[第6記]人はいつも五感に頼る
ジャリンッ…!ガッ…ガキャッ
「なかなか強いな。」
「ふふ…アンタも意外としぶといね?」
「当然。総帥から授かった力だからな。」
ブワァッ
ザヤは何度も男に対して攻撃を仕掛けるが、その度に謎の力によって防がれてしまう。
「…無駄だ。オレの能力にはお前の力はあまりに相性が悪いようだな。」
シュゴォッ…バシッ…
「無駄だと言っている」
「…ふむ」
ザヤは静かに息を吐いた後、後ろに走り出した。
「はは…逃走か。無理もない」
「防御一点の力持っといて何イキッてるんやろな」
ザヤが振り返り男を煽る。
「ふっ…そうかそうか」
パァン!
男が指で銃の形を作ったと思ったその瞬間、ザヤの手に鋭い衝撃が走った。
「…ぐっ…!?」
「すまないね。防御一点で」
「はっ…!ほんといけずなお人や…!」
ザヤが再び背を向けて走り始める。
「馬鹿め…」
男が指で銃を作りザヤに向ける。
バシュッ…パァン
ザヤが小鎌を振って不可視の攻撃を弾く。
バシュ…パァン
「お返しや」
ブワァ…バシッ
男に小鎌が近づくが、またもや減速して弾かれる。
「当たらないな。」
「もっかいやったるわ」
ブワァ…バシッ…
ブワァ…バシッ…
「馬鹿の一つ覚えだな。」
「ふふっ、お馬鹿さんはどっちやろな」
ザヤが余裕の笑みで首をかしげる。
「お前のほうだな。周りを見てみろ。さっきまでお前を守っていた木は無くなりこんなに開けた丘に来てしまったようだ。」
「…せやなぁ。なーんもないなぁ。」
パァン
「いった…」
シュンシュン…バシッ…
ザヤは後退しながら鎖を振り回し弾を防ぐ。
「お前の呪いは道具類を操ることだろう?ただ手を使わないとまともに操作できないらしいな?」
男は攻撃を続けながら話しかける。
「うんうん…半分正解…やね。」
「半分…?」
「アンタの能力は『見えない水』を作るような力やろ?粘度の高い水を自分にまとわせて防御したり、それ飛ばして攻撃したり…ってとこやな」
「なっ…」
男の攻撃が止まった。
「おっ、ドンピシャ?」
「黙れ!分かったから何だって言うんだ!?お前のような近接では強さを発揮できない呪いではまったく歯が立たない!残念だったな!」
「そやね…『遊びも飽きた』し…そろそろ25%ぐらいの力出しちゃおかな」
「ふっ、そんなに大口叩いて…」
ヒュッ
瞬きした次の瞬間、男の腕には鎌の傷が付いた。
「は…?速すぎる…認識できない…」
「うち環境破壊したくなくてなぁ。さすがに音速でこんな広範囲切り刻まれたら木ぃも可哀想やろ?」
「音速…!?」
「アンタの水のバリアのせいでそこそこのスピードを持った攻撃も水中のように減速してまう…なら簡単や。水の抵抗より速く切りゃええねん」
「可能なのか…!?」
「答え合わせしよか。別に手を使わんでも道具は操作できる。なんならうちは操ってへん。あくまで道具が勝手に動いてるだけや。」
「…どうゆうことだ」
「…それは閻魔様と一緒に考えてみぃや」
ザヤが男に小鎌を投げる。
「くっ…!」
「……………あれ、」
男が目を開けると、鎖で胴が拘束されていた。
「貴重な情報源殺すわけないやろ。アホか」
「…てなわけで、受能隊?の1人がうちのこと覗いてきたから捕まえたで」
「起こされたと思えばそんなことが…すまない」
「え?こいつザヤのこと覗いたの?キモ」
「後は好きに尋問せぇ…うちは眠いから寝る…」
「わかった…ありがとう…」
「名前はなんていうんだ?」
「…ニックだ」
「俺はオペだ。政府軍について知りたい」
「何が知りたい?教えるとは限らねぇが」
「お前は幹部なのか?」
「…違う。その上に位置する受能隊だ」
「受能隊?」
「ロダー様から直々に力を授かった能力者だ」
「なっ……」
「なるほどね。政府軍のやつらがあんな弱いのになんで民衆が心配しないのか疑問だったんだ。」
シズが木に寄りかかり腕を組んでつぶやく。
「はっ、言ってくれるじゃねぇか」
「で、どうなんだ?こいつは強かったのか?」
サディがザヤに聞く。
「…あんまし強ない」
ザヤが横になったまま眠たげに答える。
「…そりゃそうだろうな。オレは受能隊ではトップのほうだが、あいつらには遠く及ばない」
「あいつら?」
「受能者の中でも実力が上の4人…『レガリオ』の奴らさ。他の受能者より飛び抜けて強いらしい」
「らしい…戦ったことはないのな」
「会ったことはあるが…オーラが違うな。」
「なるほど…最終的にはそいつらを全員倒す必要がありそうだな。じゃないとロダーにはたどり着けん」
「あんたらマジでうちのボス倒そうとしてんのか?」
「もちろんだ。俺が世界を変える」
「ハ…ハハ…ハ…イカれてるな」
「とりあえず俺らは寝るよ。お前も寝な」
「あぁ…そうだな…」
ニックは少し震えて横になった。
「………………」
バサッ…
オペがジャケットを脱ぎ、ニックにかける。
「…人間は体毛ないから寒いんだろ。やるよ」
「……あ、ありがとよ…」
4人とニックは静かに眠りについた。
―翌日
「なぁ、ニックの仲間はどこにいるんだ?1人でこの島に来たわけではないだろう?」
「いや、オレはわりと強めの方だと思われてたっぽくてな。いったん戻るって言ってたよ」
「ん…おはよ」
シズが起きると、浜辺でオペとニックが話していた。しかしニックの拘束は解かれている。
「あれ、拘束解いたの?」
「イカれた夢を聞いたらオレも見たくなっちまってな。あんたらについていくよ。」
「そうなんだ。それはよかった」
「なぁなぁ、救援が来たぞ。はよう乗るで」
「分かった」
全員で飛行機に乗り込む。
「…ザヤさん、こいつ政府軍では?」
飛行機には2人の戦闘班員がいた。
「せやねんけどな。オペが説得して仲間にしてん」
「それはすごい。目的地はルネルで良いんですよね?」
「おう、たのむで」
フィィィン…
しばらくして飛行機が着陸する。
「…着いたみたいやね」
「よし…ここに機密情報が」
トタッ…
ザヤが飛行機から飛び降りて両手を広げる。
「おいでませ〜都会の象徴ルネルへ!」
「高層ビルが多いな」
「ルネルは他より発展しとるからなぁ」
「さて、さっそく行こう」
「ちょい待ち。ちょっと遊ぼうや」
「…まぁいいが」
「やりぃー」
ガコォン!
「うわっ…またスペアだ…」
「オペはんボウリング下手やね!手本見せたる!」
ガコォォン
「うっし!ストライクや!」
ガコォォン
隣のレーンのピンが大量に倒れる。
「悪いね。ボクもボウリングは得意なのさ」
「シズちんやるやん。」
「ボクたちがボウリング王者だね」
ガコォォン
さらに隣のレーンからストライクの音がなる。
「オレもガキのときにめっちゃやってたんだぜ?」
「ニックもやるじゃないか。勝負しようよ」
「良いけど何か賭けようぜ?」
「じゃあたい焼き奢りでどうや?」
「望むところだよ」
「いいぜ」
サクッ…
「いやぁー!たい焼きがいっちゃん好きや〜!とくに人の金で食う」
幸せそうな顔でザヤがたい焼きを頬張る。
「破格の安さだね。この美味しさでさ」
「くそっ…俺が負けるなんて…!」
「ニック…元気出せって!」
サディが元気づける。どうやらたい焼きはニックの奢りになったようだ。
「同点だったけど次は負けん」
「いいの?自分から負けにくるとはね」
「いつか絶対に決着付けよな」
「そうだね。ちゃんとボクが勝たないと」
そうして遊んだあと、5人はSIMルネル支部に向かう。長い間遊んだからか、高層ビルの窓は既に夕日をうつし始めていた。
「楽しかったなぁ。あ、そこのビルや。」
ガチャ…
「お待ちしておりました…なぜ予定よりこんなに遅れたのですか?」
「あーボウリングやっててん。すまんな」
「は?ボウリング?遅刻しといて?」
「すまへん」
「あ…いえいえ…言葉遣いが荒くなってしまい申し訳ないです。」
「で、機密情報ってのはどこや?」
「はい。地下にございます」
「さっそく見たい。」
「かしこまりました。こちらへ。」
「ほな一旦バイバイや。うちはまだ事務作業が残っとるからな。余ってる部屋とパソコンくれん?」
「はい。あちらにございます。」
「…情報は後で伝えるよ」
「はいはーい。ほなな。」
ザヤはこちらを見ずに手を振った。
「ここから地下に降りればいいのか?」
「はい。」
カン…カン…カン…
ガチャ…
鉄網で出来た足場を渡り厳重な扉を開けようとしたその瞬間、警報がなり響いた。
ジリリリリリリリリリ!!
「なんだ!?」
「政府の機密情報が盗まれたようです!」
ボガァァァァァァン…
扉が爆発した。中には人がいる。
「おい!貴様!機密情報の紙を手放せ!」
「ではそなたはその命を手放すがよい。おぉ。これで同価値。取引というものではないか?」
封筒をヒラヒラさせながら現れたのは全身を黒い服に包んだ褐色肌で赤髪の女。ニット帽には政府軍のマークが付いている。襟付きのパーカーに片手を突っ込んでいる。
「…レガリオだ」
後ろからその女を見たニックが小声で伝える。
「なぜレガリオがここにいる?」
オペが小声でニックに話す。
「多分…最重要情報なんだと思う…」
「…ならここで退くわけにはいかないな」
オペが女の方へ歩いていく。
「正気か!?死ぬぞ!」
「おい、お前レガリオらしいな。その情報がいるんだ。渡してくれないか?」
「なんじゃ?わらわのことを知っておるのか?すまぬのぉ…そなたの顔には覚えがない」
「俺はSIMの総司令…オペロジャックだ」
その言葉を聞いた瞬間、女が顔色を変える。
「ほう…?じゃあそなたを殺せば我が御仁は安心ということじゃな?」
「やってみろ…」
「わらわの名は『エウロパ』じゃ。惜しみなく力を使わせて貰うぞ?」
封筒をポケットにしまい、両手を構える。
パン…
「剥核。」
エウロパが手を合わせた。
「………?何が起きた?」
「ではこの娘から殺すとしようかの?」
エウロパはサディの方へ歩いていき、サディの喉元にナイフを突きつける。
「サディ!」
「え…?」
サディが横を見回す。
「……いないぞ?どこだ?」
「は…?」
「オペさん、何を言っているんですか?」
サディの横にいる案内人が言う。
「見えてないのか…?」
「シーッ…」
エウロパはゆっくりと口の前で人差し指を立て、いたずらにナイフでサディの首をなぞる。
「…いっ…!?」
「どうしたんです?サディさん」
「…いや…虫が…」
「エウロパぁぁ!」
オペが叫ぶ。
「ひゃっひゃ!愉快じゃ!そなたしかわらわを認識出来ぬとは…なんとも愚かな…」
ドコォッ
サディが腕を振り、そしてエウロパの胸に当たった。
「…ま、認識できん相手への攻撃などこんなものよな。痛くもかゆくもないわ」
ドンッ
エウロパがサディを両手で突き飛ばす。
「ぐっ…なんだ…!?どこにいる…!?」
サディが周りを見渡す。
「間抜けじゃのう…まるで…」
ケタケタと笑うエウロパの背後から鎌が襲う。
ヴォンッ…
「…さすがにレガリオが不意打ちは喰らわないよね」
鎌が振られ、白い毛並みが揺れる。
「シズ!あいつが見えるのか!」
「ほう…興味深いのぉ」
エウロパが歩く。シズはそれを目で追った。
「ひゃっひゃっ、本当に見えておるわ。」
「…当然でしょ?」
シズが挑発する。エウロパは目を見開いた。
「…なんと!そなたも耳ではないのか!」
「耳?なんのこと?」
「いや?なんでもない。始めるとするかの?」
「レガリオ…お前をぶっ飛ばして情報貰うからな」
「オペ。行くよ。」
「ああ。」
オペとシズは前へ向きなおり、武器を強く握った。