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外伝② 「兄・達也の視点」
──消える前夜
夜の川辺は静かだった。
霧がゆっくりと川面を覆い、月明かりをぼんやりと隠している。
俺はここに立ち尽くし、遠くの町の灯りを見つめていた。
町は変わりつつある。
水の流れも、空気も、すべてが少しずつ異質になっていく。
あの日、姉の妹――美波に会った。
彼女の瞳には、俺と同じ“記憶の重さ”が宿っていた。
水の中に囁く声が聞こえた。
“戻ってこい”と、何度も呼んでいる。
怖かった。
でも、怖いだけじゃなかった。
俺は知っていた。
この川の底に、もう一つの“世界”があることを。
そして、自分はそこへ行かねばならないことを。
兄弟よ、待っていてくれ。
俺は帰る――けれど、それは“消えること”かもしれない。
霧が深くなり、俺の足元の水が揺れた。
「もう、逃げられない」
俺はゆっくりと水の中へと歩みを進めた。
――終わり。
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