第17話:発電機の力②:鉱物資源
「っ〜はぁ〜〜・・・良い湯だな・・」
「・・・・えぇ・・・苦労した甲斐があります。」
「「ガヤガヤ」」
「みんなも大分疲れてましたからね。
身体というより頭の方が。」
「あ〜、そうだな。普段の勉強とも訓練とも違うものなぁ・・・。」
「・・・ですねぇ・・」
「しかしよ、勝。これからは、毎日でも入れるんだぞ?
悪くないだろ?」
「えぇ、悪くない、悪くないですぅ・・・」
「・・・おい、勝。寝るなよ?溺れんぞ?」
「だいじょうぶですよぉ・・・」
「いや、大丈夫じゃ無さそうだから言ってんだが・・・」
「大丈夫大丈夫・・・ぶくぶくぶく」
「はぁ・・・ったく」
風呂釜作りは、一週間ほどで終わった。
1番時間がかかったのは小屋作りだったし、釜の方は外注したから、
そこまで時間はかかってない方だろう。
だが、小屋作りの際に、「ここで金もらって運営するんだから、ちゃんとしたもんを作るぞ」と、
俺が発破を掛けたこともあって、小屋の荷重計算も行いつつ作ったために、かなり凝った物ができたのだ。
当然、その分、苦労したのは俺の従者たちだったのだが。
「そういや、そろそろこいつらの組に名前付けてやるかぁ・・」
俺付きの従者には特に名前はない。
勝、もとい、池田恒興を筆頭に前田利家や青山の所の息子、
平手の爺さんの孫など、多くの武士の子供たちとともに、
孤児たちが何人も入っているのが俺の従者たちだ。
ほとんどの人間はこのことを知らず、誰かの子息だろうと思っているが、
従者連中は当然知っているし、平手や林などの傅役もそのことを承知している。
最初は多少ぶつかったりもあったが、ほとんどが、10歳以下の従者組だ。
嫌味も嫌がらせも子供の範疇でしかない。
だから、言い聞かせるのは難しくなかった。
(四六時中俺のそばについているから、というのもあるけどな・・・)
もうそろそろ、全員が慣れてきた頃で、集団としての自覚も出てきているようだったから、名前を、と思ったわけだ。
「なににすっかなぁ〜・・・」
悩んで悩んで・・・決めた
「赤母衣衆にしよ。最初だしな。」
そうして、今日は全員で風呂に入って終わった。
・・・・あと、俺以外の全員がのぼせて倒れた。
「はぁ・・・。なんで、俺が助けてんだよ・・・、逆だろ逆」
・・・・・・・・・・・・
次の週。
「本日の訓練、終了いたしました!」
「うむ。では、朝食後、勉学の間に集まるように」
「はっ!かしこまりました!」
と、今日の訓練が終わり、俺は次の計画へと歩を進めることにした。
「吉法師様、また何かやるんですか?」
勝三郎が、「またこの人は何かやらかすのか?」と言い出しそうな顔でそう聞いてくる。
「またとはなんだまたとは。
あの発電機はまだ一機しかないし、もっとやれることはあるんだよ。」
「まだ一機って、もっと作るつもりなんです?」
「当たり前だろう?
アレを使えば鉄をもっと作れるようにもなるし、金や銀の量も増やせる。
他にも、大きなことができるぞ。
例えば、通信技術。」
「?つうしん技術?ですか???
なんですか?それ?」
「要は遠くにいる者と話せる技術だが。そうだな。
例えば、俺がここにいながら、親父と話せる。と言えばわかりやすいかな?」
「え、ここにいながら話すんですか?!ここって、この広間で、ですよね?
信秀様をここに連れてくるってことですか?」
「違う違う。いわば、声を遠くに届け合うんだよ。
まぁ、声そのものを届ける方法は、ちとばかし面倒なんだがな・・・。
ガラス・・・、ギヤマンが自在に作れるようでないと無理だ。」
「・・・なぁんだ。まだ夢物語じゃないですか・・。」
「いや、そうでもないんだが・・。」
「ですけど、ギヤマンですよね?アレって私でも知っているくらいの珍しい品ですよ?
それを自在に作るって・・・。無理がありすぎますよ。」
「・・・まぁ、確かにすぐには無理だが・・、方法は知っているからそう難しくはないぞ?」
「え、方法知ってるんですか?若様!」
「あ、あぁ。何をおどろいているのか知らんが、知っておるぞ?」
「はぁ〜、本当に物知りですよね、若様。凄すぎてついていけない時がありますよ・・・」
「おいおい・・・、単に知っているだけだからな?
作ったこともないし。」
「知っているだけで、十分なんですけどね・・。普通の方はそんなこと、知りもしませんから。」
「あーー、まぁいい。とりあえず、次に作りたいのは工房だ、工房。」
「工房って・・・刀か鎧かでも作るんですか・・?」
「いや?金銀銅鉄、あとは炭に陶器だな。」
「・・・・え。ちょっと、めちゃくちゃ作りすぎじゃないですか?!そんなにも作れませんって!」
「あー、・・まぁ、とりあえずは鉄と炭がメイン・・もとい主だ。
鉄と銅、炭がこの3つが、ここの要だからな。」
「あー、確かに。特に銅とかかなり使ってますもんね・・・」
「そうだ。だから早いうちに仕入れ先を確保する必要がある。
特に鉱山を。」
「うーん、鉱山ですか・・・。尾張にはありませんものねぇ・・」
「あぁ、そこが問題なんだよなぁ・・・。いや、まぁその分金はあるから悪くはないんだがな。」
「銅、銅、・・・近場だと、どこかありますかね・・?」
「あー、・・・確か津具鉱山があったような気がする・・」
「津具?どこです?それ。」
「確か三河だったと、思う。いや、美濃だったかな?・・・まぁ、その境界あたりのはずだ。」
「曖昧ですねぇ。まぁ、大殿に聞けばわかるでしょう。
あの方なら、その程度のこと知ってるでしょうし」
「え?どうだろう、知らないと思うが・・・」
・・・・・・・
俺たちは、生駒と千秋たちを集め、出来上がった風呂で会談をおこなった。
「どうだ?この風呂は。なかなか良いだろう?」
「ほぉ・・確かにすごいですねぇ・・。これが毎日のように入れるんですか?」
「あぁ、少なくとも、湯に変えるのに炭や薪はいらんな。
炭擬きを熱源に、水を湯になるまで温めるわけだ。
そして、この炭擬きは大体数週間は使える。今使っている炭擬きも、すでに二週間以上は使っている物だぞ?」
「ほぉ・・、それはなかなかに素晴らしいですな。
これがもっと増えれば、それこそ百姓でも毎日風呂に入れる生活ができそうです。」
「増やせればそうなるだろうな。
だが、まだまだ増やすのには問題があってな。そのことを話したくて呼んだのだ」
「はぁそれはそれは・・、で、問題というのは?
我々で解決できる問題なのでしょうか?」
「できるな。まぁ、要は鉄と銅が足りなくなるかもしれんというだけのことだしな。」
「なるほど。仕入れの問題、というわけですな?
値と、あとは量ですかな?」
「そうだな。正直なところ、鉱山を俺たちで持てれば1番良いのだが・・・
流石に、遠くてな。津具鉱山あたりが最適だとは勝三郎と考えたのだが・・・、あそこは三河だろう?」
「津具、鉱山ですか・・。すみません、寡聞にして存じませんね」
「私も、聞いたことがありませんな・・」
「あぁ、そうなのか?確か、奥三河の菅沼辺りが領有していた場所だと思うんだが・・・。」
「奥三河・・・、なるほど、知らないはずです。」
「菅沼、と言えば、確か今は今川に臣従しているのでは?」
「なるほど。となると今川の領地というわけですか・・。
奥三河ともなると、多少勝っても織田の領地にするのは困難しょうなぁ」
「あぁ、だから困っているのだ。
少なくとも松平は取り込まねばならん。
そして、領有できたとしても、こちらのもので固めねばならん。
絶対に取られてはならん場所になる。」
「奥三河・・奥三河ですか・・・。」
「場所が場所だけにな。
せめて今川の領有でなく、松平が支配してくれていれば交渉もできたのだが・・。」
「今川が相手では、難しいですな。
そして、その価値に気づかれてしまえば・・・」
「逆に、というわけだな。」
「えぇ。他にはないのですか?
私が知るのも甲斐の鉱山くらいのもので、あまりその辺りを知らぬのです」
「あとは、飛騨のあたりだな。
あの辺りは鉱物資源が豊富だ。金も銅も色々あるぞ?」
「ほぉ、と、興味が出ますが、飛騨ともなると、流石に・・・」
「またしても山奥。それも今度は美濃越えですか。」
「こればかりはな、どうにもならん。」
「はー・・、ですな。とすると、やはり商売で手に入れるほかありますまい。」
「あぁ、だからその方らを呼んだのだ。」
「また、厄介ごとですなぁ。はははははは」
「ですな。またしても厄介ごとです。はははははは」
何やら、生駒と千秋との間で謎のシンパシーが生まれているようだったが、突っ込むと面倒そうなのでやめた。
そうして、風呂の時間はすぎ、
生駒と千秋たちは、畿内や美濃飛騨へと手を伸ばし、銅や鉄などを買い漁ることになる。




