Rewind This!
「巻き戻すってのはどうだ」
「巻き戻す?ってどういう?」
倒すこともできない。回復するのも簡単じゃない。
今起きてる状況に俺の力が介入しようがないのなら、その状況をより大きく捉えてしまえばいい。
言わば原状復帰。
雑費として他所に払っていた聖魔力を返金させて、元締めの封印に充てるというものだ。魔力の性質だ圧力だなんて関係ない、事象そのままを巻き戻す大作戦。
とはいえ、直前まで施されていた悪魔の封印作業が無かったことになるとか、直近まで封印していた他の敵が復活してしまうこともあるだろう。それでもフィクサーの布武が無くなればその後の武力交渉も十二分に楽になるんじゃなかろうか。
「その2人がもらった傷とか、失った魔力が元通り返ってくれば、封印には事足りるんじゃないのか」
「……なるほど」
「ちなみに封印作業ってのは段階が必要なものなのか?巻き戻ることで順序が狂って御破算ってことになるかも知れない」
「私の知る限りでは魔法式は一つのプロセスに完結していたわ。そこに聖魔力を当て込むだけ」
「素晴らしい。それなら力が戻りつつ現存する魔力でどうにか封印できるだろうな」
「巻き戻ったら、この決戦の間で封印してきた魔物が復活してしまう。それまでに終わらせれば良いと…」
「勿論そうだ。ただ直近の封印が解けても、元締めが居なくなれば悪魔の支配も自ずと消えると思ってな。違うか?」
「合ってるわ。確かにこの作戦は現行魔法体系では流石に出来ないし、結果的に聖魔力の補填にもつながる」
「褒めても良いんだぞ?」なんて言ってみたら、アリシアはウンウンと軽く頷いた。褒めてるってこと?それは…?
まぁ、こんなことは俯瞰で見たら誰でも思いつけるなんてことないものだ。当事者だから思い至らなかっただけの話。
現行理論に当てはまらない。
リソースが足りない。
絵空事すぎて笑うてまう。
無知が故にってやつだ。
「アルケミストの1人で、それに近い魔術の研究してた人がいたけど、それでもとんでもない魔力量を必要としてた」
さっきの現社の特別講義でも少し言っていたが、アルケミストって魔法研究者の総称のことだったっけ。
「おお素晴らしい。その人の考えを引っ張ってきて、良い感じに出来ないか?」
「良い感じって…。ちなみにその人は研究成果ごと消えてなくなったわ」
「…殺したのか?」
「その一帯全部が立ち戻って、更地に帰ったのよ」
「赤ちゃんになったとか?」
「フッ…周りの土が瓦礫が元に戻ってね。それに埋もれて死んだわ」
おぅ、なるほど。
「その人の研究テーマが歴史的遺産の修繕で、無機物にスポットして古代魔術を主に取り入れた魔法式を組んだのよ」
「素晴らしい研究テーマじゃないか。惜しい人を亡くしたもんだな」
「そうね。結果として悪魔たちのために古代魔術時代の祭壇を復活させたのだから」
あぁ…敵だったのね。
「人間相手では危ういだろうか?」
「あなたのその魔力量で奇跡を願えば、聞き届けられるかも知れない。というかそれしかない」
……なんか、奇跡を願うとか言われると違和感がすごいが、そこを言い寄っても埒があかない。
「じゃあ、決まりだな。」
長い会議の末、ようやく話に句点がついた。
「巻き戻して欲しいのはハーク・トレマスとマリエラ・エル・ピレーネの2人よ」
「名前を言われたって分からんよ」
「赤毛短髪の青年と黒髪が腰まである女の子の2人、まぁ封印魔法の衝撃でおおよそ分かると思う。それで、その目の前にいるのが悪魔ヴェルザンディよ」
「なるほど…」
「間違っても彼女を回復させないでよね」
「ああ、分かってる…。彼女?」
「そう、少女のような見た目をしてるだけで、性別も年齢も関係ない。悪魔に情けはかけないで」
「そこは大丈夫だ。俺は女と子供には強いからな」
「……。今一瞬、あなたのクズさが垣間見えたわ」