第01話:目覚め
「……う」
最初に戻ってきたのは、寒さの記憶だった。
凍えるような、あの北海道の冬。
雪に埋もれた家。
化け物。
死。
(あ……俺は、死んだのか……?)
ぼんやりとした意識の中で、吉法師——いや、前世では斎藤恋と名乗っていた男は、ゆっくり目を開けた。
木造の天井。
質素な部屋。
傍らには、乳母が座っている。
「あ、吉法師様、お目覚めですか」
優しい声。
だが、その言葉の意味を理解するのに、少し時間がかかった。
(吉法師……?)
なんだ?その時代がかった呼び名は・・・
いや、待て。
俺が呼ばれているのか・・・・??
手を持ち上げてみる。
小さな、子供の手。
一歳児——いや、もう少し大きいか。
(うそだろ……転生、したのか……?)
少しずつ断片的に記憶が戻ってくる。
生まれたときのことは、ほとんど覚えていない。
いや、正確には——
生まれてから一年ほど、俺の意識はほとんど眠っていたのだ。
赤ん坊としての本能で生きて、
授乳され、眠り、泣き、また眠り。
それの繰り返し。
だが今、前世の記憶がはっきりと戻ってきている。
「吉法師様、お食事の支度ができました」
乳母が声をかける。
吉法師——いや俺は、ゆっくりと起き上がった。
(あぁ、くそ…)
身体が思うように動かない。
まだ幼いのだ、仕方ない。
そう思いながら乳母に身を任せる。
(しかし、吉法師か……織田信長みたいな名前だな)
そして、
断片的に聞こえてくる周囲の会話から、少しずつ状況を理解していく。
ここは勝幡城らしい。
父は織田信秀。
母は土田御前。
そして俺は——織田家の嫡男。
幼名を、吉法師という。
(……うそだろ…うそだと言ってよマミー……。
俺があの織田信長なのか……?)
天才、織田信長。
天下布武
本能寺の変
楽市楽座
信長包囲網
歴史の教科書で見た、あの織田信長だ。
(何かの冗談だよな……?あの天才信長に俺がなる?俺はただのおっさんだぞ……;;)
だが、冗談の類ではない。
紛れもない現実だった。




