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外伝① 「早苗の視点」
──霧の中の声
霧はいつも私を呼んでいた。
幼い頃から、その声だけはどこか違って聞こえた。
“来てほしい”のか、
“忘れてほしい”のか、
あるいは“戻ってきてほしい”のか。
私はその呼び声に従った。
霧の中を歩き、記憶の狭間を漂い、声を送る者となった。
私が見たのは、形のない人々の影。
記憶の欠片を手繰り寄せ、凍りついた感情を溶かし、
水の三態の狭間で揺れ動く魂たちだった。
私は何度も叫んだ。
「ここにいるよ」と。
だが彼らは私の声に答えず、ただ水の流れに身を任せて消えていった。
それでも、私はここにいる。
霧と水の狭間で、声を失わないために。
――終わり。
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