第21話:聖水・神水
俺の能力の検証は、親父と俺の傅役、そして、俺の親衛隊:赤母衣衆たちの前で地味に行われた。
「とりあえず10種の水を用意致しました。」
◇10種類の水
①海水
②味噌汁
③附子水
④石見の毒水(ヒ素)
⑤お茶
⑥墨汁
⑦濁酒
⑧灰汁
⑨堀の水
⑩お酢
「よく集めたな・・・。」
「えぇ。ただ集めただけともいえまするが。」
「まぁ良い。よし吉、やってみろ。」
「今はもう信長だ。諱だが信長でいいぞ親父。」
「分かった分かった、早くしろ」
「ったく。・・・・ほれ、できたぞ。」
俺は、それぞれの水に指を突っ込み適当にかき混ぜていく。
するとそれぞれの水があっという間に透明色の水へと変わる。
「「「おぉ!」」」
「こいつはすごいな・・・。あの小汚い堀の水まで透明だぞ?」
「・・・ですな・・。そしてこれに治癒の効能があるなら・・・」
「うむ。何処の神として祀られてもおかしくはないな・・・」
「むぅ・・。」
「ここまでは分かっておったことだろう。とりあえず、次をどうするのか決めてくれ。
後、お酢やそれらの毒水は危険だ。捨てる時には十分以上に注意しなきゃならんぞ。」
「あ、あぁ、そうであったな。
が、正直、毒水もあるのに俺は飲みたくはないな・・流石に。」
「それはまたの機会にし、適当な罪人にでも飲ませればよろしいのでは?」
「まぁ、そうするか。で、水のなかには塊になっているもんが沈んでるが、これはなんだ?」
「単なる不純物、要は、それぞれ水に溶けておったものよ。」
「なるほど・・・。飲みもんでありゃ、お前に毒は効かなさそうだな?」
「触れればな。触れなければ、俺だとて毒は効く。
まぁ、それも、この水に治癒の効果があるのであればどうなるかはわからんが・・・。」
「そうだな。よしっ、じゃあ、水とそれ以外を分離できるのは分かったんだ。
あとは何を調べる?治癒の効果か?」
「いえ、その前にどれほどの間保存ができるのかを知りたい思います。」
「?それは時間が掛かりすぎるんじゃねぇか?」
「えぇ、ですので、この10種の水はそのまま置いたままにしていただきたいのです。」
「なるほど。毒が溶けちまえば、その水は効果を失ったとわかるわけか?
いい考えだ。やれ。」
「はっ」
「それじゃ、別の水で試すか・・。おい、誰か瓶に入れて水とってこい。」
「私がいきます!」「私もついていきます」
「よしっ行ってこい。」
・・・・・・・・・・
瓶に汲まれてきた水を浄化したあと、その水を城内の怪我人、20人に飲ませた。
このあと、経過観察するらしい。
20人の者たちは、普段の仕事から解放され、城内の一室が与えられている。
当然、その前にそれぞれの怪我について観察と記録がされている。
病の治療に関しては、信秀直属の漢方医に任せるそうだ。
ただし、この者が記録を持ち出さないように目付もつけられるそうだ。
もちろん、目付としてだけでなく、手伝いもするそうだが。
・・・・・・・・・・
この観察の結果。
腕の骨折が5日で治癒。
顔の広範囲を火傷した者も3日ほどで治り、刀での裂傷による深い傷も数日で完全に治癒した。
どこまでの傷が治るのかはわからないが、大凡、通常の5倍速で怪我の治癒が進むようだ。
ただ、これがどういう原理で治っているのかがわからないので、多用すべきなのかどかも見当がつかないのが難点なのだが・・・。
親父殿たちはそうは思っていないようだ。
「凄まじいな。そういえば、今回の試しに参加したものの中で、片端者(手足欠損)はいなかったのか?」
「そういえば、いませんでしたな。片端者(手足欠損)に城内での働き口はない故、仕方なきことではありまするが」
「奴らにも試したいが・・・、流石に騒ぎになる。どうせなら、片端者(手足欠損)を何人か買ってこい。
治らなくても使ってやるといえば、何人でも付いてくるだろう」
「ですな。では、誰ぞかに行かせましょう。そ奴らには会われますのか?」
「少なくとも、一度は見て置いた方がよかろう?お主も一緒に見ておけ。これで、腕や足が生えるなどとなってみよ、とんでもないことになるぞ?」
「はぁぁぁ、楽しそうですな、信秀様。私どもなどはもう一杯一杯なのですが、、、」
「ははははは、お主らもあの風呂に入っておけ、入ってみれば俺の気持ちがわかるようになる。林などはほぼ毎日のように入り詰めらしいぞ?
最近のあやつ目は人が変わったように働いておるわ」
「林ですか・・・、確かに人が変わったようですな。であるからこそ、恐ろしゅうありますがな。」
「あれは真の神水よ。いや、神に酔う方の神酔かな?」
「うまいこといたおつもりですか・・・まぁ、我ら全員が酔っておるのかもしれませんがな。」
「ふふふふふ、あやつが産まれてから、楽しいことばかりよ。
あの風呂に入ってからは、身体もどんどん若返っていくわ!」
「ほぉ・・、確かに若返りの効果もあるのやもしれませんな?」
「まぁ、そっちはほどほどだろうがな。もしかすると、悪いところが治っているから若返ったように見えておるだけかもしれん」
「だとしても十分でしょう。我々とてもう若くはなく、体の節々が痛みますからの。
殿も直にそうなりますぞ?」
「はははは、それもこれも、あの水を浴びるか飲むかしておれば治りそうな気がするがな」
「・・・ふむ、わしらも試してみますかな・・。」
「おう、そうしろそうしろ。ただ、すぐに効果が出るわけじゃないぞ?少しずつ体に染みていって、数日かけて効果が出てくるような感じだ。
俺も気づいたのは数日後だったしな」
「そうですか・・・、まぁ、とりあえず、若さまに瓶ごといただきますかな?作るのはそう手間でもない様子でしたし。」
「それがいいな。あと、適当に何か混ぜとけ。出ないと、効果ぎれがわからん。」
「なるほど、確かにそれはよろしいですな。塩の塊でも入れておきますか」
と、裏でそのような会話があったそうだ。
俺はこのあと、数十人分の水瓶の浄化を頼まれたのだった。
・・・・・・・・・・
後日、病の者と片端者(手足欠損)にも水が振るわれた。
ただ、病の者は、治る者と治らない者とにわかれた。
片端者(手足欠損)については、1ヶ月が経過したが、まだ試験結果は出ていない。
途中経過では、どうやら、少しずつ手足のあった部分が戻ってきているようだとの話もあった。
しかし、1ヶ月程度では結果は出ず、試験の継続が望まれている。
「これは凄いな・・。」
「えぇ、凄いです・・・。病にも効き、片端の者であっても治るようですし」
「欠損についてはまだ結果は出ておらんぞ?途中で止まる可能性もある。
最後までやらせた方が良いだろう」
「ですね。それも報告に入れておきます。そういえば、若様が水を配った方々の話、聞きましたか?」
「ん?いや、聞いておらんな。最近どうしておるのだ?あの年寄りどもは。」
「年寄りと侮れないほど、ずいぶん元気になられたようですよ。若返られてようだという話も出ております。」
「はぁぁ・・・絶対に厄介ごとになるだろう・・それは」
「ですね・・・・。若様の作る水で、心労も治ればよろしいのですが・・・」
「それができるなら、こうして悩んではおらんだろ」
「はぁぁ・・、望み薄ですか。」
「諦めろ、勝。」
そうして、しばらくの間、尾張下半では、若返りの湖の話が囁かれた。
よく働く年寄りは、神によってその湖へと導かれ、若返りの水が入った瓶を譲り受けるのだそうだ。
「ふはははは、もうわしは無敵じゃーーー!!!!!若様ーーー!生涯、わしは貴方様を信仰いたしまするぞーーーー!!!!」
どこぞで、喚き散らす林という爺さんがいたそうだが、それもまた噂になった。
稚児趣味の年寄りに付きまとわれている可哀想な若様の噂が。




