【プロローグ】身近なヒーロー
「はぁ〜っ…」
リビングで1人の少女がため息を漏らした。
レポート用紙に両手を添え、ふてぶてしく愚痴をこぼす。
「ったく…『身近なヒーロー』なんていう抽象的なお題で短編小説を書け…だぁ?めんどくさ…」
そんな少女に、男が話しかける。
「ハハハ、身近なヒーローか。お前の学校は毎度面白いテーマの課題を出してくるね。」
「もう…パパ、これのどこが面白いの?私想像力ないし…小説とか無理だわ」
少女が反論する。
「私たちのことを書けば良いんじゃない?ねえお父さん。」
少女の母がキッチンから提案する。
少女はおもむろに顔をしかめて、
「勘弁してよママ…きついわ」
「いや、そうでもないぞ」
少女の父が口を挟む。父は続けて…
「私とお母さんは…昔…そうだな、10年ほど前にちょっとした活動をしていてな。その内容はなかなか濃いぞ。短編なんかじゃ収まりきらない。」
と言い放った。
「はは、なに?世界を変えてました〜とか?」
からかい混じりに少女が言った。
少女の父と母は少し顔を見合わせ、ニコッと笑って少女に向かって頷いた。
「まぁ…ざっくり言うとそうだ。」
少女は父と母の顔を交互に見て、しばらくして
「……え、まじ?」
「まじ。」
「あぁ、まじだ。」
父と母が同時に答える。
少女が唾を飲み込み、自室に入る。クッションを持ってリビングに戻ってくると、メモ用紙とペンを持ち、
「一応…聞いてみる…ことにする」
と言った。
父はコーヒーを持ってきて、少女の前に座る。
母も父の横に座り、話を聞く姿勢になる。
「では話し始めよう。これは私たち獣人のような、普通の人間とは異なる者が迫害されていた頃の…」
「ちょっ、ちょっと待って!」
「どうした?」
「獣人って私とかパパとか…ママとかのことでしょ?え、昔私たちって差別されてたの?」
「そうだ。今こそ平和に、共存してるがな。」
「………ごめん。続けて。」
「…私たちが迫害されていた頃、世界はたった1つの国として統一されていた。迫害や差別は、その1つの国のトップが原因で起こっていたんだ。」
コーヒーを少し飲むと、父は話を続けた。
「世界を牛耳る組織と、私たち差別される側が己の『天稟』を守るための戦い…そうだな…」
「天稟ディファイエンス…とでも言おうか」
少女はペンを強く握りなおした。