・・・どうせなら、あいつらの酒も水に変えてしまうか?」
「絶対にやめてください」
「冗談だ、冗談(半分はな)」
「?さっき何か」「言っとらんぞ」
「「・・・・・・・・」」「まぁいいです」
「とりあえずは今川ですよ。この三家の婚姻同盟が決まれば、次は今川なのでしょう?」
「あぁ。だが、その前に北だな。」
「え、北ですか?というと岩倉ですよね?今川より先に尾張統一が先なんですか?」
「あぁ。今川には先に三河で苦労してもらおう」
「三河で苦労って・・・。もしかして、以前言っていたアレですか?」
「そうだ。すでに三河国人衆の幾らかを抱き込んでいる。あとは、機を見るだけよ」
「ふぇぇぇ、本格的にまずいじゃないですか!というか、三河の連中が自分たちで火を入れるはずないでしょ。」
「そんなことはわかっとるわ。だから、火を入れるのは俺たちよ。今川の名前で、上宮寺あたりで徴収すれば終いだの。」
「と、とんでもなことを・・・。下手をすれば生きて帰れませんよ?」
「俺とは言ったが、俺自身の手でやらんわ。本證寺の系列の寺領で一斉に税の徴収をやらせる。一つ二つではないからな。例えばれても問題ない。すでに火種はあちこちに撒いておるからな。たとえ、織田の仕業だとバレても、今川討つべしの声は止められんわ。」
「えげつない・・・・・本当にえげつない・・。」
「繰り返し言うな、傷つくじゃろ」
「しかし、そのための噂ですか。」
「あぁ。あとは火を投げ入れるだけでいい。第一、今川仮名目録では不入権は実際に認められとらん。なら、いつかは起きるのだ。
いつかは起きるものを俺たちのタイミングで、もとい俺たちの機で為すだけのことよ。ふはははははは」
「若様は、死んでも極楽には行けそうにありませんねぇ」
「誰も行けんわ。そんなところ。」
「え?行けないんですか?俺は行くつもりでしたが・・」
「大体、極楽なぞブッタの作った仏教にはありゃせん。あれは、後世の人間が作ったもんだ。大体、日本の仏教と名乗っとる宗教は仏教とはとても言えんしな。念仏唱えりゃ極楽に行ける。ってなんだそりゃ?ってなもんだ。ブッタが聞けば驚いて腰を抜かすだろうよ」
「へぇ?そんなに違うんですか?」
「あぁ、そもそも、肉を食わんことから違う。妻帯もな。向こうの坊主は妻帯なぞせん。肉も食う。わざわざ、肉を食うのを禁止した上で、戒律を破って肉を食うなぞ、意味がわからん。はなから食えるようにしとけば良いだけであろうが。」
「肉?坊主が肉を食ってもいいんですか?え?妻帯は、まぁそういう宗派もあるので分かりますけど・・・。でも、妻帯しないのが本場の仏教なんですね・・・。」
「あぁ。向こうの仏教だと、己が食うために殺された肉を食ってはいけないとか、確か、肉を食うのにも3つの戒律だけは守らなきゃならんかったはずだ。自分で狩ったものはダメだとかもそうだな。もう一つは、忘れた。まぁ、日本の仏教もどきとは全くの別物だと言うことだ。」
「へぇ・・・。そりゃ全然違いますねぇ。」
「あぁ。それに、修行が厳しい。向こうじゃ、一生のほとんどを修行に捧げる、それが坊主だ。だからこそ、民草もそんな僧侶たちに尊敬の念を持つわけだ。そして、食料なりを供する。供されたものが、その僧侶のその日の食事だ。」
「凄いですね・・・。本当に日の本の僧侶たちで全然違う姿が想像できます。なんか、日本の僧侶が向こうに行ったら討たれそうですね」
「・・・・あり得るな。」
「向こうから、僧侶を呼んだ方がこっちのためになりそうですねぇ・・」
「まぁ、そんな手もあるんだろうが、俺たちがやるのはこっちだよ。」
「しかし、若もこれで正室と側室が一挙に決まったわけですか、すごいですね」
「あぁ、とはいえ、まだまだ、彼女らも子供だ子を産むのは15以降でなければ危険だしな。確か2人ともまだ7つだろう?」
「えぇ、ですが、若様も似た様なお歳でしょうに」
「まぁ、確かにまだ11だが、それでも元服はしたぞ?」
「そうですねぇ。初陣が清洲相手でしたから楽でよかったです。次の岩倉が終われば、そのあとは今川かぁ・・・。気が重いですねぇ」
「勝てるから問題ない。一向宗相手に泥沼の戦でもさせておけば良いのだ。そうすれば、武田や北条も動くだろうよ」
「ウチはその隙に三河を、ですね。」
「あぁ、奥三河までは手に入れる。そのあとは、今川と同盟なりすれば良いわ。」
「そこまで叩いておいて、同盟なんてできるわけないと思いますけどね」
「その時はその時だな。」
「あ、もういい時間ですよ?」
「お、もうそんなか。仕方ない、行くか・・・」
そうしてその日の俺は、宴席の場へと消えていった。




