大それた事を
「ライゾパーク……、ネットニュース……」と、アリシアさんはぶつぶつと言葉を反復している。
「ライダー……」「ライターです」
そして一拍置いた後、「マジェスフィアから…じゃないんですか…?」と更に不安そうな顔を見せて、俺に聞いてくる。
マジェスフィア……。他の言葉もそうだが…いや、後で考えよう。
「そんな分かりやすくマジェスティックな響きのところからは来てないですねぇ。ワタシはチキュウってワクセイの、ニッポンっていうとこからキマシタ。」
「チキュウ……そちらの魔法体系は一体どんな…」「あ、ひとつ言うと、俺は魔法について全く知らないです。」
「え…?でも私を回復してくださったのは…」
Oh…やっぱり俺が魔法を使ったのか。
「もしさっきのが俺の力によるものだったとしたら、それは本当にたまたま偶然で、まぐれな奇跡でしかない。あくまで貴方のことを案じただけでね、そっちの魔法かなんかで治せるんじゃないかなって思ってさ。大精霊とか言うくらいだし」
「…じゃあその魔力量はなんだっていうんですか?」
「え、なんか分かる?」
「他と比べ物にならないほどの…およそ人間1人が抱えて良い魔力量じゃありませんよ…!」
Oh…なんか嬉しいねぇ。
「すまないが本当に知らない…。ここに来て身体が弾むくらい元気にはなったけど、これがそもそも何なのか、この余力をどう使えば良いのかもまったく分からない。」
「そんな……」と、アリシアさんは下唇を噛んで、瞳を下に向け涙を蓄える。誰もが彼女は絶望してると見て取れるだろう。
無垢な世界に可哀想な時間が流れた。
多分無理な気もするが、一応聞いてみる。
「これってチェンジとか出来ないの?」
「出来ません……」食い気味だった。
「…なんか……ごめんね。こんな何も知らないおじさんが来ちゃって」
「謝らないでください……」
……。
とっ、とはいえこのままでは埒が開かない。
「ちなみにここがどこか分かる?」
と隣でしゃがみ込んで寄り添うように俺は聞いた。
「…ここは高界域の魔法を発動した時、稀に一瞬だけ開く“ベール”と呼ばれる、言わば亜空のようなもので…。でもこんなに長い時間居られる場所じゃない。ましてやその中で動いて魔力まで行使できるのは聞いたこともない。」
「なるほど…」さっぱりだ。
ただ、魔力云々の話で言えば、この世界もおそらく俺がなんやかんやで顕現させているんだろう。
続けて「…召喚魔法を使ったの……。助けて欲しくてっ…」と詰まりながらそう答えた。
「貴方を?」
「……世界を」
アリシアさんは大それた事を言った。
はぁ……やめてくれ。
この俺を誰だと思ってる。
怨恨でもって刺し殺される男だぞ。命をかけて呼ぶような価値すらない。
ましてや世界を救う救世主だとか、悪しき魔王を討つ勇者だとか、そんな役割は俺にとって全然似つかわしくない。
もっとも、“世界”というものは人が己の主観で定めた区間の総合で、要は人間関係の最大単位。どこまで発展しても、結局人の気持ちで如何様にも変わる。粘土のようなものだ。
そこを事情も分からないおっさんが急に現れて捏ねくり回すことになれば、問題がもっと拗れるのは必然だろう。
本当にやめた方がいい。
…あぁ、マジェスフィアってお隣さんに助を打診してたのか。そりゃ失敬。
だけど…はぁ……。
呼ばれてしまったからには、
息を吹き返してもらったからには、
さわりを聞くだけで既に面白そうなところにご招待頂いたからには、やる他ない。
俺の長い沈黙を受け、彼女の脚は痺れて横に崩れる。
「詳しく聞かせてほしいな。世界を助けてってどういうこと?」
肩を落としたアリシアさんに、外で起きている事態について訴えてもらった。