傷だらけの女神
……そう、眼前およそ4m先にいるのだ。
膝立ちの女性が向かい合わせで俺を見つめている。
同じタイミングで亡くなってしまった異邦人なのか、彼女は何とも周りでは見かけない格好で且つ、とても鬼気迫った形相をしている。
貴女は北欧美人な容姿をしており、ブルネットの髪は肩まで一本おさげさんといったところ。
首に巻かれたスカーフは淡い緑のタータンチェック。そこに血反吐がペタリと貼られている。膝下まで伸びたコートは、ダブルのボタンでピチッと決まっているし、全体が真っ黒に焼け焦げてもいる。
そして何より、顔や手など、見える肌身はひどく傷だらけだった。
ダメージ系コスプレにしてはなかなか良い線だと思うが、ハロウィーンはもうちょい先なんじゃない?っていう言葉を送るのは流石に場違いそうなので、内に留めておこう。
そんな彼女は俺を唖然と見つめていたが、おもむろに口を開いて「大精霊様であられますか?」と、か細い声でそう言った。
「だいせぃ……あぁ」なるほど、そういう感じ?
何となく察しがついたよ。
神や仏じゃなく、そんなファンタジーが最初に出るってことはあれだね。
巷でよく聞く「異世界転生」ってやつね。
ドル箱コンテンツね。
いくつか読んで書評を書いたら、ファンにブチギレられてしまったやつだね。あれは怖かった……。
続けて彼女は今にも事切れそうな息遣いで、
「どうして、そんなに血だらけなのでしょうか?」と俺の身体を案じてくれた。
奇跡的な復活を遂げたこのワタクシにとっては、こんなもん服の汚れでしかない。
「いやぁ、まぁ、流行りでね。気にしないでください。そういう貴方こそ、どうなされたんですか?」
と俺は案じ返した。
その問いに彼女は応えようとしたが「それは……うっ!」と話し始めた言葉を押し退けてゴボッ!!ゴボォっと喀血してしまった。
白い地面に赤が撥ねる。
肩を窄めて左手を首元に、口に右手をあてがう彼女。押さえても口と手の隙間から、指の間から、血が漏れゆく。動静脈両方から出て混ざったマーブルは、落ちた頃には一色の血びたしに。
そんな5秒間だった。
「ちょちょちょちょっ!とりあえずヒール的なやつでもして治りなって。話はそれからよ」と駆け寄って俺は背中をさすった。
大精霊だなんだってことなら、魔法だってあるだろう。もう痛々しくて見ていられないから、自分でどうにか癒してもらいたい。
すると次の瞬間、翡翠色の光が彼女の周りをふんわり取り囲む。そしてシュルシュルと音立てながら、瞬く間にあらゆる傷が癒えていく。
「「うそ……」」
翡翠光は10秒弱ほど続いた後にふわっと消えた。さっきの俺と同じように、また彼女も自身をまさぐって傷を探している。
びっくりだ。
おぉ、俺がやったのか?だとしたら……。
魔法じゃん!!やばっ!
魔法じゃんっ!!!!!
ということは、やっぱりファイヤー撃てんじゃん!
ファイヤーサンダー撃てんじゃん!
……まぁ、撃たないけどさ。
熱そうだし。
改めて俺は「改めまして、名前を聞いても?」と伺ってみる。
「え…あぁ」と彼女は腿に手を置き、踵に腰掛けて自己紹介を始めた。
「私は、アリシア・ロンド・ブラウズと申します。」
「アリシアさんだね。よろし……」
「ハイダラヤ王国直属マグリット騎士団に1級魔法士として所属しており……」
あぁ、もうそこはどうでもいいな。
「ポーチャード領第4区長ブラウズ伯の娘で、母は……」
そこまでは聞いてない。
「界種はサモンクラスタ、通常で第7界域までの魔法を……」
新出単語のオンパレードだ……!
「はい、もういいですよー。ありがとうございまーす」と流石に制止させた。たぶん、初詣でよく見る参拝長い系の人なんでしょうね。言っていることの10割も分からなかった。
「よろしくね、アリシアさん」
「はい……」と返した彼女の眉はまだ不安な角度を保ったままだ。
「じゃあ今度は私の番ですね」と、アリシアさんの言葉を引き取って、俺も丁寧な自己紹介を始める。
「私は相楽洋七と言いまして、前世?ではランチャーっていうネットニュースのライターをやってました。東京都新宿区大久保八丁目4ー8ライゾパーク205号室に住んでて、相楽慎也ときみ子の息子です。これと言って資格はないですね……あ、原付免許なら持ってるけど?」
出来るだけ丁寧に伝えた。
挿絵ですが、今回は試験的に載せていますので毎話差込む事はございません。
アリシアさんの細かな容姿は、アリシア・ヴィキャンデルをイメージしてもらえると分かりやすいです。
だいぶモデルとかけ離れていますので、もちろん挿絵は修正予定です。
相楽の容姿は…と思ったんですが、あとがきには画像が載せれないのか。
1話目に差し込めるように作ります。
どことなく草彅剛と野村萬斎の中間を理想としてます。