第19話:天文12年(1543年)の計画と今後の方針
石鹸と固体漂白剤の生産方法を確立した俺は、それを生駒にも見せ、
将来的にはこちらの石鹸を普及させることを伝えた。
また、現在作られている石鹸より効果のあるものだということと、
これの製作と販売は生駒に任せることも伝えた。
量産には、もっと磁石の作成と銅線、カーボンロッド(炭擬棒)が必要だ。
電動ブロウも作ったが、炭場や炉を近くに置く必要があるので、まだまだ準備不足だ。
大型の発電機も作らないといけないが、兎にも角にも、信用のできる人間を各地に配置する必要が・・・
とりあえず、那古野城周囲に集めるほかない。
電気、いや電動ブロウは、製鉄・炭業・窯業、さまざまなものに使える。
俺は、暖房設備による炭消費量抑制や石鹸作り、風呂、漂白剤、
電動ブロウなどについても職人と親父たちに見せ、実際の効果を幾らか体感させた。
そのおかげもあって、親父殿だけじゃなく、見せた職人も使用を前向きに考えてくれている。
このことで、織田弾正中家領内で、水車と発電機の製造が決まった。
1543年、つまり今年中に幾つかの箇所で設置される。
それと、無線機の設置も決まった。
今のところは、那古野城でしか発信できないが、今年中には古渡城でも発信できるようにする。
発信機には、
・電源(発電機)
・電鍵(トン・ツー音を送るスイッチ)
・誘導コイル:鉄心と銅線、絶縁体
・コンデンサ:陶器壺(内外に錫箔)
・火花放電器:電波を飛ばす:カーボンロッド(炭擬棒)
・空中線:アンテナ:銅線で作る
・接地:鉄板や銅板を地面に刺して電気を逃す
受信機には、
・アンテナ:銅線
・接地:銅板・鉄板
・同調回路:コイル・コンデンサ
・検波器:黄鉄鉱(愚者の金)・金属針(鉄)・機構部(鉱石を固定し針が当たる位置を調整する機構)
・受話器:人工磁石・コイル・振動板(薄い鉄板)
これで無線が完成する。
通信方式はモールスだ。
ちなみに、モールス信号には詳しくないから、適当なやつに任せた。
これを使えば、ここ那古野城から安祥城までは届く。
ただ、那古野城から安祥城までの距離は35km
ただ早馬でも2時間か2時間半くらいの距離だ。
古渡城から安祥城までも数キロ違いでそう変わらない。
この2時間のロスをなくせると考えれば効果的なのだが・・・
(この方式には問題も多いんだよなぁ・・)
1番の問題は、ずっと付きっきりでないといけないことだ。
(・・・おっと地獄かな?)
せめて、発信がわかるようにするなり、紙に描き写せるようにするなりできればいいんだが、
それには、安祥城側にも発電機の設備がいる。
(・・いつ落ちるかわからない城に置くには高価すぎるからな)
やる人間にとっては地獄だが、まぁ諦めて貰う。
それに、こちらからの発信だけでは、精々が信広兄貴を呼び出すのに使える程度のものでしかないからな。
戦の知らせを出すことにすら使えないの。
しょーじき、無駄でしかないと思うが、
まぁ、あくまで試験的なものだ。
そもそも、モールス信号なんて誰も使ったことないし、その練習もしなきゃならん。
安祥城の兄貴とも連携をとっていく必要がある。
だから、兄貴との交流がてら、適当な文章を一方的に送り続けることに決めたのだ、俺が。
色々と理由は付けたのだが、モールス信号の発信も受信も練習がいることに変わりはないし、
兄貴との交流も本当。
将来的には、各所に発信機と受信機を設置していくつもりだから、練習は必須ってのも本当だ。
今年は天文12年(1543年)
あと4年で竹千代が三河から送られてきて、
あと6年で信広兄貴が安祥城で負けて捕虜になっちまう。
その展開は避けて行かなきゃダメだ。
竹千代はいいとして、兄貴が捕虜になのはダメ。
織田家の影響力が一気に削がれちまうし、津具鉱山を手に入れるのも遠くなっちまう。
奥三河の津具鉱山は、今の時代じゃ採掘もされてない未開地だ。
俺がそこを手に入れるのに誰彼憚ることもない。
何より、尾張には鉱物資源が無さすぎるっ!
銭はあるから、なんとか内政チートみたいにできてるけど・・・
銭を使いすぎて廃嫡なんて、本当に笑えないんだ!
あとちなみに、第一次小豆坂の戦いは起こってない。
俺が色々やっていることもあって、親父もそれに協力しているからってのが1番大きいだろう。
本当になんでここまで、任せてくてるんだろう?
そこについては未だによくわからん。
だが、織田弾正中家の尾張内での影響力は史実以上だ。
多分、親父殿は、家の方針を、他国の領地を獲得する方じゃなくて、尾張領内での権力確保に切り替えたんだと思う。
今も、織田信友と坂井大膳の争いは、続いている。
(もう少しすれば、親父が介入するだろうな)
坂井大膳は、もう少しで死ぬだろう。
大分、鉛中毒の症状が出ているようだし、彼に斬り殺されたものも何人かいるよだ。
織田信友の方は、権力を取り戻そうとはしているが、手足となるものが少ない。
坂井一族が、荒れているからこそ均衡を保てているが、ウチとの戦になれば、確実にこちらが勝つだろう。
斯波義統も、その争いに危機感を感じてるようだ。
親父殿が声をかければ、こちらに争いを止めるための要請を出すだろう。
そうなれば、全てこちらの思うがままだ。
(この戦いに決着がつけば、清洲も手に入る。やれることは倍増するな・・・。)
裏方での争いだから、俺の功績が語れないのが痛い。
しかし、今年中に俺が初陣に出ることは決まった。
とは言っても、本当に戦についていくだけになるんだがな・・・
勝ちの決まりきっている戦だからこそ、親父殿もそれを決めたんだろうが。
(流石に数え10歳の俺を初陣に連れていくのは無理があるんじゃ・・・いや何も言うまい)
野盗相手の殺し合いくらいは経験があるから、別に問題ないが
流石に清洲相手の戦となると、少し緊張する。
それに、おかしくなっているのは坂井一族だけで、他の連中の頭はまともだ。
まぁ、その坂井が中心にいるせいで荒れているんだが
今年、進むことは多い。
清洲を手に入れた後は、斯波義銀にはいなくなってもらって、
斯波義統には、新しく娘でも作ってもらえるように接待しよう。
それか、いないのかな?娘。
いたら、そいつと俺が婚姻を結び、俺が斯波になる。
斯波家の乗っ取りだ。
別に親父殿も、家さえ残せれば俺を嫡男として置いておく必要もないし・・・
いや、これは反対されるか?
悩むな・・。
信広兄を入れちまうと、絶対に争いになる。
かといって、斯波の権威を手中に収められないのは痛い。
やっぱり俺しかないな。
信勝を入れても信広兄を入れても争いにしかならんし。
実権を奪って押し込めとくわけにも行かない。
実権を与えたら、俺が自由にできんし・・・・
そもそも目的は織田の権威を上げることだし・・・・・・・・
(がーーーくそ、頭がこんがらがってきやがった。
しかし、俺が養子になっちまったら、織田の家格を上げるって言う目的からは逸れちまう)
そう、効率の面を考えれば、斯波家に入るのが早いのだが、入ってしまうと織田の価値は変わらないままなのだ。
(とすると、やっぱり義銀か義統に誰か嫁がせるのが最適か?)
しかし、すでに義統は婚姻しているし、普通に考えれば義銀だろう。
だが、こいつは傀儡になれないタイプであり、実際、史実では信長に反抗している。
(傀儡にすらなれん馬鹿とかいらんわ)
製鉄や炭業、窯業、粗銅の電気精錬
この辺りの施設は、今年中に那古野城の近くに建つ、予定だ。
来年くらいからは、稼働するだろう。
今はまだ、大きい意味での成果が出てないから、
新規で発電機を作るのはできてない。
磁石の磁化は、数ヶ月に一回程度は忘れないようにやっているから、磁石そのものは問題ないんだがな。
水車もすでに4機が設置されていて、小さい風車の設置も今年中にされる予定だ。
アルキメディアンスクリューなんかも教えておいたから、将来的には農地も増やせるだろう。
兎にも角にも、こっちが本格的に進むのは、清洲が手に入ってからの話である。
清洲が手に入れば、織田弾正中家の影響力が尾張南半分に完全に及ぶし、
残りも、岩倉織田家と知多の水野が大半だ。
他にも東の有象無象の国人衆もいるが、こいつらは斯波の権威で押さえつけられるだろう。
(そのうち、国人どもも領地から解き放ってやらんとな?)
その他にも西には長島がいるし、東には今川が健在だ。
水野も取り込んで、三河も制して、長島本願寺も潰して、各務原も、と、
俺が欲しい領地はたくさんある。
と言っても、そこまでたくさんの領地が必要なわけじゃないし、俺の目的も天下統一じゃない。
天下が欲しいのなら、勝手にすればいいのだ。
(なんで、苦労して、バカの面倒を見ないといかんのか?)
これが俺の真意である。
天下統一はゲームじゃないのだ。
確かに多少の憧れはある。
しかし、現実には問題が多すぎる。
朝廷の衰微はもう目も当てられないところまで来ている。
これを立て直すとなると、親父が寄付した4000貫文じゃとてもたりない。
それこそ、100万貫は必要なんじゃなかろうか?
そして、これを守るための戦力もいるだろう。
京都の公家連中を守るためにわざわざ?
ありえん。
畿内の連中は、地方を下に見て、地方から搾取することしか考えてない。
イマイチ、地方領主たちはそこのところがわかってないが
それだけ、京都という都会に憧れがあるのかもしれん
そして、公家だけが問題じゃない。
将軍家も、だ。
こいつらは全ての争いの元凶と言ってもいい。
あっちこっちで争いを起こし、自分たちが偉そうにできないとぐちぐち言いつつ、
暗殺者や不幸の手紙を送るのが趣味のク◯野郎どもである。
足利義昭が幕府を崩壊させた時のことを知っているだろうか?
足利義昭が蜂起し、織田信長がそれを包囲。
織田信長は確実に勝てるが、殺すのはちょっとな、という少しだけの抵抗感があったから降伏の使者を送ったわけだ。
しかし、相手が将軍だったから、名目は和睦だった。
だが、何を思ったのか、「和睦を送るということは余裕がない証拠だろう。それにもっと条件を釣り上げてやらねば」と、降伏を蹴った。
それでどうなったかって?
速攻で攻撃して捕虜。京都を追放の流れである。
結果、足利幕府は崩壊した。
あと、織田信長が将軍家に要求していた仕事は、対朝廷の応対業務である。
これは、初期はともかく、代々の将軍家が担当している仕事なので順当。
別に義昭も不満はなかったらしい。
だが、最後には何をトチ狂ったのか蜂起。
結果、誰も望まぬまま、室町幕府は滅亡となったわけだ。
・・・・・。こんなやつの相手、誰がしたいんだ?
ちなみに、今代はともかく、次代の天皇も、相当な馬鹿らしい。
三条と信長、そして義昭で頭を悩ませるほどだったというから相当だろう。
再度聞く、
こんな奴らの相手、誰がしたいんだ?
俺は無理である。
朝廷は崇めるものであって、近づくものではないのだ。
くだらない政治のお遊びは京都内で勝手にやってくれ、俺を巻き込むな。
というのが、俺の真意である。
(尾張周辺で領土を広げるだけなら、朝廷や将軍家の権威や権力なんて無視して構わないしな。)
そう、地方領主は地方領主のままで十分なのだ。
統一したところで待っているのは地獄である。
(それに、日本統一なんてしなくても、日本の拡大は可能だしなー)
別に天下統一しなくても、将来の日本を豊かにすることはできるわけで。
海洋国家の日本(尾張)が、わざわざ陸地で馬鹿みたいな争いを続けるメリットなんてないのだ。
そんなんことは、武田家にでも任せておけばいい。
といわけで、そんな感じのが今年の計画と俺の将来の方針だ。
「ま、ぼちぼちやっていきますか」




