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聖人:織田信長録  作者: 斎藤 恋
元服前:吉法師

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第11話:打ち明け話

~古渡城~



「親父、来たぞ」



親父のいる部屋に入ると、俺はそう声を掛ける。



「おいおい、どこでそんな言葉を覚えてきたのだ。母が聞けば怒るぞ」



そう言いながらも、俺の言葉遣いを否定はしない。

本当にいい親父殿だ。



「知らん。母が俺のことで色々思い悩んでることは知ってる。

しかし、俺がそれに対してあれこれ悩んでどうするのだ。なるようにしかならん。」




「くくく、なかなか思い切りがいいな。」



「ふん。それよりだ。これから熱田に行こうと思うのだが、親父も来るか?」



「これからか?」



「あぁ、そうだ。確か熱田の者と仲が良かったよな?」



「おいおい……、熱田は今のわしらの祭神だぞ?

仲がいいも何もあるまいに。」



「それは知ってる。だが、そういうとではない。

熱田のものと仲良くしたいだけだよ。色々と。」



「ふむ…、まぁよかろ。

準備するから、少し待ってろ」



そう言って、親父は出かける準備を始め、俺は城前まで戻った。



・・・・・・



古渡城から熱田神宮までは、本当に近い。

歩いても精々が1時間くらいだろう。


いや、もっと早いかな?

まぁ、そのくらい近いわけだ。



それと、現代の熱田神宮の場所とは違い、

今の時代の熱田神宮は、すぐ目の前が海だ。



だからこそ、と言ってもいいが、この辺りの海運を担う大手財閥のような存在だ。

それを支配していた織田弾正中家がどれほどの財力だったかが想像できるだろう。



織田弾正中家は、ここに加えて津島も支配界のおいている財閥を複数支配する大家だ。

今川家と尾張半国で対抗できているのもこれが要因である。



農本主義から脱しきれておらず、さらに京からも遠い今川家が対抗できるようなものではないのだ。





~すこし解説~


現代では、武田・上杉・北条・今川。

この辺りは大国として評価されていると思う


でも、実際のところ、畿内からは田舎として無視されていた。


なぜか?


簡単。

人がいなくて、貨幣の流通量も低く、

且つ、技術・文化・娯楽、あらゆる面で発展や進歩といったものが遅れていたからである。



農業技術に関してもそう。

農業一本でやっている地域なのに、農業の技術で畿内より遅れている地域なのだ。



関東あたりでも、そんな評価である。

これが、東北なら、


「何それ、秘境?」


と言った塩梅である。


本当に、単位面積あたりに住む人間の数が段違いなのだ。

畿内では争いも多いが、逆に言えば、その分多様性があるとも言える。


技術発展が早いのだ。

三毛作も、湿田から乾田への移行も畿内がはやかったわけだな。



また、京都に公家という存在がいたのも意味がある。

公家たちは、文化や娯楽、知識の伝搬に一役買っていた。


だからこそ、地方では珍重されたのだ。

まぁ、大内あたりでは、それ以外の意味もあったろうけどな。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「で、熱田のものに会いたいと言ったな?」



「おう」



「まあ、そのうちに合わせるつもりであったから、

会うのはいいが、何をするのだ?」



「とりあえずは、千秋の者への顔見せだな。

あとは、海を見たい。」



「ほぉ、海に興味があるのか?」



「あぁ、海とは広いのだろう?

大きい塩水の水たまりが広がっていると聞いた」



「そうだな。確かに、海はいいな。

俺もこんな立場でなければ、船に乗ってあちこちへと行きたいものだ。」



「行けばいいだろう。」



「はははは、無理だ無理だ。そんなことをすれば、伊勢守家あたりが黙ってはいまいよ。

帰ってくる頃には家無しだ。」



「全部、潰して支配してしまえばよかろう」



「若いな。それができんから、俺はこんなところで燻っているんだよ」



「なんとでも、なると思うが…」



「ほぉ、何か案があるのか?」



「親父もやっていることだ。銭だよ。」



「む…?」



「わからんか?家が大々的に商人たちの長になれば良いのだ。


そうして、あやつらには酒なり菓子なりを売りつける。要は美食というやつだな

得た利は、武具や傭兵を雇うのにつぎ込むのだ。」



「ほう、しかし、酒や菓子なぞ、今でも売られておるだろう?

別に、わしらが商人をまとめんでも変わらんのではないか?


そもそも、津島や堺では商人たちが己らでまとまっておるだろう。

それの上に立つのではダメなのか?」



「ダメだな。」


「なぜだ?」



「あ奴らは利でしか動かん。それも目先の利だ。

俺たちは、目先ではなく十年百年の利で動く。」



「ほぉ!言葉だけはたいそうだが、具体的な案はあるのか?」



「考えてることは色々ある。昨日は、生駒の所の者とも話した。」


「そうなのか、それは知らなかったな」


「む、まだ親父には伝わってなかったか。

なら、先に言っておく。


よく使われている白粉だが、あれには毒がある。」



「何?!それは誠か?」



「嘘をついてどうする。まぁ、証などない。

が、説明しておくなら、鉛が毒になるのだ。」



「あぁ、確か鉛白で作られた物だったか…」



「そうだ。それと石鹸というものについても話した。」



「せっけん?」



「あぁ。ムクロジや灰で身体を洗うだろう?」



「そうだな」



「それよりもっと効果があるものだ。匂いも消せる」



「親父もそろそろ加齢臭がする頃じゃないのか?」



「かれいしゅう?なんだそれは」



「加齢、つまり年寄りの匂いということだ。」



「なんだとっ、こいつめっ。はははは」



「こら、やめろ親父!落ちるだろ!」



「その時は拾ってやる。というか、お前がそんなことを言うからだろうが」



「むぅ、まあいい。」



親父にぐちゃぐちゃにされた服や髪型を直し、再度、馬を進める。



「それ以外にもある。

例えば、稼いだ銭で他国から奴隷を買う。


そして、その奴隷たちを使い、尾張各地の川を整備する。

尾張湿田を全て、乾田にするのだ。」



「乾田なぁ…。確かに効果はあるのだろが…。

流石に尾張全てとなると、途方もないぜにと時間がかかるぞ。」



「あぁ、わかってる。

だからまずは、近場からやる。


まぁ、これは時間をかけてやるつもりだ。」



「流石にそれはなぁ…」



「あぁ。

あとは、真珠を養殖したり、塩の生産量を上げたり、

船を作ったり、鉄をもっと作ったり、粗銅から金銀の抽出もあるだろ、

それ以外にも……」



「…っ…待て待て待て。いくつか聞き捨てならんことがあったぞ?」



「真珠だ?なぜ真珠なんだ?というか、あれ作れるのか?

それに塩についてもそうだが、粗銅から金銀を取る?どうやってだ?と言うかとれるものなのか?」



「あぁ。できるらしいぞ?」



「らしいってお前……。誰に聞いたんだ、そんな話。」



親父がここで確信をついてくる。

(ま、ここいらで話す方が手っ取り早いよなぁ)



「さてな?と言いたいが、俺にもわからん。」



「わからんってお前」



「わからんが、わかることもある。

神か仏か、はたまた妖か。俺は妖寄りのものだとは思ってる

母御は俺のことを化け物か何かだと思っていたろう?」



「……ぃや、それは…」



「いい、わかってる。

それにな、あながち間違いとも言い切れん。」


「…どう言うことだ?」


親父は、俺の言葉に、真剣な表情になった。

(刀の上に手をかけている以上、下手なことを言えば斬られるかもしれないな)



「俺にはな、前世とやらの記憶がある。」



「はぁ?前世?」



「まぁ、馬鹿げた話だと言うのはわかってる。

だが、こんな話、親父でもなければせん」



「……そうか。……はぁ、まぁいい、言ってみろ」



「この体になってからの最初の記憶は生まれて、二歳になってからだな。

一歳の頃のこともうっすらとは覚えているが、曖昧だ。


生まれたばかりの頃の赤子は目がほとんど見えないらしいからな。仕方ないだろう」



「…んー、つまり、お前はどこぞで妖に憑かれたわけじゃなく、生まれた時からお前はお前ってことか?」



「?まぁ、そうだな」



「はぁ、そっか、ならいい。んで、続きは?

というか、前世のこと話せよ」



「そうだな。

前世の俺は、まぁ、色々やってたな。

織田とは関わりがなかった。


歴史が好きで、昔のことについてよく調べてたな。

若い頃は医者ではないが、医に関わるような仕事をしてた。


だが、同僚と揉めてなぁ、腕を切られて辞めざるを得なくなってな。

蝦夷にまで行った。」



「ほぉ。なら医に関することには詳しいのか?

んで、蝦夷?そんなとこまで行ったのか!すげぇな」



「今よりは行きやすかったぞ?馬よりも速い乗り物があったしな。

だが、まぁそれよりも、だ。


俺の最期なんだがな……」



「あぁ、そうか、前世ってことは転生してんだもんなお前。

あ、ってことは、お前、もしかして俺より年上か?!」



「おい、輪廻転生はみんなしていることだろう。

仏教ではそう言う教えだったはずだ。


つまり、俺は親父の息子なんだから、親父より年下に決まってるだろう」



「いやいや、無理があるだろ。くくくくく、ということはあれか?

お前、赤ん坊の頃のあれ、演技だったのか?」


そう言いながら、親父は大爆笑。


「う、うるさい!俺だって必死だったんだよ!!

赤ん坊の体で殺されたり、放り出されたりしたら大変だろうが!」



「へぇ〜ほぉ〜?」

そういって、ニヤニヤ笑いながら顔を近づけてくる親父にイラついた。



「と・に・か・く!

俺の最期についてだ。」



「くくくく、へいへいわかったよ」



「っとにもう…

俺の最期は、殺し合って死んだ。以上」



「て、散々引っ張といてそれかよ。」



「あぁ。しかも、家の中だ。

ついでに言うと、相手は人間じゃない。単なる獣でもない」



「あん?どう言うことだ?」



「化け物だ。雪に埋もれて出られなくなった俺の家の中に、いきなり化け物が落ちてきた。」



「ばけ、って、雪に埋もれた?扉が雪で開けられなくなったとかそう言うことか?」



「いや?二階建てだったんだがな。上の方まですっぽり埋もれてた。

あと、俺が知っているのは、その化け物が俺の知らない生き物で、襲ってきたってことだな。

今の親父の身体よりデカくて、変な伸びてくる指みたいなのがいっぱいついてた。


何しても全然効かなくて、最期に相手の体の奥に見えた光る玉?みたいなのに特攻して果てた。」



「………っぷははははは!へぇ、そうかい、そんなバケモンと戦って死んだのか。」



「あぁ、もっと手元に武器になるものがあればと思ったよ、あの時は。

というか、狭い室内だったからな。下がることさえできなかった。」



「はぁ、そりゃ辛いな。んで?そのあとは?」



「気づいたら、俺になってた。」



前世の話を終え、親父はいくらか噛み締めるように前を向いて進んでいた。

正直、信じられないことだらけだし、信じなくてもまぁいいか、くらいの感じで話した。


思った以上に話を聞いてくれたことだけで十分嬉しかったと言うのもある。



(前世じゃ、家族なんていなかったしな…)


こうして親父と話したような記憶もない俺には、前世の話を馬鹿話としてでも聞いてくれたと言うだけで本当に嬉しかったのだ。




「よしっ!吉、お前、さっきの以外にもやりたいことまだまだあんだろ?

政秀の奴らにも言っておくから、何したらいいのかいえ。


てか、三左衛門のやつをもっと使えよ。俺の確認はいちいち取らなくていいから」



「っ?いいのか?というか、信じてくれたのか?」



「ん?嘘じゃねぇだろ?というか、お前もいっただろうが、輪廻転生ってのはみんながやってることなんだろ?

お前はたまたま、その化け物と戦った功績なりで、記憶を残してくれたんだろさ。閻魔様がな。それだけだろ?」



「っ」



(あ〜やばい、めっちゃきた。ぐらっっときた。涙出そう。)


「クソ親父がっ…;;」



「はいはい。赤ん坊見てーに泣くなよ。」



「っないてない。」



「いや、泣いてるだろ。」



「もう拭いたから泣いてない」



「泣いてるっていってるようなもんじゃねーか。。」





そうこうやりとりをして、時間を潰しつつゆっくりと熱田神宮へと向かっていった。


ちなみに、護衛たちも距離を空けてだが周囲にいた。

まぁ、何を話しているかはわからない程度の音量で話していたので、内容についてはさっぱりだろうが。

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